ジャズの帝王、マイルス・デイヴィス、初の映画化! マイルスの複雑な人格に迫る、ドン・チードル渾身の一作!

 2016年は、ジャズの帝王の座に長く君臨したマイルス・デイヴィス(tp)の、生誕90年、没後25年のメモリアル・イヤーである。マイルスの甥で、80年代のバンド・メンバーだったヴィンス・ウィルバーン Jr.(ds)が、マイルスがロックの殿堂入りした2006年の授賞式で、伝記映画の制作を発表し、俳優のドン・チードルが主演、監督を務めてインディ・ベースで制作資金を募り昨年完成したのが本作『MILES AHEAD/マイルス・デイヴィス 空白の5年間』である。昨秋のニューヨーク・フィルム・フェスティヴァルのワールド・プレミア上映で好評を博し、今年春に全米公開され、いよいよ12月23日から日本でもロード・ショウが始まる。

 副題に『マイルス・デイヴィス 空白の5年間』とあるが、映画は1979年のある3日間の盗まれたリハーサル・テープの争奪戦を描く架空のストーリーと、1953年から1965年の史実に基づいたマイルスの回想、そして1981年のシーンへのカムバックを描いている。1975年に健康上の理由で隠遁して以来、1979年頃の実際のマイルスは、ニューヨークの312 West 77th Streetの邸宅に引きこもり、ドラッグ、酒、セックスに溺れ、トランペットにも触れなくなっていたという。

 物語は、1981年のマイルス・カムバックのインタヴューから始まる。「俺の音楽をジャズと呼ぶな、ソーシャル・ミュージックなんだ」と言う台詞から、インタヴュアーのデイヴ・ブレイデンと出逢った1979年に遡る。当時のマイルスは、散発的なリハーサル・レコーディングを行っているが、シーンへの復帰の目処は全く立たない状況にいた。マイルス邸でのパーティに紛れて若手トランペッターのジュニア―架空のミュージシャン。チャーリー・パーカー(as)と共演時代のマイルスのニックネームに由来する―と、そのマネージャーのハーパーが、マイルスのリハーサル音源テープを盗み出す。翌朝、テープの紛失に気が付いたマイルスは、半狂乱となりブレイデンを伴いテープの行方を追う。ふとした瞬間に、マイルスは記憶のフラッシュ・バックを見る。1950年代半ばから1960年代にかけて、マイルスは、ジョン・コルトレーン(ts)を擁したクインテット、ギル・エヴァンス(arr,p)とのコラボレーション、ジャズ史に燦然と輝く名作「カインド・オブ・ブルー」、ウェイン・ショーター(ts)、ハービー・ハンコック(p)らによるクインテットで、次々と革新的な作品をリリースしている。当時のマイルスをインスパイアしたのが、美しいバレエ・ダンサーで、マイルスの生涯最愛の女性だったフランシス・テイラーだ。1953年の出逢いから、1965年の別れまでの日々が、名作群のレコーディング・シーンなどを絡めて描かれながら、シーンは79年と過去を交錯する。サウンド・トラックもマイルスの音源から、ロバート・グラスパー(kb,p)、テイラー・アイグスティ(p)ら現代のアーティストのオリジナルがちりばめられている。派手なカーチェイス、銃撃、ドラッグが登場するバイオレンスな79年の3日間は、マイルスがテープを取り戻し幕を閉じる。そして物語は冒頭に戻る。1981年のカムバック・コンサート・シーンは、ステージに1960年代のマイルス・クインテットを支えたウェイン・ショーター、ハービー・ハンコックを中心に、ロバート・グラスパー、ゲイリー・クラークJr.(g)、エスペランサ・スポルディング(el-b)、アントニオ・サンチェス(ds)、そしてマイルス役のドン・チードル(吹き替えはキーヨン・ハロルド/tp。映像には登場せず)が並び、熱いプレイを繰り広げた。音楽界のピカソの如く、サウンドの本質を維持しつつ、その音楽のテクスチャーを華麗なまでに変化させ続けたマイルスの音楽と、架空と史実が混在するストーリーで、その複雑な人格と苦悩を描いた作品である。

 

映画「MILES AHEAD/マイルス・デイヴィス 空白の5年間」
監督・主演:ドン・チードル
音楽:ロバート・グラスパー
脚本:スティーヴン・ベーグルマン/ドン・チードル
出演:ユアン・マクレガーエマヤツィ・コーリナルディキース・スタンフィールドマイケル・スタールバーグ
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント(2015年 アメリカ 101分)
http://www.miles-ahead.jp/
◎12/23(金・祝)より TOHOシネマズ シャンテほか 全国順次ロードショー!