(左から)ラブリーサマーちゃん、エンドウアンリ
 

4人組ロック・バンド、PELICAN FANCLUBがファースト・フル・アルバム『Home Electronics』をリリースした。シューゲイザーやドリーム・ポップ、ポスト・パンクといった80〜90年代のUKロックからのルーツを感じさせながらも、現在進行形のロック・ミュージックへと昇華させた、ヴァラエティー豊かな楽曲が並ぶ同作。なかでもコクトー・ツインズのエリザベス・フレイザーに影響を受けた、エンドウアンリ(ヴォーカル/ギター)の伸びやかなハイトーン・ヴォイスと浮遊感たっぷりのメロディー・ラインはこのバンドの肝であり、アルバム全体に統一感を与えている。

そんな彼らを活動初期から知り、〈相思相愛〉関係なのが、宅録出身のシンガー・ソングライター、ラブリーサマーちゃんだ。昨年11月にリリースされた彼女のメジャー・デビュー・アルバム『LSC』も、古今東西の音楽的要素がちりばめられたカラフルな作品。それでいてPELICAN FANCLUB同様、今鳴らすべき音、今歌うべき言葉が詰まっている。

今回は、現在〈PELICAN FANCLUB TOUR 2017 “Electronic Store”〉真っ最中のエンドウと、8月2日(水)にニュー・シングル『人間の土地』のリリースを控えるラブサマちゃんの対談を実施。『Hone Electronics』の魅力を紐解きながら、お互いの音楽性についてたっぷりと語ってもらった。

PELICAN FANCLUB Home Electronics DAIZAWA(2017)

憧れを模倣しても同じにはならない、その差異こそがオリジナリティー

――もともとはどんなキッカケで交流が始まったんですか?

エンドウアンリ(以下、エンドウ)「5年くらい前に共通の音楽仲間からいろいろ話を聞いていました。それで一度、ラブサマちゃんが前に所属していたバンド(羊の群れは笑わない。)時代に共演したことがあって」

ラブリーサマーちゃん(以下、ラブサマちゃん)「その共通の友だちからは、私も〈今度、今泉(ラブサマちゃんの本名)と一緒に出るPELICAN FANCLUBっていうバンドがめちゃめちゃカッコよくて絶対気に入るから〉と、ずっと聞かされていて。それで楽しみにしていたら本当にカッコよかった」

エンドウ「確かその時は、バンドを組んでまだ3ヶ月とかそのくらいだったんですよ」

ラブサマちゃん「え! そうなんですか? すごい。確か前身バンドがあって、そこからペリカンになったんですよね」

2015年のミニ作『PELICAN FANCLUB』収録曲“Dali”
 

エンドウ「そうです。その後も、ラブサマちゃんとはFor Tracy Hyde時代にも共演したし、ラブリーサマーちゃん名義の音源も、YouTubeなどでチェックしていました。昨年リリースされたファースト・アルバム『LSC』も聴かせてもらったんですけど、とにかく楽しいアルバムだった。まずルーツが似ているなと思ったし、言葉選びのセンスとかエンターテイメント性を感じさせて。スーパーカーが好きなんですよね?」

ラブサマちゃん「好きです。エンドウさんとは曲単位でも好きなものも被っていますよね。ダイナソーJr.の楽曲について呟いたらリプをもらったことを覚えています」

『LSC』収録曲“青い瞬きの途中で”
 

エンドウ「そうそう! そういう細かい部分でも共感するところがたくさんあって、勝手にシンパシーを感じています」

ラブサマちゃん「ありがとうございます。私、高校生の頃ダイヴやワイルド・ナッシングを聴いて衝撃を受けて、それ以来海外のインディー・ロックが大好きだったんです。でも当時は、日本でシューゲイザーやインディー・ロックっぽいバンドの存在をあまり知らなくて。ペリカンのライヴを観たときに、〈日本語でこんなサウンドをやってくれる人たちがいるんだ、しかもかっこいい!〉と感動したんですよね。エンドウさんの声も好きだし、メロディーも〈あ、ここエンドウ節だよな〉と思うところが結構あって。そこもすごくいいなと思うんです」

――PELICAN FANCLUBの新作『Home Electronics』については?

ラブサマちゃん「とにかく、相変わらず曲の振り幅がすごいですよね。“Black Beauty”を聴いて〈めっちゃゴリゴリじゃん、カッコいいな〉って思っていたら、その後すぐに、“You're my sunshine”みたいな超柔らかい曲を持ってくるじゃないですか。〈ここまで振り切っちゃうのか〉と思ってびっくりしました。シンセ・ベースを使っている“朝の次へ”はネイキッド・アンド・フェイマスみたいですよね。こんな曲も作れるんだ!と驚いた」

――そういう振り幅の大きさは、ペリカンの特徴の一つだと思うのですが、毎回さまざまなスタイルの楽曲を入れようと思っているんですか?

エンドウ「そうですね。前作のミニ・アルバム『OK BALLADE』では、全8曲を別バンドが演奏しているくらいの気持ちで作っていました。それに比べると今作は、振り幅を持たせつつペリカンらしさも出せたと思います。サウンドの統一感もそうですが、Aメロでベースとドラムだけになる楽曲の構成とか、そういう僕らなりの〈手グセ〉をどんどん見せていって、アルバムを聴き進んでいくうちにペリカンの世界観にハマっていくような、そんな流れを意識しましたね」

ラブサマちゃん「ああ、それは聴いていて私も感じました。メチャクチャいろんな曲があるのに全部ペリカンらしいっていうか。私、『LSC』を出したときに、自分は〈憑依型〉だな、と思ったんですよね。〈これはブリットポップ〉〈これはシューゲイザー〉〈これはエレポップ〉みたいな感じで、例えばエレポップのときはHALCALIになりきって作っているから、なんかラブリーサマーちゃんの曲という感じがしないなと思っていたんです」

エンドウ「え、でも『LSC』にはラブサマちゃんらしさをすごく感じるけどね。確かにいろんなサウンドがあるし、歌い方も曲によって変えているんですけど、やっぱり言葉遣いが独特だから、そこに引っ掛かりがあるというか。“私の好きなもの”の〈辻利の抹茶〉なんて言葉、普通は出てこないですよ」

『LSC』収録曲“私の好きなもの”
 

――確かに、ペリカンとラブサマちゃんのアルバムの共通点って、その時の手持ちのカードをすべて並べてみせるというか。そこで散漫になってしまうことを恐れない感じがしますよね。

エンドウ「そうですね。自分が好きな海外のバンドは、どちらかといえばアルバムを通して統一感を出しているサウンドが多いんですけど、自分が作りたいアルバムはそうじゃなくて。いろんなバンドの、自分が好きなポイント、聴きたいポイントを詰め込んだような、そんな作品が作りたいんですよね。今作の『Home Electronics』は、〈家電〉という日本語をそのまま英語に直訳したんですけど(笑)、家電ってひとつひとつ目的が違うじゃないですか。テレビを見たくて冷蔵庫を開ける人はいないですよね? テレビにはテレビの、冷蔵庫には冷蔵庫の役目がある。このアルバムに入っている楽曲も、それぞれ聴いたときの〈作用〉が違っているところが〈家電っぽいな〉と思って付けたタイトルなんです」

ラブサマちゃん「そういう発想の飛躍もエンドウさんっぽいですよね(笑)。私はコンセプト・アルバムというか、全体で統一感を感じさせる作品には憧れがありますね。今エンドウさんがおっしゃっていた〈作用〉という意味では、曲単位でなくアルバム単位で、こういう気分のときに聴きたいなと思えるものを作ってみたいというか」

――ああ、なるほど。

ラブサマちゃん「でも、私は飽きっぽいし、好きなジャンルを1つに絞りきれなくて。いつも同時にいろんな音楽を聴いているわけじゃないですか。〈今日はスロウダイヴを聴こう〉〈今日はthe brilliant greenを聴こう〉って。そうやって過ごしているなかで曲を作っていると、どうしてもまとまらないんです。落ち着いたらコンセプト・アルバムも作ってみたいんですけど、しばらくはこんな感じで、ボコスカいろんな曲が入った雑多なアルバムになると思います(笑)。そのほうが自分も楽しいし。『Home Electronics』を聴いたときも、エンドウさんは音楽を楽しんでいるなって思いましたよ」

『Home Electronics』収録曲“Night Diver”
 

――ラブサマちゃんは自分のことを〈憑依型〉だと言いましたけど、そういうことをすればするほど〈自分らしさ〉や〈個性〉が際立つこともないですか?

ラブサマちゃん「ああ、それは非常によくわかります。私、めっちゃブリグリが好きなんですけど、ブリグリのDVDを観ながらブリグリになりきって、ここは渋谷公会堂だと思って歌うんです(笑)。でも、どうしてもブリグリになれない部分というのがあって、そこが〈今泉エッセンス〉だなと感じますね。何かになろうとすることで生じる差異の部分が、オリジナリティーなのかも」

the brilliant greenのライヴ映像
 

エンドウ「そういう話を聞くと、自分も〈憑依型〉なのかなと思ってきました」

ラブサマちゃん「え、そうですか?」

エンドウ「高校生の頃とか、(ソニック・ユースの)サーストン・ムーアが好きすぎて、髪型から何から真似したんですけど(笑)、変則チューニングのヴァリエーションも身長も最終的には届かなくて」

一同「ハハハハ(笑)!」

エンドウ「それで、やっぱり無理だ、自分は自分なんだと思えました。でも、今もそのときに聴いているバンドになりきろうという気持ちはありますね。カラオケとか行くと、動作まで真似したりして」

ラブサマちゃん「めっちゃわかる!」

ソニック・ユースの92年作『100%』収録曲“Dirty”
 

――例えば『OK BALLADE』収録の“Ophelia”あたりは、エリザベス・フレイザーからの影響を感じさせつつもエンドウさんらしさ、ペリカンらしさを感じる楽曲に昇華されていますが、ああいう歌い方も、もともとは憑依というか模倣から入ったのですか?

エンドウ「完全に模倣です! エリザベスさんって歌うときイヤー・モニターを手で押さえながら歌うんですけど、その仕草をよく真似していましたね(笑)。僕は女性アーティストをリスペクトすることが多いんですけど、動作などにもかなり影響を受けています。ローレン・メイビリー(チャーチズ)や、カレン・O(ヤー・ヤー・ヤーズ)、ディー・ディー(ダム・ダム・ガールズ)に、なりたい!と思って(笑)。性差もあるし、絶対になれないんですけど、その差異がラブサマちゃんの言うように、オリジナリティーに繋がるのかもしれないです」

コクトー・ツインズの94年のライヴ映像
 

――ペリカンもラブサマちゃんも、ルーツを感じさせる音楽だと思うのですが、そのうえで同時代性はどこにあると思いますか?

ラブサマちゃん「実は、『LSC』を作っていた時期はそのことで悩んでしまっていたんです。〈憑依型〉で曲を作っていると、たとえそこに少しでも自分のオリジナリティーが宿っていたとしても、憑依元があるわけで、〈だったら憑依元の曲を聴けばいいじゃん〉ということになるんじゃないか?って。例えば〈ウィーザーの“Beverly Hills”をオマージュしたラブサマの“PART-TIME ROBOT”を聴くくらいなら、ウィーザー聴けばいいじゃん〉みたいな。となると、自分が今ここで音楽を鳴らす意味があるのかなって思ってしまったんですよ」

――なるほど。

ラブサマちゃん「でも、〈いや、自分が音楽をやることに意味なんか求めているのはナンセンスすぎないか?〉〈自分が楽しいと思って作っているんだったらそれでいいじゃん、そもそも誰かに何かメッセージを伝えたいとか、自分が音を鳴らす意味とか、そんなことを思うほうが恩着せがましくないか? いつからそんなに高慢になった?〉と思えるようになって。デビューした頃はネットの音楽オタクみたいな人しか私のことを構ってくれなかったのに(笑)、〈ラブサマちゃんの声、可愛いから好き!〉みたいなところからファンになってくれた10代の女の子とかも最近は増えていて、そういう人たちの一部が私の音楽を通してティーンエイジ・ファンクラブの『Grand Prix』を聴くようになったり、いつの間にか私なんかよりも音楽に詳しくなったりしているんですよ」

――それ、めちゃいい話じゃないですか。

ラブサマちゃん「きっと、今の女子高生がいきなりウィーザーやティーンエイジ・ファンクラブにハマることはないかもしれないけど、ラブサマちゃんという身近なコンテンツが彼女たちの周りをウロウロしていて(笑)、そこにタッチしてみたら沼に引きずり込まれてしまった、みたいな。そういうリスナー体験を誰かに与えることが私にもできるんだなと。自分が今音楽をやっている意味が、自分が楽しいというところ以外にもあるのかもしれないなと思いはじめました」

エンドウ「僕も同じですね。自分の音楽を通じて、同じようなルーツを持った人とか、同じような音楽が好きな人同士が繋がって、だんだんその輪が大きくなっていくといいなと思っています」

『LSC』収録曲“PART-TIME ROBOT”
ウィ―ザーの2005年作『Make Believe』収録曲“Beverly Hills”