以前、アンダーワールドで来日したカール・ハイドにインタヴューする機会があった。そのとき、予期せず故コニー・プランクの話になったのだが、彼がかつてコニー・スタジオを訪れたことを熱心に語り始めた。新譜のプロモーション取材という限られた時間の中で、新譜のことはそっちのけで話をする姿は、彼がプランクとクラウト・ロックのことをどれほど好きなのか知るには充分だった。そして、ブライアン・イーノとの共演アルバムを聴いたときに、真っ先に思い浮かんだのは、二人の接点にあるだろうプランクのことだった。
そう、イーノ・ハイドの名義でリリースされたこのアルバムには、コニー・スタジオが作り出したクラウト・ロックとエレクトロニック・ミュージックのエッセンスが詰まっている。反復していくリズムパターンとポップだけど控えめな歌には、ノイ!やクラスターを、そしてイーノがデヴィッド・ボウイと作った“ベルリン三部作”を、さらにその後のニュー・ウェイヴの数々のバンドを思い起こさずにはいられない。いや、正確には、コニー・スタジオで手探りで行われていた瑞々しい試みをモチヴェーションにして、音に向かい合った結果が詰まっているというべきだ。
イーノはこの音楽を建造物に喩えていたが、彼が作ったという初期段階の録音はおそらく生演奏を基調にしたプリミティヴな反復音楽だったのだろう。そこにハイドが造形を加えていく作業が、実際どう進んでいったのか詳しいことは分からないが、この音楽からは、そのプロセスがポジティヴなものだったことが伝わってくる。ビッグネームの共演のような大仰さはなく、トレンドへの目配せもなく、自分たちの好むクリエイティヴィティを尊重するために、余計な装飾は加えず、メロディや音色を吟味して、ミニマルだけどストイックなだけではない世界を作った。それゆえに、このアルバムは聴く者の感情を心地よく揺さぶるのだ。