デビュー45周年を迎えたあがた森魚が、奇跡の復活を遂げた旧友たちとコラボレート!
強烈な個性が火花を散らす新たな傑作が誕生

 『赤色エレジー』でメジャーデビューして今年で45周年を迎えたあがた森魚。そして、『赤色エレジー』ではあがたのバックを務め、昨年、奇跡の復活を遂げたはちみつぱい。ボブ・ディランとザ・バンドのごとく濃密な関係の両者が、設立45周年を迎えた彼らの古巣、ベルウッドでアルバム『べいびぃろん』を作り上げた。しかも、プロデューサーは、ベルウッドの設立者で、あがたのデビュー・アルバム『乙女の儚夢』やはちみつぱい『センチメンタル通り』など、数多くの作品を手掛けた三浦光紀だ。あがたははちみつぱいとの久し振りのレコーディングを、こんな風に振り返る。

あがた森魚,はちみつぱい べいびぃろん BELLWOOD RECORDS(2017)

 「昔と全然変わらなかったね。変わらないっていうのは、ある意味、お互い進化しているってこと。今回、お互いにあまり準備期間がなくて、まず今年の1月に3日間で10曲録ったんだけど、これが出会い頭の真剣勝負というか。アナログ・レコーディングだったし、一発録りでやるような気持ちだったね」

 そんな気迫は、オープニング曲《アポロンの青銅器》からも伝わって来る。あがたの力強い歌声の彼方から聴こえて来る、荒れ狂う海のような混沌としたバンド・サウンド。はちみつぱいがあがたをサポートするのではなく、どちらもが存分に個性を発揮している。

 「このアルバムはコラボレーションだから、最初は(はちみつぱいの)みんなに曲を書いてもらおうと思ってたんだよ。結局、4曲書いてくれたんだけど、それくらい、このアルバムは俺とはちみつぱいが渾然一体となってる」

 はちみつぱいからは、鈴木慶一、本多信介、岡田徹、渡辺勝が曲を提供。「信介がこんなオシャレな曲を書いてくるとは思わなかった」と驚いた本多作《四月の雪》。「サウンドのテンションが入り組んでいて 俺には書けないような曲」と称賛する岡田作《真夜中を歩く》。緻密な音作りに鈴木らしさを感じさせる《港の純情》など、それぞれが個性的だが、なかでも渡辺作《虫のわるつ》の《久しぶりじゃないか ごきげんうるわしゅう》という一節は、あがたとはちみつぱいの再会を祝しているようだ。

 「うん、そうともいえるね。この曲は最初、後半のワルツになるまではイントロダクションでインストだったんだ。でも曲を聴いたらイメージが広がって勝手に歌詞を書いて歌った。だから前半は俺、後半は勝さんの歌詞なんだよね。それで勝さんが入れてくれた仮歌が良かったからデュエットにしたんだ」

 また、あがた作詞作曲の《クリーニングはエイハブ》ではあがたと鈴木との息が合った掛け合いを楽しめるが、そこにはこんな逸話も。

 「これが問題の一曲でね(笑)。詞がなかなか出来なくて、土壇場になって『これ、やっぱり外したいな』って言ったら、みんなにブーイングをくらって。仕方がないから、レコーディング最後の日に詞を書いたんだけど、歌を入れる時に『ちょっと一緒に歌ってくれない?』って頼んで慶一と掛け合いになったんだ」

 《虫のわるつ》以外、全曲の歌詞をあがたが手掛け、メイン・ヴォーカルをとることであがた独自の世界観が反映されつつも、はちみつぱいの懐深いバンド・サウンドが思いも寄らない風景を見せてくれる。そんな本作は、ただの同窓会に終わらずに創造の火花が飛び散っているが、あがたにとってはちみつぱいとはどういう存在なのだろう。

 「俺は虚空に歌いたい。それは虚無とも言えるし、宇宙とも言えるし、無に近い何かで。かっこ良く言えば、表現者っていうのは無がなんであるかを認識したいがゆえに作品を作ったり歌ったりする。そうする時に、俺のなかでは〈あなた〉という重要な概念があって、〈あなた〉っていうのは俺が見きれない眼であり、俺に聴き取れない耳であり、〈あなた〉がいるから虚空に飛んで行けるんだ。例えば時計屋さんが目にルーペをはめて仕事するじゃない。そのルーペが〈あなた〉であり、今回のアルバムでははちみつぱいだった。そんなこと言うと、みんなから『俺達はお前のルーペじゃないぞ!』って怒られるかもしれないけどね(笑)」

 あがたははちみつぱいを通じて、そして、アルバムを聴く〈あなた〉は『べいびぃろん』を通じて、遠く彼方へと飛んでいけるのだ。