自然体で自由の意味を問いかける音楽

 京都に生まれて札幌で育ち、オーストラリアでジャズを学び、国際的な活動を展開する韓日クォーターという異色のピアニスト、ハクエイ・キムと、フランス人パーカッショニストのグザヴィエ・デサンドル・ナヴァルが、パリで行ったデュオ・パフォーマンスの模様を収録したライヴ盤『カンヴァセーションズ・イン・パリ』を発表した。ふたりの出会いは、2013年に韓国で開催された光州ワールド・ミュージック・フェスティヴァルの朝食会にまで遡るが、昨年の9月に行ったこのパフォーマンスが初めての共演だったという。

HAKUEI KIM Conversations In Paris ユニバーサル(2019)

 「パリの空港に着いてそのままリハーサル・スタジオに入って、とくに何かの曲をやるでもなく、とりあえず一緒に音を出してみました。自分の曲もいくつか用意していたのですが、当日になると何となく『今日は全部即興でいいよね』っていう雰囲気になって(笑)」 彼の経験によれば、インプロヴィゼイション主体の演奏では、共演する相手によって楽曲をやったほうが楽しめる場合と、何も決めずに自由に音を出すだけでイマジネーションが広がる場合があるが、グザヴィエは後者の相手だったという。

 何も決めないインプロヴィゼイションということだが、美しいハーモニーに彩られた空間にシンプルなメロディを置いていくスタイルのピアニスト、マイク・ノックを敬愛するハクエイと、クラシックやジャズに加えてアフリカや中南米の音楽を学び、映画音楽も手がけるグザヴィエによるこのコラボレーションは、ドビュッシーの《沈める寺》を思わせるハクエイのピアノに始まり、スバニッシュ、スウィング、ラテン、インド、アフリカと、互いの共通点を探り合うかのような、親密な対話になっている。実際に演奏されたとおりの曲順で収録されたこともあり、“話題”の展開も自然で、フリー・インプロヴィゼイションに慣れていない人でも聴きやすい作品だ。

 「パリを訪問したのはこの時が初めてで、セーヌ川沿いを散歩しながら、自分がもともと好きだった印象派の音楽家たちもここで活動していたんだなと思うと、自分の中でもそういう音楽が生まれやすいというか、より開放された感じがしたんですね。僕のピアノの先生のひとりでもあるクリス・コーディが、フランスでグザヴィエと一緒にバンドをやっていたという不思議な縁も感じて、演奏していても普段とは違ったアイディアが浮かんできたんです」

 自由な発想を重んじる歴史を持つパリの空気と、歴史が浅いがゆえに自由なオーストラリアの空気をブレンドしたふたりの音楽は、聴き手の心にも自由をもたらしてくれるに違いない。

 


LIVE INFORMATION

ソロ・ピアノ・ライヴ
○4/20(土) 焼津 カフェ セレサ
○21(日) 豊橋 Jazz & Dining Coty
○29(月) 甲府 コットンクラブ
○5/6(月・祝) 渋谷 公園通りクラシックス
○6/13(木) モーションブルー横浜
○24(月) 岡山 アティックライブ
○25(火) 大阪 ロイヤルホース
○7/5(金) 山代温泉 COCKTAIL Bar SWING
○6(土)  金沢 もっきりや
○7(日) 名古屋 Mr.Kenny’s

トライソニーク
○4/24(水) モーションブルー横浜

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