連載

【西山瞳の鋼鉄のジャズ女】第38回 〈ブラック・メタル=ヤバいもの〉という伝説を作ったバンド、メイヘム(Mayhem)を描いた映画「ロード・オブ・カオス」!!

メタラーのジャズ・ピアニストによるHR/HM連載

ジャズ・ピアニストでありながらメタル・ファンとしても知られる西山瞳さんによる連載〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉。今回は、ブラック・メタルの黎明期、その王になろうとしたユーロニモスと彼のバンド、メイヘムの物語である映画「ロード・オブ・カオス」を取り上げます。メタル・ファンでもブラック・メタルは通ってこなかったという西山さん……いかがでしょうか……? 映画「ロード・オブ・カオス」は3月26日よりシネマート新宿、シネマート心斎橋ほかでロードショー。以降順次公開予定です! *Mikiki編集部

★西山瞳の“鋼鉄のジャズ女”記事一覧

 


3月26日から、映画「ロード・オブ・カオス」が公開になります。

ヘヴィ・トリップ/俺たち崖っぷち北欧メタル!」や「スパイナル・タップ」など、近年は楽しいメタル映画の日本劇場公開が続きましたし、「ボヘミアン・ラプソディ」や「ロケットマン」といった音楽映画の世界的大ヒットも記憶に新しい中、かなりヤバいものが公開になります。

これは、メタルの中でも〈ブラック・メタル〉――メタルのサブ・ジャンルの中でも非常にディープなジャンルーーの映画で、その代名詞となったバンド、メイヘム(Mayhem)にまつわる実話に基づいた話。「ブラック・メタルの血塗られた歴史」という原作本があり、私は未読のまましばらく見かけなくなっていましたが、3月24日に復刊するそうです。

マイケル・モイニハン,ディーデリック・ソーデリンド,島田陽子 『ロード・オブ・カオス ブラック・メタルの血塗られた歴史』 ele-king books/Pヴァイン(2021)

楽しくほろ苦い青春バンド物語とは全く違う、非常に危うい話ではあるのですが、これが映画として制作され公開されることは、メタル史的にとても大きな事件かもしれません。

こちらのMikikiでは、普段ほとんどヘヴィメタルの記事がない中、ジャズ・ピアニストの私がなぜかメタル連載を続けているわけですが、今までの話題はどうにかしてジャズと絡めて記事を書いていたわけですけども、流石にブラック・メタル、メイヘムは、ジャズと絡めようがありません。そして、私もブラック・メタルに関しては高校時代からあまり興味がなかった分野で、メタル一般教養以上には聴いていないのです。

ブラック・メタルの代表例。イモータル(Immortal)の“The Call Of The Wintermoon”

 

この連載の中でも何度となく書いてきましたが、私のメタル・モチヴェーションは〈ギター・ヒーローが好き〉、〈ヴォーカルのハイトーンが好き〉がまず第一にあり、音楽的な面だけ見ると一般的にブラック・メタルというジャンルの音楽は、目立ったギター・ソロもヴォーカルのハイトーンも、ほとんどないんですよ。

音色の選定も、他のヘヴィメタルのギターと比べると、音楽的に高い技術で当人の美学を徹底するというよりも、〈いかに極悪で攻撃的で世間からヤバいと思われる音にするか〉を目指していて、目標設定が全く違うところにあるような印象を受けます。そしてトレモロ奏法が多く、メロディックなラインを弾くことに重きを置いていないので、私のメタル・ギター好きアンテナにはあまり引っ掛からず、ほとんど聴いていませんでした。それから、私は様式美系の構築されたものが好きだったので、ブラック・メタルは〈どこからどこまでが1コーラスなのかわからない〉という問題がありました。そう、聴いていないのは、ほぼ〈分からないから〉という理由でした。

 

しかし、メイヘムにまつわる様々な話はあまりにも有名なので、知識としては知っています。映画の紹介より引用しますが、

彼らは、サタニズム(悪魔崇拝主義)を標榜し、過激なライヴパフォーマンスとコープスペイント(死化粧)で世界のメタル・シーンを席捲。同時に、バンドリーダーのユーロニモスは、“誰が一番邪悪か”を競い合うアンダーグラウンド集団「インナーサークル」を結成。活動は過激化し、放火、暴動、果ては複数の殺人事件まで引き起こし、社会問題に発展した。

〈ブラック・メタル=ヤバいもの〉という伝説を作ったバンド、それがメイヘムだと。このメイへムのファースト・アルバム『De Mysteriis Dom Sathanas』ができるまでの話が映画になっています。

 

監督のジョナス・アカーランドの作品は、Netflix配信の映画「ポーラー 狙われた暗殺者」のみ既に観ていました。これが本当に変な映画で、俳優マッツ・ミケルセンがいかにセクシーかということにフォーカスしているようで、全ての瞬間のマッツの色気がやばかったという印象が脳に固着しています。それから、話のテンポ感とか暴力の描写がすごく嫌〜な感じで、全体の色の鮮烈さというか毒々しさや、音楽の使い方も微妙に狂っていて、変にインパクトのある映画でした。

この監督、元々ブラック・メタルの始祖的なバンドのドラマーだったんですね。なるほど、大半のバンド映画がバンドを良くも悪くも〈聖域〉のように見ているものが多い中、「ロード・オブ・カオス」では、バンド内の繊細なパワー・バランスや心理状況などが非常にリアルでヒリヒリしていて、内側から見た生々しさに溢れていました。さすが当事者です。

「ヘヴィ・トリップ」や「スパイナル・タップ」のような青春バンド物語的なのは一瞬だけで、開始15分過ぎからもう不穏な話になってきます。R18+指定なのですが、それにしてもリアルで酷な描写がわりと長い時間あるので、なかなか観るのに気力と体力が要りました。

若者が虚勢を張ってイキり合戦をした結果、暴走して止められなくなる。誰しも過去にイキって後で一人で後悔することなんていくらでもありますから、映画内でやっていることはとんでもない犯罪ではあるけど、イキりが止められないということは沢山の人に少しは身に覚えがある感覚。しかも主人公ユーロニモス役の俳優ロリー・カルキンの眼がとってもピュアで澄んでいて、状況がどんどんエスカレートしていく中でもずっとピュアで繊細で、どこかビクついているのも感じる眼差しなので、これがとても他人事に感じられない心理的な近さもあります。やってることは全然ダメですよ、もっと極悪非道な変なミュージシャンというイメージだったのに、こんな繊細で弱いからこそイキる若者の姿を見せられたら、ねえ。

映画の中ほどあたりで、“Funeral Fog”という曲が演奏されますが、これがメイヘムのファースト・アルバム『De Mysteriis Dom Sathanas』の曲です。ブラック・メタルに縁遠かった私は、知識としてのみ知っていたこのアルバム。映画を観た後に改めて聴くと、今まで遠く感じていたブラック・メタルが随分近い存在として、身体感を持って聞こえてくるようになりました。〈どこからどこまでが1コーラスなのかわからない〉と書きましたが、そういうことを考えなくて良くなったというか。

映画の描写はR18+指定で色々と辛いところもありましたが、観る前と観た後で違う自分になれていたら、それはもう素晴らしい映画だったということでしょう。今週公開です。予習でどんな音楽か知っておきたかったら、この一枚はぜひ聴かれると良いと思います。


MOVIE INFORMATION
映画「ロード・オブ・カオス」
原題:LORDS OF CHAOS
原作:『ロード・オブ・カオス ブラック・メタルの血塗られた歴史』(著:マイケル・モイニハン、ディードリック・ソーデリンド)
監督・脚本:ジョナス・アカーランド
音楽:シガー・ロス
出演:ロリー・カルキン 、エモリー・コーエン 、 ジャック ・キルマー 、 スカイ・フェレイラ 、 ヴォルター・スカルスガルド
配給:AMGエンタテインメント、SPACE SHOWER FILMS
2018年/イギリス・スウェーデン・ノルウェー/117分/R18+
(C)2018 Fox Vice Films Holdings, LLC and VICE Media LLC
オフィシャルサイト:https://lordsofchaos.jp/

 


西山瞳LIVE INFORMATION

4月4日(日)兵庫・神戸gallery zing(電話078-413-4888)
デュオ(西山瞳、鈴木孝紀(クラリネット))

4月10日(土)東京・池袋Apple Jump(電話03-5950-0689)
ソロ(Enrico Pieranunzi曲集)

4月16日(金)東京・小岩COCHI(電話03-3671-1288)
デュオ(西山瞳、maiko(ヴァイオリン))

4月17日(土・昼)東京・池袋Apple Jump(電話03-5950-0689)
デュオ(西山瞳、牧山純子(ヴァイオリン))

詳細はhttp://hitominishiyama.net/

 

RELEASE INFORMATION

東かおる、西山瞳『フェイシス』発売中!
2013年作『Travels』に続く、東かおる(ヴォーカル)・西山瞳(ピアノ)共同名義作品の2作目がリリース決定。前作同様、市野元彦(ギター)、橋爪亮督(サックス)、西嶋徹(ベース)という、日本のコンテンポラリー・ジャズ・シーンの最重要メンバーで録音。詳細はこちら

東かおる,西山瞳 『フェイシス』 MEANTONE RECORDS(2020)

東かおる、西山瞳『フェイシス』トレイラー動画
 

PROFILE:西山瞳

1979年11月17日生まれ。6歳よりクラシック・ピアノを学び、18歳でジャズに転向。大阪音楽大学短期大学部音楽科音楽専攻ピアノコース・ジャズクラス在学中より、演奏活動を開始する。卒業後、エンリコ・ピエラヌンツィに傾倒。2004年、自主制作アルバム『I'm Missing You』を発表。ヨーロッパ・ジャズ・ファンを中心に話題を呼び、5か月後には全国発売となる。2005年、横濱ジャズ・プロムナード・ジャズ・コンペティションにおいて、自己のトリオでグランプリを受賞。2006年、スウェーデンにて現地ミュージシャンとのトリオでレコーディング、『Cubium』をSpice Of Life(アミューズ)よりリリースし、デビューする。2007年には、日本人リーダーとして初めてストックホルム・ジャズ・フェスティバルに招聘され、そのパフォーマンスが翌日現地メディアに取り上げられるなど大好評を得る。

以降2枚のスウェーデン録音作品をリリース。2008年に自己のバンドで録音したアルバム『parallax』では、スイングジャーナル誌日本ジャズ賞にノミネートされる。2010年、インターナショナル・ソングライティング・コンペティション(アメリカ)で、全世界約15,000エントリーの中から自作曲“Unfolding Universe”がジャズ部門で3位を受賞。コンポーザーとして世界的な評価を得た。2011年発表『Music In You』では、タワーレコード・ジャズ総合チャート1位、HMV総合2位にランクイン。CDジャーナル誌2011年のベストディスクに選出されるなど、芸術作品として重厚な力作であると高い評価を得る。2014年には自己のレギュラー・トリオ、西山瞳トリオ・パララックス名義での2作目『シフト』を発表。好評を受け、アナログでもリリースする。2015年には、ヘヴィメタルの名曲をカヴァーしたアルバム『New Heritage Of Real Heavy Metal』をリリース。マーティ・フリードマン(ギター)、キコ・ルーレイロ(ギター)、YOUNG GUITAR誌などから絶賛コメントを得て、発売前よりメタル・ジャズ両面から話題になり、すべての主要CDショップでランキング1位を獲得。ジャンルを超えたベストセラーとなっている。同作は『II』(2016年)、『III』(2019年)と3部作としてシリーズ化。2019年4月には『extra edition』(2019年)もリリース。

自己のプロジェクトの他に、東かおる(ヴォーカル)とのヴォーカル・プロジェクト、安ヵ川大樹(ベース)とのユニット、ビッグ・バンドへの作品提供など、幅広く活動。横濱ジャズ・プロムナードをはじめ、全国のジャズ・フェスティヴァルやイヴェント、ライヴハウスなどで演奏。オリジナル曲は、高い作曲能力による緻密な構成とポップさの共存した、ジャンルを超えた独自の音楽を形成し、幅広い音楽ファンから支持されている。

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