撮影 : 佐藤拓央

 

ジャンルはもちろん、聴覚と視覚の壁も超える才人

 2019年の年明け早々にブルーノート東京で、パット・メセニーをゲストに迎えて行われた特別公演の一環である“SIDE EYE”プロジェクトの一員として、また、才気煥発の日本人若手アーティストがブルーノート・レーベルの名曲を演奏する“ブルーノート・プレイズ・ブルーノート”のゲストとして来日したキーボーディストのジェイムズ・フランシーズ。弱冠23歳ながら、すでにクリス・ポッターやジェイムス・“テイン”・ワッツといった大物ジャズメンはもちろん、ホセ・ジェイムズやコモン、チャンス・ザ・ラッパー、クリス・デイヴなどのコンテンポラリーなアーティストたちとも共演し、その幅広い音楽性を発揮している逸材だ。近年では、シカゴ出身のトランペットの俊英マーキス・ヒルのグループでも来日している。

JAMES FRANCIES Flight Blue Note Records/ユニバーサル(2018)

 そんなフランシーズが、ジャズ・レーベルの名門であり、近年ではロバート・グラスパーをはじめとする多くの先進的なアーティストを擁するブルーノートから、待望の初リーダー作『フライト』を発表した。レーベル・メイトでもあるデリック・ホッジがプロデュースを担当し、マイク・モレノ(g)やクリス・ポッター(sax)といったトップ・ソロイスト、サラ・エリザベス・チャールズ(vo)やクリス・バワーズ(p)などとも共演するバーニス・トラヴィス2世(b)、キーヨン・ハロルド(tp)やヴィジェイ・アイヤー(p)などとも共演するジェレミー・ダットン(ds)など、多彩なミュージシャンを迎えた作品となっている。

 収録曲の方向性は様々で、フランシーズが早くから積み重ねた幅広い音楽経験が反映されているのは、美しいメロディや楽器のサウンドも含めたオーケストレーションに対する高度に洗練された感覚が発揮された《リープス》と、“クリス・デイヴ・ミーツ・エリック・ドルフィー”とでも言うべき《レシプロカル》という、冒頭の2曲を聴いただけでも明らかだ。

 「僕はとにかく、ミュージシャンとしての自分を表現したかった。特定のスタイルの音楽の中に自身のいろいろな側面を盛り込むんじゃなくて、これまでいろいろな音楽を聴いたり演奏したりして受けて来た影響をそのまま表現したかったんだ。曲を書く時には、全体的なサウンドも一緒に思い浮かぶこともあるけれど、基本的にはあくまでも楽曲を重視している。どの楽器を組み合わせるかは、曲が出来てから少しずつパズルを組み立てるようにして決めていくんだ」

 サイドマンとしての仕事と並行して、フランシーズはキネティックというバンドを率いた活動もしている。『フライト』の収録曲はどれも、キネティックのライヴで演奏して練り上げたものだという。

 「キネティックはギター・カルテットの編成が基本だけれど、場合によってはアルバムにも参加しているジョエル・ロス(vib)が加わることもあるし、ピアノ・トリオにヴォーカルかサクソフォンという編成でやることもあるんだ。 《エイント・ノーバディ》はもともとインストゥルメンタルで演奏していたけれど、アルバムでは急遽ヴォーカルを入れることに決まって、ケイト・ケルシー・サグに声をかけたんだ。今はライヴでも彼女にこの曲を歌ってもらっているよ」

 豊富な人脈を活用して柔軟な音楽活動を展開しているあたりは、いかにも今どきのミュージシャンらしい。

 フランシーズはその並外れた音楽的才能に加えて、音を聴くと同時に色も感じる“共感覚”と呼ばれる特殊な能力の持ち主でもある。アルバム中の《ダーク・パープル》は、タイトルどおり濃い紫色が見える曲なのだそうだ。彼はこの能力を活かして、音声信号に対して図形のようなCGが様々に変化するアプリの開発にも協力しているという。アルバム・カヴァーの自画像も自ら手掛けたフランシーズが今後どんな方向性を取るのか、現時点で想像するのは難しそうだ。

 


ジェイムズ・フランシーズ (James Francies)
テキサス州ヒューストン生まれ。現在はニューヨークを拠点に活動するピアニスト、キーボーディスト、作曲家。23歳で、パット・メセニー、クリス・ポッター、ジェフ“テイン”ワッツ、ステフォン・ハリス、エリック・ハーランド、テラス・マーティンなど、ジャズ界の大御所達と共演をしてきたジェイムズは、ヒップホップ、R&Bのジャンルにおいても、ミス・ローリン・ヒル、ホセ・ジェイムズ、コモン、ナズなど錚々たるメンバーと共演してきた。またグラミー賞を受賞したチャンス・ザ・ラッパーのヒット曲《No Problem》にも参加。1月、パット・メセニーの最新プロジェクト“SIDE EYE”のメンバーとして来日した。