新作のコンセプトは「想像上の日本の遠い記憶のように感じられるもの」
衝撃的な大統領選の翌日、デヴェンドラ・バンハートは〈Impeach(弾劾せよ)〉と手書きしたTシャツで登場。幼い日々を過ごした母の祖国ウルグアイとの二重国籍なので「あの国に戻ろうかな」と米国脱出を口にしながら、「この状況から奇妙で美しいものが生まれるかも」とも語った。予想される困難な時代におけるアーティストの重要な役割を心得ているようだ。
デヴェの3年ぶりの新作『エイプ・イン・ピンク・マーブル』は、前作『MALA』のサウンドを引き継ぐ美しく穏やかなアルバム。そのコンセプトを尋ねると、「想像上の日本のように感じられるものを作ろう」と考えたというからおもしろい。ボサノヴァが聞こえてきても、それは日本のホテル内で流れているような「ボサノヴァの複写」だというのだ。「でも、それは危険でもあった。僕らは日本が大好きだからね。そこで日本の音楽そのものに聞こえてはいけないというルールを課した。その視点を失わないようにね」。確かに今回は筝まで使われているのだが、日本人奏者ではなく、自分たちで調弦から試行錯誤して用いた。
彼は年中好天のLAに住むにもかかわらず、雨の降る数曲がある。それは心情を反映した涙雨かも。というのは、喪失や哀悼の感覚が随所に発見できるからだ。「この制作中に、実の父をはじめ、親しい人が何人も亡くなった。“ミドル・ネームズ”はとても若くして亡くなったすごく親しい友人についての曲だ。死を知る前に書いたんだけどね。衝撃を受け、否定し、怒り、折り合いをつけ、憂鬱になり、受け入れる。そうした哀悼の過程が反映したと思うけど、決して直接的にではないよ。“哀悼者の踊り”にしても、哀悼の部分より踊りの部分について考えていた。だから、このレコードは彼らの死についてではない。その一部として織り込まれ、雰囲気に少し反映しているけどもね」。
まるでチェット・ベイカーのような“リンダ”では、〈私は孤独な女〉と女性に扮して歌う。「アルバム・タイトルの〈ピンクの大理石の中の猿〉とも関係するね。その意味は2つのエネルギー――光と闇とか、男性的と女性的とか――を調和させること、バランスをとることだ。女性のキャラクターとして歌うのは、自分の中にある女性的な部分から、もっと洗練されてデリケートな場所から歌うということでもあるんだ」。
彼には女性的な歌唱も自然なことだが、マッチョな気質の国では、それに抵抗を覚えたり、不快に思う人も少なくない。「南米の音楽にはボサノヴァのように優しくデリケートな歌の伝統があるけど、合衆国の音楽は攻撃的で押し付けるようなものが多い。選ばれてしまった大統領なんて、まさにそんな男だよね」。
LIVE INFORMATION
『Devendra Banhart ビルボードライブ公演』
○2017年4/20(木) 1st 19:30 開演/2nd 21:30開演
会場:ビルボードライブ東京
○2017年4/22(土) 1st 16:30 開演/2nd 19:30開演
会場:ビルボードライブ大阪
www.billboard-live.com