〈世界地図〉を探す旅の道中で手にした、より開放的な感覚。これまでにないシンプルなメッセージを携え、4人は地図の完成へ向けてスタートダッシュをかける!

 「ホントの意味で〈地図を探すツアー〉だったなあっていう(笑)。地図がない状態から始まって、お客さんの反応――道標を見つけることで、リアルタイムで成長していったステージでした」(佐藤純一)。

 佐藤がそう振り返るのは、fhánaがこの春に開催した〈Looking for the World Atlas Tour 2017〉。〈アルバムの世界観を表現する〉というこれまでのスタイルとは異なり、〈楽しんでもらうこと〉を第一に考えた同ツアーの最終公演において、彼らは『World Atlas』という3枚目のアルバムの制作を発表したが、このたび到着したニュー・シングル“Hello!My World!!”は、アニメ「ナイツ&マジック」のオープニング曲を表題としながらも、バンドがツアーを通して得たものが如実に反映された一枚に。明るく振り切った“青空のラプソディ”の想像以上の好評に始まり、2017年の4人は今、より開かれた地平へ歩みを進めつつある。

fhana Hello!My World!! ランティス(2017)

 

聴く側も弾く側も楽しい曲

――今回のシングルは、まさに先日のツアーと次のアルバムを繋ぐ作品という印象でした。それで、先にfhánaの現状そのもののようなカップリングのお話から伺いたいんですが、まず、“君の住む街”はどんなテーマで制作されました?

yuxuki waga「まずは楽しい曲を書きたいなと思って。かつ、fhánaであまりやってないものを考えたときに、fhána以外のところで書かせてもらった曲のニュアンスを入れたらおもしろいかなと思って、アイマスの曲(〈THE IDOLM@STER 〉関連のキャラソン“little trip around the world”)の、ちょっと跳ねている感じをやってみようと。あと、この“君の住む街”は聴く側だけじゃなくて、弾く側も〈弾けると楽しい曲〉なんですよね。一人一楽器縛りで」

――となると、ここでのkevinさんはどんな音の担当を?

kevin mitsunaga「アコースティック・ギターのサンプリングとかを入れてるんですけど、難儀しましたね。サンプラーで、リアルタイムで再現できるトラックを考えようってことで」

yuxuki「テンポが変わっても全部生で弾けるフレーズに、っていう」

――バンドは一発録り?

yuxuki「一発ですね。ピアノは佐藤さんで、ベースは俺の曲でよく弾いてもらってる二家本亮介さん、ドラムはfhánaが参加した小松未可子さんの“My sky Red sky”で叩いてもらったSHiNさんにお願いして」

――歌はいかがでした?

towana「歌で一番大事なのはリズムだと私は思っているんですけど、そこがすごく重要な曲というか。速いし、高いし、三連とかもあるし。でも歌っていて楽しかったです」

yuxuki「とにかくキメが多い曲なんですよね。歌もまったく同じリズムで入るんで」

――あと、詞は〈いろんな場所へライヴしに行くよ〉というものだと思うんですけど、作詞の林英樹さんとはどういうお話を?

yuxuki「ツアーを経た今のバンドのテーマはいろいろあるんですけど、そのなかで、俺の曲は特に〈いろんなところに行く〉ってことを軸に書いてもらって。ほかにも裏テーマで〈青春感〉――〈昔、好きだった人の街に行く〉とかのちょっと青臭い感じも入れつつ(笑)、大枠としては〈君の住んでる街に行くよ〉っていう歌ですね」

――そして、“reaching for the cities”はfhánaとしては新たな試みのラップ曲で。

kevin「作りはじめた段階ではラップではなかったんですけど、プロデューサーさんやメンバーがアイデアを出してくれて」

佐藤「最初のデモはいわゆるシティー・ポップっぽいものだったので、〈これ、もっとおもしろくするには何かないかな? Aメロをラップにしたらいいかも〉という話になって。あと、結果的にそこまで目立ってないけどヴォコーダーを使ったり、ラップでトラックメイカーっぽい音作りにしたらおもしろいかもね、って」

――この曲、ラップの雰囲気からかせきさいだぁさんあたりを思い出しました。

佐藤「ああ~、そのノリですよね。文科系のラップというか、ヒップホップ」

kevin「ちょっと温度低めで、後半にはポエトリーっぽい部分もあって。僕、ポエトリー大好きなんで、出来上がったものを聴いて、我ながら〈やったー! 嬉しい〉って」

――towanaさんはラップに挑戦していかがでした?

towana「意外となんとかなって良かったです。最初はすごく不安だったんですけど。歌詞を発注した段階では、ラップの部分にも歌詞を乗せるガイドとしてメロディーが一応あったので、その通りに歌ってたまにラップっぽくするのか、それとも全部ラップにするのか、レコーディングまであまり意思疎通ができてなくて。それで、当日〈そんなにラップにするんですか!?〉ってことになって、すごいドキドキしました(笑)」

――この曲は、歌詞も〈旅に出ようぜ〉という出だしが新鮮で。fhánaの皆さんって、〈~だぜ〉感はないですよね(笑)。

kevin「(笑)ですね。特にリクエストはしてなかったんですけど、その〈ぜ〉を含め、僕が青春時代に聴いていた曲とリンクする部分はありますね。くるりの“ハイウェイ”とか“ばらの花”とか、あのへんの曲を聴いて僕は大きくなったので(笑)、関連するワードが出てくる歌詞が返ってきてすごく嬉しかったです。あと、さっきyuxukiさんの曲の話でも言っていましたけど、〈青春感〉っていう裏テーマは“reaching for the cities”にも繋がっているところがあって」

yuxuki「俺の曲のほうは街へ〈行く〉っていう。それでこっちの曲は、街から街へどんどん〈移っていく〉っていう、旅っぽい感じになっています」

――RPGっぽいですね。世界地図が少しずつ描き加えられていく、みたいな。

yuxuki「そうですね。“スウィンギングシティ”(2015年)に通じる歌詞の内容だったり。林さんなりの遊びというか」

佐藤「林君はこれ系の歌詞、得意なんじゃないかな。〈ネット動画じゃ知れない/ほんとかどうかの境界〉とか、〈この街が虚像だなんて/みんなちょっとは気付いてるさ〉とか、いままでのインタヴューでもよく話してる、〈本当は虚像だけど、それを知ったうえで楽しんじゃおうぜ〉みたいな、〈でも、もしかしたらその先には本当のことがあるかもね〉みたいな、渋谷系的な態度みたいなのが盛り込まれてて」

 

希望しかない

――そして、表題曲の“Hello!My World!!”は佐藤さんが作曲で、A-beeさんがバンドと共同で編曲にクレジットされていて。

佐藤「結果的にデジタルっぽいものとバンドっぽいものの中間に落ち着いたけど、最初はもっとEDMに寄せようっていう話もあって。それで、トラックメイカー的な人とのコラボもいいかもってことでA-beeさんに入っていただいて」

――アニメの制作側からのオーダーは?

佐藤「最初は“divine intervention”(2014年)の〈パート2〉みたいな、4つ打ちのバトルっぽい曲を作ってほしいって話だったかな。それが、結果的にはバトルっぽい要素もあるけど4つ打ちじゃなくて、かつ変な構成の曲になった感じです。ワンコーラスのなかで、普通はBメロが入るところにいきなり間奏が入ってサビになって、サビも2段階目の盛り上がりが1段階目のサビと同じ尺だけあって、どっちが本来のサビなんだ、みたいな(笑)。あと、4つ打ちでバトルっぽいものだと手堅い曲にはなるけど、最近のアニソンを聴いていると、意外と4つ打ちの曲って減っている気がして。こういうツービートっぽい、〈ズッタン・ズズ・タン〉みたいなリズムのスピード感とか爽快感のある曲のほうが増えているのかなとも思ったんで、こういうリズムにしてみようかなって。それと、〈Hey! Hey!〉って掛け声が入っているじゃないですか。これもライヴやツアーを踏まえて、お客さんと盛り上がれるようにって思って入れました」

――で、そこにA-beeさんのトラックを混ぜていって。

yuxuki「そうですね。間奏っぽいBメロのクラップとかはウチらからは出てこないんで、おもしろかったです」

kevin「だんだん倍に増えていくっていう、クラブっぽいビルドアップの仕方で」

――では、kevinさんはどういう役回りを?

佐藤「僕からいろいろとディレクションして作ってもらったんですけど。A-beeさんに依頼しようっていう話が出る前から、TM NETWORKの“Self Control(方舟に曳かれて)”(87年)みたいにサビの歌メロとリフが連動して動くっていう、そういう全体感のあるアレンジにしようと思っていて。それでストリングスのカットアップ音でそういうリフを作ってもらったり、あとは、僕が生っぽい音で作ったドラムをデジタルっぽい音色に置き換えてリズム・トラックを作ってもらったり」

――そんななか、後半ではギターとピアノの熱いソロ・パートも飛び出して。

佐藤「間奏のギター・ソロは、もうX JAPANかっていう(笑)。yuxuki君は若干、〈俺、何でこんなギター弾いているんだろう?〉っていうノリになりつつ(笑)」

yuxuki「フレーズは全部決まっていたんで練習して。で、最初はギター・ソロだけだったんですけど、ギターだけだと照れ臭いので、〈佐藤さんお願いだからピアノを入れてください〉って言って、ミューズっぽいピアノを」

佐藤「結果的にHIDEとYOSHIKIになったっていう(笑)」

――(笑)あと、歌もいつも以上にアタックが強いなあと。

towana「そういうディレクションがあって、私も曲に負けないように力強く。ちょっと投げている感じもありますよね」

――手術後の喉の絶好調は続いてますか?

towana「続いてますね(笑)。思った通りに声が出るのが楽しいです。“Hello!My World!!”も歌うのが難しい曲で。テンポ自体もですけど、とにかく展開が速い。どんどん場面が変わっていくので、それを歌でも引っ張りたいなっていうのがあって、それは意識しましたね」

――次のアルバムの制作を発表して、直後のリリースがこういうパワフルな曲っていうのは良いですね。

佐藤「“Hello!My World!!”っていうタイトルも、〈憂鬱の向こう側へ〉〈灰色の世界〉と言っていたこれまでの2枚のアルバムと、この間のツアー〈世界地図を探す旅〉を経て辿り着いた世界なんだよ、みたいな。だから今までのfhánaの曲よりもシンプルなメッセージかもしれない。今までは〈人と人はわかり合えないけど、だからこそ希望がある〉みたいな、〈一周回る〉っていうのが間に挟まっていたんですけど、今回は一周回ることなく希望しかない。そういう強い曲にしたいっていうのはあったかな。『ナイツ&マジック』は主人公がもともと天才プログラマーで、不慮の事故で転生した先がロボットと魔法のある世界で、前世のプログラミングの知識を活かして大活躍していくみたいな話なんですけど、好きなことにとことん熱中するキャラクターなんですね。そうすることで道が開けていく、ポジティヴな力のある作品なんで、それを歌でも表現したいなと。構成は変わってるけど爽快な曲です(笑)」

――(笑)今おっしゃった〈一周回ることなく希望しかない〉っていうのはfhánaにとって大きな変化じゃないかと思うんですけど、そのきっかけは何なんでしょう?

佐藤「やっぱり〈ラプソディ〉を出したことで、もっとお客さんを喜ばせたいと思ったり、聴いてくれる人にポジティヴな力を与えられるような音楽にやりがいを感じたっていうのはあるかもしれない」

――このあとにはアルバムも控えていますが、今はそういう意識で楽曲制作を?

佐藤「そうですね、ぼちぼち(笑)」

――全体の青写真も見えている?

佐藤「見えています。まあ、無事に地図を見つけられたってことかもしれない(笑)、この間のツアーで」