驚異のコラボレーション『5O』から4年――それぞれの歩調で創造的な動きを見せてきた天才と鬼才がふたたび音と言葉を交わした。世界基準の音はここにある!
ラップしただけじゃ起きない出来事
3枚のシングルや新曲MVの発表をはじめ、ヒップホップ勢にとどまらぬ多岐に渡る客演仕事と楽曲プロデュース、そして自身初のワンマン・ライヴ開催に、SILENT POETSと手合わせしたNTTドコモのCM曲……と、この3年アルバム・リリースこそなかったもののマイペースな動きを見せてきた5lack。その間に彼は慌ただしい東京での暮らしをやめ、福岡に生活の場を移すこととなった。5lackは言う。
「東京に住んでた時は日々が流れちゃって、一回そのスイッチ切って流れから抜け出さないと、なんかホントやられちゃうというか止まんなくて。でも、福岡ではホント一人ですっごい平凡に過ごしてて、何かいいっすね、とりあえず」。

福岡在住のトラックメイカー、Olive Oilとの『5O』(2013年)以来となる共作アルバム『5O2』もまた、そうした流れの中でようやく生み落とされたものと言えよう。
「前作から続いて曲は作ってたんすけど、Oliveさんもいろんなアーティストとコラボやってるし、俺もソロやってるしで、アルバムはまだでしょと思ってて。でも曲が古くなっちゃうのが嫌で、〈もう出しません?〉みたいな感じでOliveさんと話して。久しぶりに会った時にまたパワーアップしたトラックもいっぱい聴かせてもらって、それでまた何曲か改めて録って、半年ぐらいで出来ちゃいました」。
5lackが「俺が行き着いてない音楽も深く知ってる」と語るOlive Oilのサウンドは、さらに評していわく「いい意味で〈ヒップホップはこういうもん〉っていう基盤がなくて完全にオリジナルで、それがヒップホップとも通じてるし、ジャズやいろんなジャンルとも通じてる」もの。2人の曲作りは基本、打ち合せも特になく、ラップとトラックをキャッチボールする形で進んでいくのだそう。
「大体Oliveさんのトラックが多ジャンル的というかゴリゴリのヒップホップじゃないと思うんですけど、それが俺の解釈のキャッチーさと組み合わさっておのずと曲ができていく感じ。Oliveさんのトラックって聴きやすいものもあるんすけど、ブッ飛んでるものはホントにブッ飛んでるから、聴いた時に俺ん中でバッとすぐ浮かんで、これこう乗せたら絶対やばいみたいな。特に“もういい”とか“¥STERDAY”は、最初聴いた段階でイントロにドラムもないし、めっちゃ難解でしたけど、ラップ一つでトラックのイメージを変えられたと思うし、ただラップしただけじゃ起きないような出来事がアルバムには満載になってる気がします」。
いまにして思えば、東京を去ることをみずから予期していたかのような“その場を後にするには訳がある”で〈さらば過去 振り返らねえ〉と歌った『5O』から、ソロのアルバム『夢から覚め。』を挿み、ここでの5lackは〈Thank You Yesterday〉(“¥STERDAY”)とも歌う。迷いや不安といったネガティヴな面にふたたび囚われながらも、プラス思考ですべてを受け入れるその姿には、現在の彼の在り方がはっきりと映る。もっとも、「歌詞にあまり深い意味を持たそうとしてない」と話す彼にとってそれらはあくまで淡々とした生活の中からふとこぼれ落ちたものにすぎないのかもしれないが。
「ホント自分の悪い癖で、思ってることのテーマがほぼ不満っていうか、問題改善欲が強いっていうか。より良くするためにいい部分に浸り続けていられるタイプではなくて」。
あとで後悔するよ?
ともあれ、メロウ極まる“もういい”をはじめ、細やかな手つきで配したディテールがシンプルな音像に映えるOlive Oilらしいトラック群に、5lackは彼なりのラップで応えてみせた。“Sleepiyz”では本作唯一の客演となるK-BOMBと共演。その異形のラップを道連れに、現実と夢の狭間で〈今日を昨日に変えて歩き出せ〉とのラインを絞り出す。「世界基準」のイメージでOlive Oilと共に作り上げたアルバムだと、5lackは『5O2』に胸を張る。
「進化した日本とか未来、いつかのアメリカとかで自分の存在が正しかったみたいになるのを完璧に狙ってやってるんで、それに気付かないでいたら〈あとで後悔するよ?〉みたいな自信はあります。Oliveさんともよく話してるんすけど、これが海外の奴に聴かれれば超ヤバイ、新しいってなると思う。すごい最先端だと思うんですよ、ただ一人よがりの新しさじゃなくて」。
飄々と時代を泳ぐように登場してきた5lackも歳月を重ね、先を行く者の背中を追いかける世代から、背中を見せる世代へと変わり行く。近年の彼に集まる客演やプロデュース依頼も、彼の音楽を聴いて育ってきた5~10歳下のアーティストが多く、「同じアーティストとセッションしたっていうよりも、ファンの子たちと一緒にやった」ような感覚があるとも彼は言う。そうした立場になった今、MCバトルを一つのきっかけにさらなる注目を集める日本のヒップホップ・シーンについても訊いてみた。
「ヒップホップシーンはやっぱ良くはなってきてるんすけど、それが相変わらず情報だけだったり、一般市民との互換性がすごい欠けてるなって感じる。ジブさん(Zeebra)とかDJ KRUSHさんにしてもそうだし、俺もある意味そうかもしんないけど、例えばTHA BLUE HERBのBOSS(ILL-BOSSTINO)さんみたいな人が出てきて、それっぽい人たちもがーっと出てきても、下に行けば行くほどその存在を知らなくなっていったりするけど、そこもちゃんと知識として繋いでおかないとヒップホップは薄い、弱いジャンルになっちゃうと思う」。
日本でヒップホップをさらに定着させるべく、これからも〈継続こそ力〉を地で行き「若い時からヒップホップ聴いてきた3、40代のリスナーが胸張って聴けるような、歴史のあるジャンルにしたい」と5lackは話を続けた。今回の『5O2』も、引いてはそこへと繋がる一歩でもあるのだ。
「アメリカではナズやジェイ・Z、スヌープみたいな人は常に存在感あるけど、日本的に言うと〈30歳でヒップホップって、大丈夫なのその人?〉みたいな感じじゃないすか(笑)。ロックだって最初は若者のジャンルだったのが、ボブ・ディランのように歳取ってる人がカッコ良くやり続けることでそういうシブいものになっていく。若い子たちと同じようなことじゃなくて、その年齢でカッコいい、その世代でしかできないことをやればいいと思う」。
5lack個人としてはこの3月にみずから音楽面の総合プロデュースを手掛けた『サントラ from EVISEN VIDEO』(スケートボードのトップブランドEvisen SkateboardsゑのDVDサウンドトラック)を高田音楽制作事務所からリリースするほか、1年半ぶりの東京ワンマンも決定し、そちらは早々にチケット完売。さらには新たなソロ作に向けた制作も始まっているという。彼言うところの「みんなが若くいる夢の島」たる日本で彼がどんな歳の重ね方とそれに見合ったヒップホップを見せていくのか。いずれにせよ、Olive Oilとの関係はこれからも続くし、彼らがどこにいようがリスナーは放っておかないでしょ。
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独創的な世界観でマイペースに支持を広げる5lack
5lackの登場がある種のシーンの景色を一気に塗り変えたのは間違いないし、彼のスタイルやアティテュードの影響を後進の中に見ることができるような機会もますます増えてきている。当初S.L.A.C.K.と表記していた彼は、2009年に最初のアルバム『My Space』をDOGEARから発表。同年のうちには実兄PUNPEE、GAPPERと組んだPSGでの『David』をリリース、さらにソロ次作『WHALABOUT』も世に出していて、つまり登場時から彼の気ままな多作ぶりは顕著だったわけだ。
自主レーベルの高田音楽制作事務所を立ち上げて転換点の傑作『我時想う愛』を出した2011年には、ISSUGI、BudaMunkとのSick Teamも始動する。GAPPERと組んだ『我破』(2012年)からは5lackを名乗り、気ままに活動の領域を広げながら、ルーズな歌心も備えた天才肌のラップさながらに独創的な動きを展開。『5 sence』(2013年)、『夢から覚め。』(2015年)といった純然たるソロ・アルバムもコンスタントに届ける一方、Aaron ChoulaiやKOJOE、KOHHと組んでシングルを連続でドロップするなど、リリース形態もいよいよ自由になっている。その合間に登場したのがOlive Oilとの『5O』であった。そんな人気者だけに外部での制作/客演依頼はヒップホップ以外のフィールドからも多いようで、SILENT POETSの“東京”に起用されたほか、近年のコラボレーターにはIlion、LIBRO、DJ KRUSH、KOJOE、JJJ、NENE、iriら世代も幅広いのが興味深い。なお、昨年はPUNPEEのアルバムでPSGが久々に揃ったのもトピックだった。 *轟ひろみ
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膨大なビートをマイペースに創造するOlive Oil
今回のインタヴューに残念ながら不在だったOlive Oilは、奄美諸島は徳之島出身のビートメイカーだ。画家でVJのPopy Oil(Oliveの実弟でもある)と共に2000年代初頭からOILWORKSをスタートして以来、長きに渡ってDJ/トラックメイカーとして活動し、鬼才もしくは奇才としての賞賛をほしいままにしてきた。出てきた当初こそいわゆる〈ジャジー・ヒップホップ〉ブームの流れで見られた時期もあったものだが、ボタニカ・デル・ヒバロやアレパにも通じるアンダーグラウンドな音世界はその範疇を易々と跨ぐものであり、2008年のセカンド・アルバム『Spring Break』以降はそれすら超えて膨大な作品を世に出しはじめ、現在の自由なペースを獲得するに至った。
ここで掲載できる作品は近年のリリースの一部だが、そのなかではKOJOEと組んだ『BLACKNOTE』(2014年)と『HH』(2015年)や、Miles Wordとの『WORD OF WORDS』(2016年)、RITTOとの『アブサン 2014-2017』(2017年)、さらには全曲を手掛けたCHICO CARLITOの『Septile1:南方作戦』など、ラッパーとのタッグ作が数多いのは特徴的で、『5O2』と聴き比べるのもおもしろいはずだ。単曲ではYUKSTA-ILLや泉まくら、NERO IMAIらにビートを提供。本文で5lackが語っているように「多ジャンル的」なビートはどこを切っても新鮮な閃きに満ちている。 *出嶌孝次
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