好きがゆえにビビってしまったりする

――さて、bounce誌でのスタートからMikikiにお引越しての第2シーズンと、足掛け5年半ほど続いたこの連載、今回が最終回ということになりました(泣)。

「始まったのは2011年ですか。やりましたね~。(しみじみと)大人になりました」

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――なりましたね(笑)。今回を含めて通算47回ですよ

「もし小1で初回のミーターズを読んだ人は、もう小学校を卒業していますから(笑)。中3だったら大学生でしょ!?」

★ミーターズ『The Meters』(bounce 2011年9月号)

ミーターズの69年作『The Meters』収録曲“Cissy Strut”
 

――学生で考えると長い(笑)。

「(全回分の課題盤リストを見ながら)というか、2015年はひと夏なかったりするんですね(笑)」

――それまでは毎月コンスタントに更新していたのに、最後の2年間のペースの落ち方が尋常じゃない(苦笑)。私のせいです……。

「ハハハハハ、いいですね(笑)」

――この連載も長くやってもらいましたが、最近はTVでも音楽について話す機会が増えていますよね。この間出演されていた「関ジャム 完全燃SHOW」もおもしろかったです!

※関ジャニ∞がさまざまなアーティストをゲストに迎えてトーク&ジャム・セッションを展開する、テレビ朝日系の音楽バラエティー。ハマは3月26日放送の〈凄腕アーティストが教えるベースの世界〉の回に、根岸孝旨、KenKenと共に出演した

「ご覧になりましたか? 僕はオンエアを観ることはできなかったのですが、好評だったみたいで。最近はNHK Eテレの番組に出させてもらったりもしていますが、やはり難しいですよ。この連載と同じように、音楽を体感してもらう(聴いてもらう)足掛かりになればいいなと思っているものの、TVにしてもこういった連載でも、その場では言いたいことを言いつつ、その3分後くらいには〈こういう言い方もできたな〉と後悔することもあるじゃないですか。それは仕方のないことだし、いちいち直したりはしないのですが……やはり好きがゆえにビビってしまったりするんです」

――好きでいろいろ知っているからこそ、逆に神経質になってしまう感じですよね。

「その時のテンションでこう言ったけれど、こうじゃないものがあることもわかっているし、こうじゃないものの推進派からしたら〈コイツやっぱりわかってないな〉と思われるかなと色々考えてしまったり――表に立って喋らせてもらうという使命感と、表に立って喋るからこそ持たないといけない責任感のバランスがすごく難しい」

――すべてが一概に言えないものだったりしますし。

「そうなんです。オンエアではきちんとその発言を使ってくれたそうですが、KenKenがやっているような(至極テクニカルな)演奏は普通じゃないということをしっかりと伝える必要があると思っています。彼は努力してそれをやれるようになっているからこそカッコイイんだ、ということを。やっぱりTVを作っている人はもちろん僕らのことも考えてくれていますが、視聴者のことを第一に考えて作っているので、互いが互いの意向を100%汲むことはできない。その匙加減が難しい。今回、収録の日にはすごく考えさせられました」

――それは制作側も難しいところですよね……。

「この連載も一緒で、好きだからただ好きと言えばいいわけではないじゃないですか。そうなった時に、どういう言葉を選んだらいいのか……。そういった仕事を専門にやっている人はすごいなと思います。本当に気が狂いそう(笑)」

――ハハハハハ(笑)。でも、この連載はハマくんというベーシストにお願いしている以上、ベース寄りの話になるのも当然だし、むしろそういうハマくんの色を出してもらいたくて始めたものですから。

「そう言ってもらえると嬉しいです。決して僕は評論家ではないので、知らないことも多いですし……それにしても、いろいろ考えた結果だと思いますが、第5回くらいまでは怒られないようにやっているとしか思えない、ハハハ」

※ミーターズ、マーヴィン・ゲイ、ダニー・ハサウェイ、アレサ・フランクリン、アイズレー・ブラザーズというソウル/ファンク史におけるレジェンド級の面々の作品を第5回までに紹介

――まあ序盤だったので、ファウンデーション的なものは必要だったと思いますよ(笑)。

「順番は前後しますが、マイケル・フランクスの『The Art Of Tea』は結構早い段階で紹介していたんですね。最近ようやくネッド・ドヒニーやボズ・スキャッグスをきちんと聴きました」

マイケル・フランクスの76年作『The Art Of Tea』収録曲“Popsicle Toes”
 

――AORのファウンデーション的なアルバムですか。

「ネッド・ドヒニーの『Hard Candy』(76年)と、その後に、諸事情があって日本でしかリリースされていない『Prone』(79年)というアルバムがあって、そのいずれもブッカーT&ザ・MGズのギタリスト、スティーヴ・クロッパーがプロデュースしているんです。それがいいなと思って。どちらも良かったです。やはり70年代後半頃の録音環境、いわゆる〈デッド〉で録ることが流行っていた頃の作品が好き。83年に入るとシンベ(シンセ・ベース)が出てきたりするので、その前まで」

※録音する場所での響き、残響音を拾わず、出音そのものを収める録音方法

ネッド・ドヒニーの76年作『Hard Candy』収録曲“Get It Up For Love”
 

――そのあたりはこの連載を通して主張されていましたね、ハハハ(笑)。それから、初回のミーターズなど2度登場しているアーティストも結構います。

「そうですね。ミーターズはファースト(69年作『The Meters』)と『New Direction』を紹介しました。あと映画〈シャフト〉の3部作から第1弾と、第3弾の〈イン・アフリカ〉のサントラですね」

 

★アイザック・ヘイズ 『Shaft』(bounce 2012年10月号)
★ジョニー・ペイト『Shaft In Africa』(bounce 2013年11月号)

――それからディアンジェロも。

「『Black Messiah』が出ましたから。最初に『Voodoo』を取り上げた時は、まさか新譜が出るなんて思っていなかったので(笑)」

★ディアンジェロ『Voodoo』(bounce 2013年12月号)

ディアンジェロの2015年のライヴ映像 

 

ほら言った通りだろ

――さらに、ダフト・パンクあたりからわりと最新めの作品にシフトしていった感じでしたね。

★ダフト・パンク『Random Access Memories』(bounce 2013年7月号)

「振り返ってみると、それまでは新しい音楽を普段聴いていなかったので聴かないといけないなと思って、教えてもらったりしながら聴くようにしていました」

――水面下で蠢いていたファンク~ディスコ/ブギー的なものがメジャーなポップ・シーンで顕在化するようになったターニング・ポイントが、ブルーノ・マーズやダフト・パンクの『Random Access Memories』で、これがその後の連載の展開にも影響を与えたような。

「“Get Lucky”でフィーチャーされたナイル・ロジャースがふたたび脚光を浴びるようになり、その後にマーク・ロンソンが売れて……」

ダフト・パンクの2013年作『Random Access Memories』収録曲“Get Lucky”
 

――そういえば、マーク・ロンソンの『Uptown Special』を取り上げた回は、個人的にすごく印象に残っています。

 

「リック・ジェイムズの話をした時ですね。この説については誰にも賛同されないし、かといって異を唱えられることもなかった(笑)。なので言い続けています」

マーク・ロンソンの2015年作『Uptown Special』収録曲“Uptown Funk”
 
リック・ジェイムズの81年作『Street Songs』収録曲“Give It To Me Baby”
 

――ハハハハ(笑)。

「ブルーノ・マーズの最新作(2016年作『24K Magic』)を聴くと、『ハッチポッチステーション』のグッチ雄三さんのコーナーを観ている感じ。あまりにもザップやJBが好きすぎるがゆえの替え歌のような――クォリティーも申し分ないですし、文句言うだけダサイのですが……」

※96年~2005年までNHK教育テレビで放映されていたキッズ向け番組。出演者のグッチ雄三が、アース・ウィンド&ファイアーやクイーン、キッス、ビー・ジーズなどの有名曲を、日本の童謡や唱歌などと組み合わせた秀逸な替え歌をコスプレで披露していた

「ハッチポッチステーション」よりクイーン“Bohemian Rhapsody”で歌う“犬のおまわりさん”
 

――そういえばSKY-HI氏はブルーノ・マーズのことを「良い意味で〈最高のモノマネ芸人〉」とおっしゃっていました(笑)。

「なんだかんだ言っても、好きだという気持ちをしっかり体現して、臆面もなく好きと言うことがいかに大事かということですよ。あれがヒットしているのを見て、それを実感しました」

ブルーノ・マーズの2016年作『24K Magic』収録曲“24K Magic”
 

――あれで時代を作ってしまったわけですからね。

「後出しジャンケンにならないからあえて言いますけど、〈ほら言った通りだろ〉と思います」

――このムーヴメントが?

「そうです(笑)」

――ハハハハ(笑)。ダフト・パンクの回で「いまの音楽を変えるぐらいのものだと思う」と言っていましたしね。

「その流れが日本に入ってきたことも大きいと思います。一リスナーとしてはおもしろくなってきたなと」

――OKAMOTO’Sの最新EP『BL-EP』はかなりファンキーに振り切れていましたが、そういったバンドのいまの方向性に、このトレンドが与えた影響はありますか?

「もちろんあります。この間Suchmosのツアーに呼ばれて初めて対バンしたのですが、Suchmosとやるんだからということで、いつもと違うセットリストを組んでみました。これまでもそういうセットリストを組みたかったけれど、少し玄人向けになってしまうというか……(ブラック・ミュージックの)リズムに対してどうノったらいいかわからないお客さんを何年も目の当たりにしてきているので、自然とそうじゃない楽曲を作ってみたり、そうならせないセットリストを意識して組んでいて。でも今回に関しては、初めて対バンするので未知数ではありましたが、Suchmosのようなテイストの曲が好きなお客さんだからこそ、彼らのお客さんを意識したセットリストの組み方をしてみたんです」

――ほほ~。

「例えば、最新EPに入っている“NEKO”を初めて1曲目に持ってきて、そういう雰囲気の曲しかやらない。Suchmosのファンの人は、僕たちのライヴに来てくれるお客さんや、いわゆるフェスのお客さんとはまったく違うものの、だからと言ってすごく音楽玄人というわけではないんですよね。シンプルにSuchmosの音楽をカッコイイと思ったから、その手の音楽に対してリアクションができる〈新規〉の人というか」

OKAMOTO'Sの2016年のEP『BL-EP』収録曲“NEKO (Remix)”
 

――うんうん。

「すごくフレッシュでしたし、いいお客さんでした。オーヴァーグラウンドに向かっているバンドのお客さんがそういう層というのは、希望がある。もちろんSuchmosだけでなく、海外の流れもあれば、星野源の“恋”が大ヒットしたのもそうですし、電波にのってああいった音楽が流れることに違和感がなくなってきた。結局サブリミナルだと思うので、すべて相乗効果的に成り立っている。そういう意味では(ソウル/ファンク寄りの楽曲をやることに対して)気持ちが楽になったというか、〈じゃあ、やってみるか〉と言えるようになったのは事実です。『BL-EP』もそういう気持ちがありました。いまもあのテンションのアルバムを作っている最中です」

星野源の2016年のシングル“恋”
 

――そうなんですか! それは楽しみですね。『BL-EP』は本当に好きでよく聴いていますよ。〈ついにやったか!〉と思いました(笑)。

「これは僕の個人評価なのですが、そっちにアプローチしたとはいえ、それでもまだどこかヘンだからいいなと思いました(笑)」

――ヘンというのは?

「『BL-EP』は少し血の巡りが悪くないですか? 〈TOKYO FRIDAY NIGHT~♪〉という感じではないじゃないですか」

Suchmosの2016年のEP『LOVE&VICE』収録曲“STAY TUNE”
 

――でもそれがOKAMOTO’Sらしさなのでは?

「結局ああなるんだなと思って、ハハハハ(笑)。自分でも、聴いてきたものをしっかりとアウトプットしているなと思います。でも次のアルバムではもう少し抜けのある楽曲も出来ていますよ。やっぱり、僕のようにソウル/ファンクが好きで、ずっと聴いてきている人間と、その良さを理解していながらも別のものを主に聴いてきた他のメンバー3人とでは(ソウル/ファンクの)捉え方が違うので、いまバンド史上もっとも楽曲を作るうえでチグハグしています(笑)。そうなることは想定内ですし、おもしろいから全然苦しくはないですが、これまでロックをやってきたのとは違う感覚なので、最近は僕だけが〈んー〉となる時間が結構多い。でもこの手の音楽にトライするなら、そこはもう少しシビアに考えないと組み上がったときにダサイよ、とは思います。各メンバーの聴いているものが違うから良しとされていたものが、今回あまりにも僕が好きすぎるジャンルに挑戦しているがゆえに、初めて浮き彫りになったような」

――さっきハマくんが言っていた、あまりにも好きな音楽だから言葉選びや言い方に苦慮するというのに似ていますね。

「僕は逆にローリング・ストーンズをきちんと聴いてきていないので、これまで他のメンバーは僕に対して〈これはもうちょっとこうしたい〉と思われていたのかなと、いま作業をしているなかで感じます。この間、(制作中に)3人が〈これいいじゃん、全然いいよ〉と言っているものに対して、僕は1%もいいと思わないという時があったりして。もう子供ではないので否定はしませんが、〈そうか……〉と」

――過渡期!

「そうですね。でもそこは妥協せずにやればいいだけの話なので大丈夫です。だからいまはおもしろいですよ」

――そういった葛藤を経て、果たしてどのようなアルバムに仕上がるのか……! 完成前のドキュメントとして残しておきましょう。