ネオ・フォルクローレ・シーンを牽引するピアニスト、ノラ・サルモリアの新作

 心の赴くまま音楽ははじまり、音に導かれるままに鍵盤は弾かれる。いつもそんな想像をしてしまうほどに彼女の演奏は天真爛漫かつ開放感があり、とても“決めごと”とは思えないものがある。鍵盤を弾く度光のような虹のような鮮やかな煌めきが溢れだすのだ。

 95年のデビューから、ソロだけでなくジャズ・トリオや室内楽的編成など様々なスタイルで南米音楽の再構築を追求してきた作曲家/ピアニストでありネオ・フォルクローレ・シーンの先駆者ノラ・サルモリア。そんな彼女から届いた新作はなんと今回ピアノ弾き語りをメインにした2作品だ。

NORA SARMORIA Tres Libros Independent(2016)

NORA SARMORIA Fueguitos Independent(2016)

 どちらもオリジナル曲を中心に、自身のピアノと歌を中心とした小編成のアレンジによるものでリラックスした雰囲気となっている。とくに「少年少女のためのカンシオン集 0から100まで」と副題された『Tres Libros』は伝統リズムを用いながらもシンプルな構成と親しみ易いりメロディによりこどもも楽しめる可愛らしい内容となっている。

『Tres Libros』収録曲“La Maravilla”
 

 そして日本語で「小さな火」を意味する『Fueguitos』は前作の系譜にある作品といえ5や7の変拍子に乗り色とりどりのコードが次々と現れるのが楽しく、不協和音や彼女ならではの大胆な転調を駆使した先の読めない展開がスリリング。M-3ではなんと日本語詞が飛び出したりも! さらに自作曲10曲の譜面付というのもピアノ・ファンにとっては嬉しいもの。

『Fueguitos』収録曲“Consejos de un Arbol”
 

 どちらの作品もこれまで以上に不思議で楽しく、音楽的豊かさに溢れている。知識などなくても聴くものを幸福にする力があり、理由はわからなくても楽しいと思わせる魅力がある。ノラ・サルモリアというピアニストは特別な存在なのだと、改めて思う。