ヨーロッパの町並み思わせる〈旅〉をイメージしたImpulse! からの2作目
ジャズやブルースを連れてもっと遠くへ行きたい―メルボルン出身、現在パリ在住のシンガー&ピアニスト、サラ・マッケンジーは日本デビュー作『雨のパリで』を通じてそんな気持ちを語っているように思う。オスカー・ピーターソンやレイ・ブラウンのレコードを聴いて耳コピをしながら、ブルース&ジャズ・フィーリングを身体中に浸透させていった幼少期。トランペッターのジェイムス・モリソンの演奏に触れ、ジャズ・ミュージシャンになると決心した彼女にとって音楽は、旅へと誘ってくれる役割を担っていた。
「小さなスーツケースを持って沢山の国を旅してきたわ。ルーツをしっかり感じ取りたいと思ってバークリーに入学して、そのあとフランスに渡ったんだけど、ビザが4年間なかったから、2週間パリにいて、そのあと2週間はポルトガル、って生活を1年ほど続けたことがあって。その生活で得た感覚がこのアルバムに反映している。異なる文化圏で様々な音楽を聴いたり、演奏できるのも素晴らしい体験。アメリカ、イタリア、ドイツと国籍がバラバラなバンドの面々と様々な街に行って演奏をする。音楽はユニバーサルな言葉で、いろんなものをつなぎ合わせてくれるとつくづく思う」
ラストのハード・バップな自作曲《Road Chops》。目まぐるしく場面展開していくこのインストは、絶えず移動し続ける彼女の人生を表現しているかのよう。
「一週間のうちに2、3か国で演奏したり、年中世界中を旅している私にとってこの曲を入れるのはすごく大事なことだった。〈旅〉をテーマにして私の冒険を描く作品になくてはならない曲だったのよ。そんな生活においてもっとも必要なのはガッツを持つこと。タイトルはそういう意味なの」
英国をイメージさせる《二人でお茶を》をはじめ、様々な国々のテーマにしたスタイリッシュな曲が並ぶ本作だが、表題曲のカラフルなサウンド、エレガントな歌声に何よりも耳を奪われる。ホメロ・ルバンボのギターが最高なケニー・ランキンのカヴァー《In The Name Of Love》なども新鮮な仕上がりだ。
憧れの音楽家は、シャーリー・ホーン。「ヴォイスとピアノの音のミックスに私は何よりも惹かれる」という彼女にとって、自分の中に流れるスウィング感やブルース感などをみずからの演奏、自分がアレンジメントした楽曲においていかに表現してみせるかが自身の音楽性における最重要事項だと言う。かつてオスカー・ピーターソンやレイ・ブラウンの音楽から学んだあのポジティヴで特別な感覚を求めて、終わりなき旅を続けるサラ・マッケンジーの『雨のパリで』。小雨そぼ降るモンマルトル通りで聴いてみたいな。