Photo by Tsuneo Koga

ECMからの初リーダー作――アイヒャーが導き出す、シャイ・マエストロの音楽の核

 「BPMを50落として、もう一度演奏してほしい。ゆっくりのテンポで、ソロを無くして、表現するときはメロディを大切にして、その曲に忠実に。それをチャーリー・ヘイデンが一緒に演奏しているのを想像してやってみよう」

 このマンフレート・アイヒャーの助言により当初とは全く違う形になったのが “lifeline”という曲だ。シャイ・マエストロのECMからの初のリーダー作『The Dream Thief』でもアイヒャーの存在は大きい。

SHAI MAESTRO 『The Dream Thief』 ECM/ユニバーサル(2018)

 「まずは自分のエゴと戦うことで、エゴを無くすこと。自分が書いた曲だからこそ、この曲にはこうなってほしいというエゴが存在して、自然にそれをやろうとしてしまう。まずはそれは全部捨ててみてほしい」

 これもまたアイヒャーの助言のひとつだが、このアルバムを「人間が自分のソウルを正直に表現した時に出る音みたいな音楽」と語っていたシャイのためにこういった的確な指摘をしていたアイヒャーには恐れ入る。

 「音楽家は自分がどれだけすごいかを技術などで見せつけて、それにより素晴らしい音楽を作るんだけど、その裏には愛されたいとか、アジェンダや、何かしらの意図みたいなものがある。僕はそういうものを取り除いて、ただ音楽の世界だけに浸りたいとも思ったんだ。例えば、ひとつのコードに浸っていたいってイメージだね。〈Eマイナーってこんなきれいな音だったんだ〉とか、そういうところに浸って音そのものに引き込まれていくように作りたいなって感じている。これはシンプル過ぎるとか、これは○○すぎるとか、感じることもあるんだけど、そういうことを考えずに、自分の真実だけを音にして作品に込めたかったんだ。愛されたいとか、愛されなきゃいけないとか、そういう不安や誤魔化そうとする気持ちを忘れて、ありのままの自分でいいんだよって。そういう不安な部分はキース・ジャレットだって抱えていたとは思うんだ」

 ――アイヒャーは常々音楽家に「君の音楽の中の核の部分だけが欲しい」と言うらしい。ECMの音楽にはそぎ落としたからこそ出るその人の本質が鳴っているのだ。そこでは自身の人生や音楽性を再び辿りながら語り直すようにそのアーティストの歴史が滲み出る。ECMファンでもあったシャイはそのアイヒャーの美学を理解していたからこそ、“Second Childhood”なんて曲を選んだのだろうというのは想像が過ぎるだろうか。

 「収録した“Second Childhood”は自分が書いた曲じゃないから偶然だけど、シンボリックに受け取ってもらえるんじゃないかなって思ったんだ。自分のありのままってことを表現するには最適な曲だったしね。なにより自分の物語を自然に語れるって最高だよね?」