2021年よりバンド体制になったcolormal(カラーマル)のヴォーカル/ギター担当イエナガと、自身のソロ・ユニットmeiyoの他に、侍文化SAM4416POLLYANNA、HGYM、プールと銃口といったバンド・ユニットにも在籍し、数々のアーティストのサポートや楽曲提供も行うワタナベタカシの二人による連載〈今月のイエナベ!〉。東西を代表するインディー・アーティストの雄でもあり、友人同士でもある二人が、その月(今回は2021年5月)に聴いて良かった音楽を3曲ずつ、〈イエでナベでも食べながら報告しあう〉ように紹介する連載です。それではお二人、張り切ってどうぞ~!

★colormalイエナガとmeiyoワタナベタカシの〈今月のイエナベ!〉記事一覧

 


plums “ナンバー”

イエナガ(colormal)「北海道は小樽発のバンド。〈孤独は自由だ〉と高らかに歌われる、最新アルバムの一曲ですが、ざらついたギターを靡かせながら息が切れるまで走り切るようなメロディーが気持ちいい。スケールの大きなリヴァーブ感から、ともすれば昨今のシューゲイザーをJ-Popに昇華させたアーティストたちと並べられそうですが、圧倒的にヒロイン性のあるヴォーカルの声質がそうはさせない。しかしながら、どうして北海道というのはこうもいいバンドばかり出てくるのでしょうか……」

ワタナベ(meiyo)「つい最近、北海道のバンドは北海道特有の音が鳴ってて、それがたまらない……みたいな話をしている場に居合わせたばっかりだったので個人的にタイムリーでびっくり。でっけえコード進行最高! そしてヴォーカルの声質、本当に凄いねこれ。系統で括ると低体温側に属するような印象だけど、曲も相まって熱というか、感情が見え隠れする声で。優勝!!!」

 

ごいちー “スペクトル”

ワタナベ「さて! 早速の手前味噌で恐縮ですが、5月19日に僕が作詞で参加したこの曲が収録されたごいちーのCD『週末メリーゴーランド』が発売されました! みんな買ってね! 聴いてね!

作曲はクマロボさん、編曲は宮野弦士という布陣。作詞作曲は結構やってきたけど、人が作った曲に歌詞だけを載っけるというのは初めてだったので気合い入れて挑みました。特に緻密に練ったCメロの歌詞は、元々オケやメロが持っていた効果をそのまま歌詞にしたような形になっています。

〈フワフワ浮かんだ=M7がフワっと上がっていくコード進行〉
〈ギモンがひとつひとつとけてくように=コード進行的にも解決に向かっていく……と思いきや〉
〈この想いさえも=m7-5(複雑な響き、複雑な想い)〉
〈とかしてくれるかな=希望に満ちた転調に向かうツーファイブの動き〉
といった感じで……全解説! 野暮だけど、説明しないと誰も気付いてくれないもんね~」

イエナガ「コード進行に対して歌詞って自然に呼び起こされるよね。共感覚なのか分からないけど、ワタナベくんの解説を聴きながら深く頷いてしまいました。例えばm7-5のコードは、そのコード単体では着地できないもどかしい構成の音なんですが、その響き故に不安を吐露する単語や文節が自然と来てしまいがちで。歌詞のストーリーが校庭から校舎の中を巡って、〈仰げば尊し〉で卒業していくストーリー性も素敵。ロマンチストやね」

 

Superfriends “Million miles apart”

イエナガ「結成15年を控える京都のパワー・ポップ・レジェンドと名高いバンド。楽曲自体は5年以上前からコンピレーション・アルバムへの収録等がなされていましたが、今だからこそ胸を打つ歌詞とメロディー。高い山を登るように、深い海に潜るように心の中へ近づきたいけれど、僕らは離ればなれ。いつかあらゆる制限のなくなったライブハウスで歌いたい、大名曲だと思います」

ワタナベ「多幸感溢れるホーンと共に歌う〈パーパ パパパッパー〉というフレーズ。小さな会場でも、想像も出来ないぐらい大きな会場でも、等しいスケール感で鳴り響くであろう、素敵な曲! ささやかな幸せを大きく歌うことで大きな不安を掻き消そうとしてるような。そんなイメージを音から感じました」

 

Awesome City Club ”勿忘”

ワタナベ「映画『花束みたいな恋をした』のインスパイア・ソングとして作られた楽曲。ボーカルギターのatagiさんは、前回の記事でもちょろっと名前を上げさせてもらったキングヌラリヒョンというバンドのアタギさん! 僕が大好きだった当時のバンド・ライブハウス・イベントの界隈で活動していた方がこうしてメジャー第一線で活躍していることが嬉しくて、勝手に親近感を抱いていました。

この曲は、atagiさんが影響を受けている音楽家の永野亮さんが作曲・アレンジで関わっているそう。ちなみに永野さんもAPOGEEというバンドで15年以上も前から最先端な音楽を奏でていて、なんなら当時の曲が今年リリースされても〈新しい!〉って言われそうなほど。現在は音楽作家としても第一線で活躍しているとんでもない才能の持ち主です。

……と、そんな裏側を知ると、“勿忘”もまた全然違う聴こえ方をしてくるから不思議です。最初にTikTokで聴いたときは〈メジャーっぽい音!〉と感じたけど、実は聴けば聴くほど、素朴で、ひねくれていて、人間らしさと愛にあふれていました」

イエナガ「Awesome City Club自体は“4月のマーチ”(2015年)の頃から聴いていたんですが、シティ・ポップ・ブームの先駆け的な存在だった頃を考えると、背景も含めてしみじみと聞き入ってしまう名曲ですね。ドラムにサチュレーションが掛かった音色のなかで淡々と進んでいくようで、それこそメジャーっぽさはあるんだけど、忌憚なく言ってしまえばメンバーが直近で2名脱退していることの喪失感がこの楽曲の端々から感ぜられて。APOGEEの永野さんのプロデュースもその切なさを包み込むようなストリングスをはじめとして、上手くマッチしていますよね」

 

enuosi  “ダストマンセッション”

イエナガ「僕が初めて曲を作ったのは高校3年生で、当時はiPhoneに直接ギターを録音するハード・コアなスタイルで宅録をしていました。作った楽曲をSoundCloudにアップロードしていたあの頃、最も憧れたアーティストであるエヌオシが遂にサブスク解禁されたのでご紹介を。デスクトップ・ミュージックにしか許されていない極限まで詰め込まれたドラムスとけたたましいギター、這うようにダウナーなヴォーカル。どうしようもないほどにルーツです」

ワタナベ「ワシが高校3年生の頃はiPhoneなんてなかったぞ? おかしいな……とまあ僕はイエナガより少しおじさんなのですが、その少しの世代間で噛み合わない文化があるのかなと思っていて。僕からしたらSoundCloudは気軽に楽曲を公開しておけるサービスでしかなかったのですが、僕より少しだけ下の世代はSoundCloudにコミュニティ的な要素を見出していたようで、微妙に仲間に入れなかったんですよね。悔しい! 今回もまたイエナガのルーツを少し知れて嬉しい」

 

アナログフィッシュ ”僕ったら”

ワタナベ「……イエナガばっかり音楽ルーツ紹介しててずるい! 羨ましい! ということで今回は僕のルーツも紹介させて貰おうかなと思います。アナログフィッシュのメジャー・ファースト・アルバム『KISS』から“僕ったら”です。

特にサビなんですが、もはや説明が出来ないぐらい独創的で、だけど最高に美しくて。こんなコード進行聴いたこともないし、この世のどの曲にも似てないメロディーなのに、驚くほど心の深くに入り込んでくる感覚。歌詞も、余すところなく情けなくて、脳の〈この辺〉がギュっとなっちゃう。こんな曲が1曲でも作れたら…って、この曲に出会ってから毎日考えてます」

イエナガ「ワタナベくんの〈平日19時台アニメED担当〉的なメロディー・センスのルーツが気になっていた僕は、このチョイスにとても納得しました。先月僕が紹介したGRAPEVINEとアナログフィッシュは一緒にツアーを回ったりするほど仲が良いようなので、偶然だけどシンパシーを感じましたね。00年台のバンドって朴訥なメイン・リフから風呂敷を広げるのが上手い人たちが多くて、改めて襟を正された気持ちでこんな曲を作りたいと思いました」

 

そしてこの後、先日惜しくも解散した赤い公園についての〈イエナベ〉番外編を掲載! 通常編の次回は7月頭に公開予定! お楽しみに!

 


LIVE INFORMATION

shinjukuSAMURAI 5th Anniversary「グデイとタカシ」
2021年06月10日(木)東京・新宿SAMURAI
出演:ワタナベタカシ、グデイ
開場/開演:17:15/17:45
https://tiget.net/events/132189

林青空 全国ツアー『出航日和』
2021年6月19日(土)大阪・Music Club JANUS
出演:林青空、colormal
開場/開演:16:30/17:00
https://land-f.jp/shows/2971/

calm presents"Lucky for Some"
2021年7月18日(日)大阪・心斎橋ANIMA
出演:愛はズボーン、Subway Daydream、(夜と)SAMPO、colormal、LADY FLASH、Jam Fuzz Kid、ベルマインツ
開場/開演:TBA/TBA
https://liveanima.jp/?event=calm-presents-lucky-for-some