写真提供/ブルーノート東京 撮影:佐藤 拓央

トラッドなジャズとカタルーニャ語の新鮮な融合

 ガウディやミロ、ダリ、カザルスなど、様々な分野で天才と呼ばれるアーティストを輩出してきたスペインのカタルーニャ出身で、今年21歳のジャズ・シンガー/トランペッター、アンドレア・モティスが、初リーダー作にしてメジャー・デビューとなる『エモーショナル・ダンス』を引っ提げて、ゴールデンウィークにブルーノート東京で公演を行った。来日したクインテットでベースを担当するジョアン・チャモロは、モティスが10歳の時に入学してトランペットを学んだサン・アンドレウ市立音楽学校の講師で、彼女が9年間在籍したジャズ・バンドのリーダーでもある。他のメンバーもすべて、ここ7年間彼女と活動を共にする気心の知れた面々で、スコット・ハミルトン(ts)をゲストに迎えた2年前の来日公演でも一緒だった。

ANDREA MOTIS Emotional Dance Impulse!/ユニバーサル(2017)

 そのクインテットを中心とするアンサンブルで録音した『エモーショナル・ダンス』では、モティスの爽やかな声にぴったりのトラッドなスウィング・ナンバーからブラジル音楽、自身を含むスペイン人によるオリジナルまで、様々なスタイルの曲が楽しめる。

 「過去に私が参加したアルバムにはない、新しい分野にも挑戦しています。私のオリジナルや、ヴァレンシア出身の素晴らしいサクソフォニストのペリコ・サンビートの曲、それにカタルーニャ語の歌もあります。グループにとっても新しい試みで、私にとっては自分らしさが表現できた特別なアルバムなんです」

 トランペットを吹くのと歌を歌うのとでは、技術的にはまったく異なるが、モティスにとって両者を切り替えるのはごく自然なことだという。

 「ルイ・アームストロングやチェット・ベイカーなど、素晴らしい人たちがたくさんいますしね。これは先生のジョアン・チャモロも言っていますが、プロになるかどうかは別にして、器楽奏者も歌を歌うことが大切です。歌うことによって、メロディーを体に染み込ませることができるからです。トランペッターでは、クリフォード・ブラウンやブルー・ミッチェル、フレディ・ハバード、アヴィシャイ・コーエンも大好きです」

 モティスのオリジナル曲の歌詞は英語だが、これは特に意図したものではないという。

 「意味もサウンドも曲にふさわしい歌詞にしたいと思っていて、たまたま浮かんだのが英語でした。トランペットよりも後に歌を始めたせいか、歌詞よりもメロディやサウンドに注意がいくんです。歌詞も大切ですが、私にとっていちばん重要なのはサウンドです。《マチルダ》では、私の母語であるカタルーニャ語の歌詞とジャジーなサウンドが自然に馴染んでいると思うので、今後はこの手の曲ももっと作っていきたいですね」