80年代、USインディー・シーンのなかで、孤高の存在感を放っていたスワンズ。バンドは97年に一旦解散するものの、フロントマンのマイケル・ジラは自主レーベル、ヤング・ゴッドを立ちあげて、デヴェンドラ・バンハートやアクロン/ファミリーといった強烈な個性を持った新人を発掘するなど、スワンズの血はUSインディーの地下水脈を流れ続けてきた。そうした若い才能から刺激を受けたこともあってか、ジラは2010年にスワンズを再結成させる。それ以降、バンドはヤング・ゴッドを拠点にコンスタントに活動を続けてきたが、新作『トゥ・ビー・カインド』はイギリスのレーベル、ミュートと契約を交わして、バンドは新たな一歩を踏み出した。
プロデュースはマイケル・ジラ。レコーディングはホームグラウンドのNYを離れて、テキサスのエルパソ郊外にあるソニック・ランチ・スタジオで行われた。前作『The seer』にはヤー・ヤー・ヤーズのカレン・Oがゲストで華を添えていたが、今回は素晴らしい新作をリリースしたばかりのセイント・ヴィンセントがコーラスでアルバム全編に参加。さらに彼女のアルバムを手掛けてきたジョン・コングルトンが、レコーディングを担当しているのが目を惹くところだ。とはいえ、スワンズのサウンドに揺るぎはない。反復するプリミティブなビートやへヴィーなギター・ノイズはバンドの重要なエッセンスだが、かつては音と感情を極限まで圧縮することで暴力性を剥き出しにしていたのに比べて、今は混沌としたエネルギーを削ぎ落すことなく重厚な音響空間を緻密に構築していく。コングルトンのサポートで音のエッジの鋭さや立体感が増すなか、ジラの歌声はマントラを唱えるようでもあり、バンド・サウンドにはどこか秘儀めいたスピリチュアルな雰囲気が漂っている。アルバム2枚組というヴォリュームに渡って微塵の弛みもなく展開されていく唯一無二のサウンドスケープは、ハードコアなダンディズムに貫かれていて、今のスワンズは神々しいまでに美しい。