マーベル・シネマティック・ユニバースの新作「ブラックパンサー」は、MCU通算18作目にして新境地を切り開くとともに、本国アメリカでは興行収入と評価の両面で記録的な偉業を成し遂げつつある。2017年が「ワンダーウーマン」と女性の年であったのだとすれば、2018年は「ブラックパンサー」とアフリカ系の人々の年になるかもしれない、という予感を感じずにはいられない盛り上がりようだ。
アフリカの王国、ワカンダの王子ティ・チャラ=ブラックパンサーを主役としたこのスーパーヒーロー映画にインスパイアされ、いまや押しも押されもせぬ音楽界のキングとして君臨するケンドリック・ラマーとその所属レーベルであるTDEのボス、アンソニー“トップ・ドッグ”ティフィスが制作したのが本作『Black Panther: The Album』で、多数のラッパーやシンガーが参加したコンピレーション・アルバムとなっている。しかし、『Black Panther: The Album』は当然のこと、よくある〈ミュージック・インスパイアード・バイ〉と冠されたありがちなオムニバス・アルバムなどではない。ケンドリックとアンソニー、そして「ブラックパンサー」の監督ライアン・クーグラーの3者が非常に深い位相でコラボレーションをしていることが、アルバムを通して伝わってくるのだ。
全曲にクレジットされたケンドリックの声が聴こえてこない楽曲はなく、彼はブラックパンサーにも、ヴィランであるキルモンガーにも感情移入しながらラップし(もしかしたら、彼はワカンダの民すべてに自身を重ねているのかもしれない)、自らアルバムの通奏低音となり、コンセプトをまとめあげている。王たることへの自負や煩悶、内省的な問いかけ、アンビヴァレントな二面性、アフリカ系としてのアイデンティティーと誇り……リリックのテーマにおいてもサウンドにおいても、本作はケンドリックの『DAMN.』や『To Pimp A Butterfly』の延長線上にあり、彼の新作と言っても差し支えがないほどだ。特に、“King’s Dead”の後半における畳み掛けるような怒涛のラップは、あらゆるラッパーをディスった“Contorol”(2013年)を思い出させるような気迫に満ちている。
まさに「ブラックパンサー」を音楽作品へと昇華しているような本作に、自然な成り行きとしてアフリカのミュージシャンたちが多数参加している点にも注目すべきだろう。サウディ、ゴム・クイーンのベイブス・ウドゥモ、ジャヴァ、リーズン、ユーゲン・ブラックロクら、様々な国とジャンルのアーティストが『Black Panther: The Album』に歌声を寄せている。また、一方で、フューチャーやウィークエンドのようなスーパースターや、SZAらTDEのアーティストはもちろんのこと、英米の若手たちがフックアップされているのも本作の特色。彼/彼女らの客演からは、自分たちが2018年の、ひいては未来の音楽シーンを作っていくのだと言わんばかりの気概が感じられる。デビュー・アルバム『Gangin』をリリースしたばかりのSOB X RBEを筆頭に、ジョージャ・スミス、『American Teen』(2017年)をヒットさせたカリード、アンソニーの息子であるザカリやレイ・シュリマーのスウェイ・リー……〈新人ショウケース〉という定型句に収まり切らないスケール感だ。本作が2018年の最重要作品となることは、あらゆる点においてすでに約束されている。