劇伴の旗手が放つ、“10年代”の交響曲

 大ヒット映画の数々から現在放送中のTVドラマ『東京タラレバ娘』等、劇伴音楽の第一線で活躍する人気作曲家の菅野祐悟が初めて書き上げた交響曲。昨年4月にザ・シンフォニーホールで行われたその世界初演の模様がライヴ・レコーディング盤として登場した。

 「約2年前に、関西フィルの指揮者である藤岡幸夫さんに交響曲を書くのを勧められて、じゃあ先ずコンセプトをどうしようかと考えて、旅をしたりいろいろと観たり聴いたりしたのだけれど、なかなか決まらない。それで悩んでいたある日、面白い夢を見たのがきっかけで、人間って現実社会ではいろんなことに縛られて生きているけれど、夢の中では無意識の状態…そんな何にも囚われていないコアな自分を知ることで生まれるものがあるのでは? と思うようになった。それで1年程自分で夢日記をつけて、そういうのに詳しい友人に夢分析とかをしてもらっているうちに、夢と現実、意識と無意識、その“境界線”とかを、いっそ作品のテーマにすればいいんじゃないかって…」

藤岡幸夫,関西フィルハーモニー管弦楽団 菅野祐悟:交響曲第1番~The Border~ コロムビア(2017)

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 こうして生まれた『第1番~The Border~』は伝統的な4楽章形式で書かれた“10年代”の交響曲。

 「もっと自由でいいんじゃないの? って云われそうだけれど、自分としては敢えて(同じ土俵にのるのは畏れ多いが)ベートーヴェンブラームスと真っ向勝負するつもりで書いた。フォーマットの縛りこそあるが、今回はしがらみのない純粋なパッションに従って、自由な発想で作曲作業ができたと思います」

 各楽章にはそれぞれ英語で副題が付けられている。

 「第1楽章は〈探究〉であり、ちょうど内面世界に飛び込んだところ。次の第2楽章は〈夢〉との対話で、まさに夢分析の途中。第3楽章〈回想〉では、何にも縛られずただ好きでピアノを弾いていた幼い頃の無垢な自分と出会う。そうやって自らを再発見して第4楽章は〈希望〉と共に新しいスタートをきるイメージ」

 流れだけを聞くと明解だが、4つの楽章を関連させつつ、随所に驚きに満ちたドラマティックな展開が待ち受けている。特に美しい主題が心に染み入る第3楽章は、このまま映像作品のサントラに使用できそうだ。

 「実は既にドラマ『カインとアベル』の中で、第3楽章を始め、結構使われています。監督がクラシック音楽好きな方で気に入ってもらえて」

 バレンタイン・コンサートでは自ら同作品を指揮。新世代の交響曲として、今後も様々なオーケストラのレパートリーになる期待が持たれている。

 「初演でも藤岡さんの指揮と関西フィルの演奏で自分の作品から想像以上のものが生まれる瞬間を体験できました。またそんなワクワクを感じてみたいですね」