Photo by Yuka Yamaji

 

レコーディングというスペシャルな時間とライヴで音楽をシェアするという新しい感覚、その可能性

 昨年に引き続き来日を果たしたジェイコブ・コリアーの公演を見た。今回もステージ上には彼一人で、キーボード、ベース、ドラム、ギター等、複数の楽器を演奏して歌う。そのスタイルは既に完成の域に達しており、さらにパフォーマーとして魅せるという部分も格段にレヴェルアップしていた。

 「この1年は、『In My Room』のリリースで30か国で130以上のショウをやってきた。それまで部屋の中で音楽を作ってきて、部屋を出てツアーで演奏して回るというのが初めてだったから、演奏のスキルも上がったし、人とシェアする感覚を得ることもできたね。人前で広い場所で演奏することで感じるエネルギーがどういうものか分かったので、その知識を使ってまたレコーディングに戻るのが、今自分がすごく楽しみにしていることなんだ」

 『In My Room』のタイトルそのものに、ロンドンにある自宅の一室はジェイコブ・コリアーのすべてと言っても過言ではなかった。単なるスタジオ以上の、クリエイティヴィティの源となってきた場所だ。しかし、ツアーをしていた1年あまりは殆ど家にはいなかったという。曲作りへの渇望とどう折り合いを付けてきたのだろう。

 「ツアー中は機材が自分のもとにないので曲を作るゾーンに入ることが難しいけど、アイデアは集めておくんだ。全部ボイスメモに録っておいて、家に持って帰ってから作ることはある。とにかく、自分がプレイすることで人を踊らせることができたり、泣かせることができたり、そういうことも今わかってきたので、それを想像しながら音作りやレコーディングをするのが待ちきれないよ」

 楽器演奏や楽曲作りはもちろんなのだが、ヴォーカリストとしての引き出しの多さも、その音楽を際立たせている。歌うことについて改めて話を訊いた。

 「1歳くらいの、しゃべりだしたころから歌っていたね。8歳から自分の歌をレコーディングし始めたんだ。マイクを使っている時は自分にとってスペシャルな時間で、レコーディングというものがとにかく好きなんだ。そして、8歳のときにクラシックの声楽も学び始めて、オペラもやっていたんだけど、13歳の時に声変わりして低くなってからはそれができなくなったので、よりレコーディングに集中するようになった」

 楽器の習得は独学だが、歌うことに関しては先生の元に熱心に通ったという。そのトレーニングから、現在に還元されているものは確実にあるようだ。

 「自分はなにを学ぶにしても楽しんだことがなくて、学校もそうだし、自分なりの学び方の方が強くて、人から学ぶということが好きではなかったんだ。でも、声に関してはすごく楽しんで学んでいたね。そのおかげで呼吸の仕方などがわかっているので、自分が出したい音が今声で出せている。それは経験から得たものだと思う」

 歌うこと、声を重ねること、メロディやハーモニーやグルーヴを作り出すことも、曲の構成や音の質感に拘ることも、すべてに一人で配慮して制作を続けてきたのが、ジェイコブ・コリアーのやり方であり、個性でもあるのだが、他人に委ねてみる気持ちになったことは一度もなかったのだろうか?

 「考えたことない(笑)。今まで自分がやってきたことは、自分が学びたかったことで、それをやる必要があったので作ってきた。でも、今それができた状態なので、次は他の人と一緒になにかやるという準備ができていると思う。次のアルバムだったら誰かを迎え入れてやるかもしれないし、自分が誰かのために何かをやるかもしれない。ひとつのジャンルから始まって、ジャンルをどんどん旅していって、最後に戻っていくような感じというのも考えているよ」

 次のアルバムはまだこれからだそうだが、現在はハービー・ハンコックとの制作に関わっている。ロバート・グラスパーからケンドリック・ラマーまでが参加していると噂の新譜だ。単に曲を提供するだけではなく、新しいアイデアやテクノロジーの話をしたり、プロセスすべてから学ぶことがあるという。まずはそのリリースを楽しみに待ちたい。