ユパンキの魂を継ぐ孤高のギター、伝説のソンコ・マージュ最新スタジオ録音盤
東京郊外の駅前には、よくペルーの民族衣装を纏って“コンドルは飛んで行く”を奏でている人達がいた。郷愁を誘う旋律はあまりに日常化して、それが〈フォルクローレ〉の印象だった。一方で10代から20代にかけて、ソウル・フラワー・ユニオンから篠田昌已周辺の音楽に出会い、そこに立ち上る強烈なメロディの作者としてチリの歌手、ヴィクトル・ハラの名前を知る。その美しく力強いメロディはフォルクローレというものの印象を180度転換させた。フォルクローレは民衆の生活や平和への祈りの音楽であり、それはどっしりと大地に根差していながら、地球の裏側の郊外で日常に溶け込み、アンダーグラウンドから見つめ直された。
アルゼンチンの国民的歌手アタウアルパ・ユパンキは生涯を通じてたった一人弟子をとった。それはやはり地球の裏側、日本は栃木のソンコ・マージュこと荒川義男。元々優れたギター奏者だった彼がユパンキと出会い、その愛用するギターとソンコ・マージュという名前をもらい、生涯をフォルクローレに捧げることとなった。
五木寛之や野坂昭如などの文学者が敬愛を寄せただけあって彼の音楽は孤高である。流行に乗ることを彼は受け入れなかった。ただ師の意志を受け継ぎギターを弾き、歌い続け、84歳を迎えた今、彼のギターと声は一層鋭さを増している。例えば友川カズキや遠藤賢司のような、深い情念が凄味となったあの感じに似ているが、彼が奏でるのは徹底してフォルクローレだ。
本作のプロデュースはシカゴの名門ドラッグシティの裏看板であり、海外でも熱狂的支持を得ていたサイケデリック・ロックバンドGhost、そして現在はthe Silenceを率いる馬頭將器。その馬頭が選んだのは数々の日本のアンダーグラウンド名盤を生んだGOKサウンドでのアナログ録音。ギターと声には何も足し引きされず、生々しく迫る。それは他でもないソンコ・マージュの魂なのである。