二度あることは三度ある! アトランタの雄とNYアンダーグラウンドの王による同い年の凸凹最強タッグが、ついに表通りのチャートを制するまでに成り上がった! さあ、金目の物を出せ!
骨だけの手から始まって、そこに包帯が巻かれ、さらに黄金の手袋で飾られ……というのはミイラの製作方法のようだ。もしくは、ナズの初期アルバム・ジャケへのオマージュなのだろうか。そんな余談はともかく、ラン・ザ・ジュエルズの『Run The Jewels 3』が熱い。アトランタとNYのラップ狂が手を組んだ結成時の衝撃の大きさは言わずもがな、ナズ主宰のマス・アピールから放った2作目『Run The Jewels 2』も刺激的な出来映えだったが、サード・アルバムは本国USのR&B/ヒップホップ・チャートとラップ・チャートの両方で首位を獲得したのだ。共にコンビを組む前から評論家筋には愛され、通好みな作品のクォリティーで評価されることは珍しくなかったふたりだが、このような指標においても結果を出してきたというのは、(まあ、集計方法が変わったのもあるだろうが……)いよいよ時代が変わったという気分にさせられたりもする。
片やアトランタ出身のコワモテなキラー・マイク、片やブルックリン出身のナードなエル・P。共に75年生まれのタメだというのもコンビを組むまで気付かなかったことだが、そもそも気付く以前に両者の支持層がかぶっていなかったせいで、あまり互いの存在を気にしていなかったというのが正直なところではないだろうか。例えば10年前、15年前にタイムスリップしてヘッズに〈キラー・マイクとエル・Pがコンビを組むよ〉と耳打ちしたとしても、〈え、なんであんなヤツと?〉という反応すら返ってきそうだ。
もともとダンジョン・ファミリー~アウトキャスト軍団の若手メンバーとしてシーンに登場したキラー・マイクは、アウトキャスト主宰のアケミナイから2003年にメジャー・デビューし、“A.D.I.D.A.S.”のヒットで注目されている。その後ビッグ・ボーイのパープル・リボンに移るも、2000年代後半には自主レーベルのグラインド・タイム・オフィシャルを設立、一時はT.I.率いるグランド・ハッスルとの契約時期もあって、ソウルフルなアトランタ・シーンのハードコアな申し子のような存在であった。
一方のエル・Pがマイクと同年齢と思えないのは、マイクよりも早くから注目を集めていたためでもある。彼がカンパニー・フロウを結成し、最初のシングル“Juvenile Techniques”をリリースしたのは93年。ロウカスから発表したエクスペリメンタルな『Funcrusher Plus』(97年)によってグループは伝説的な存在となるが、特にトラックも作るエル・PはNYアンダーグラウンド信者から神格化されるほどの支持を集めていた。ソロ移行後もデフ・ジャックスを運営してその威信は発揮されたものの、大きな意味でのシーン全体への影響力は2000年代に入ると徐々に穏やかになっていく。
そんなふうに各々のフィールドで活動し、接点の見えなかった両者ではあったが(とはいえ、マイクの側はカンパニー・フロウを聴いていたという)、マイクがエル・Pに全面プロデュースを依頼して作り上げた『R.A.P. Music』(2012年)を通じて意気投合。前後してリリースされたエル・P久々のソロ作『Cancer 4 Cure』にはマイクが客演する運びとなり、そのまま正式なグループ結成へと繋がったのだった。
当初マイクが越境のイメージとして持っていたモデルは、LAのアイス・キューブがNYのボム・スクワッドと組んで作った名盤『Amerikkka's Most Wanted』(90年)だったそうだが、同時代のクラシック群を聴いて育ってきた同年齢のふたりだけに、そこの美意識もウマがあったのだろう。80年代~90年代初頭のストレートにストロングなラップ観を共有しながら、想像以上のマッチングがラン・ザ・ジュエルズの音楽性を確立することとなった。
そんなわけで、このたび日本盤が登場した『Run The Jewels 3』だ。昨年のクリスマスイヴに急遽サプライズで配信リリースが始まり、年明けの1月にフィジカル化された今作は、ビヨンセ作品で名を売ったブーツが前作に続いて駆けつけ、NY人脈のトゥンデ・アデピンペ(TV・オン・ザ・レディオ他)、サックス奏者のカマシ・ワシントン、ギタリストのマット・スウィーニー、ソロでの動向が気になるザック・デ・ラ・ロッチャ、さらにマイクとは縁の長いダンジョン周辺シンガーのジョイ、マイアミの元祖ビッチ・ラッパーことトリーナといった面々も作品に彩りをもたらしている。ラップ・フリークという意味ではダニー・ブラウンとの手合わせも注目すべきポイントだろう。なお、日本盤ボーナス・トラックの“Legend Has It(TOYOMU remix)”は海外からの反応も聞いてみたいところだ。
しかしながら、そうした豪華なゲスト・アーティスト以上に、互いが互いにとって最高のコラボレーターとなったマイクとエル・Pのコンビネーションこそが最良なのは言うまでもない。実験的でありながらも耳馴染みの良いクールネスがあり、硬派なのにやたら楽しそうな雰囲気は、お仕着せではないタッグならではの妙味で満たされている。第4弾があるのかはわからないが、ジャケがどうなるのかも含め、行方を気にしておきたい。
キラー・マイクの作品を一部紹介。
ラン・ザ・ジュエルズのアルバム。
エル・P関連の作品を一部紹介。
ラン・ザ・ジュエルズの客演した作品。
『Run The Jewels 3』に参加したアーティストの作品を一部紹介。