ブクガの侵攻は止まらない! 斬新にしてスタイリッシュ、人懐っこくてエッジーなニューエイジ・ポップ・ユニットが届けるニュー・シングル『412』

 夏といえば、Maison book girlに欠かせないモチーフのひとつである。活動の最初期から存在していた“bath room”(2015年)などの歌詞に見られる言葉選びはもちろん、言わずもがなの『summer continue』(2016年)、さらには先日のメジャー初アルバム『image』にも“end of Summer dream”が収められていたことは簡単に思い出せるに違いない。とはいえ、それらが喚起するイメージは燦々と輝く太陽のシーズン感ではなく、そこには常に秋の気配が貼り付いている。どこか寂しい思い出や残照、ノスタルジア、失ってしまって取り戻せないものの象徴のひとつとして〈夏〉というワードが印象的に用いられているというわけだ。そうでなくても独特の落ち着いた空気がファンタスティックでスタイリッシュな佇まいと結び付いているMaison book girlの音楽ではあるが、さようにプロデューサー・サクライケンタの永遠のモチーフとする世界観とピュアな美意識こそが彼女たちをひときわスペシャルに装飾しているのは確かだろう。

Maison book girl 412 徳間ジャパン(2017)

 もちろん、〈ニューエイジ・ポップ・ユニット〉を謳う実体としてのMaison book girlにとって、夏は精力的な活動の季節に他ならない。今年は先述したアルバム『image』のリリースに合わせてワンマンでの全国ツアーを初めて敢行し、5月の東京・赤坂BLITZにおけるツアー・ファイナル〈Solitude HOTEL 3F〉を成功に導いたわけだが、そんな公演の最後に告知されたのがニュー・シングルのリリースだった。このたび予告通りに登場した『412』は、初回プレス分限定で7インチサイズの特製ジャケ仕様となっている。

 その〈412〉が日付のような意味のある数字なのか単純にファイルなどの無機質なナンバリングなのかはわからないが、今回も表題曲はなく、リード曲にあたるのは1曲目の“rooms”だ。いくばくかの外向きな眼差しと躍動感を湛えていた『image』よりも今回は『bath room』を思い出させる雰囲気で、隔絶された傷心が淡々と紡がれていくサクライ×ブクガらしさ満点のキャッチーなポップ・チューン。一瞬ドキリとするような無音や環境音も織り交ぜながら変拍子でタイトに進行していくアレンジの妙は今回も見事で、これはステージでのパフォーマンスも楽しみになる一曲と言えそうだ。いずれにせよその部屋の中は、冒頭で述べたような〈夏〉の薫りで濃密に埋め尽くされているのは言うまでもない。

 カップリングに収録された“last scene -2017Ver.-”は初作『bath room』(2015年)に収められていた人気曲をリテイクしたもの。稚さを多分に含んでいたオリジナルでの歌唱が、舞台を重ねることで如実に成長している様子をも伝える出来映えだろう。さらに、恒例となったポエトリー・リーディング“a-shi-ta”は今回もコショージメグミがしたためたもので、いつもながらの読後感もしっかり用意されている。

 シリーズ・イヴェント〈夜明けの月と煙〉やリリースにまつわるさまざまな露出を経て、この後は〈TOKYO IDOL FESTIVAL〉や〈@JAM EXPO〉、さらには〈SUMMER SONIC〉内の〈IDOL SONIC〉、そして〈夏の魔物2017〉出演といった大きな舞台でのパフォーマンスも控えている4人。独特の情趣に富んだ『412』を携えてMaison book girlの夏は続いていく。