生誕110年を迎えた20世紀のスター指揮者の広範な全体像にUHQCDとDVDより迫る!

 「楽壇の帝王」の名をほしいままにした20世紀を代表する名指揮者、ヘルベルト・フォン・カラヤンが生誕110年を迎えた。没後29年が経過したが、彼の芸術が現代に力強く生き続けていることは、今回のUHQCD(メモリーテック株式会社が開発した新製法の高品質CD)やDVDの記念シリーズを見ても明らかである。

 まずUHQCDの30タイトルを見てみよう。オーケストラ曲では、ベートーヴェン、ブルックナー、ブラームス、マーラーといったドイツ&オーストリア系の名作交響曲群から、ビゼーの《アルルの女》、ワーグナーの管弦楽曲集といった親しみやすい名曲まで、カラヤンの最晩年にあたる1980年代のデジタル録音で14タイトルが選ばれている。カラヤンの初録音は戦前のSPレコードの時代、1938年のことだが、以来、半世紀にわたって録音を続け、CDの収録時間に換算して約600枚分もの録音を残した。これらの録音が世界に販売されることで「カラヤン」の名と芸術は有名となり、例えば1954年の初来日や1955年の初訪米の前に、日本やアメリカの愛好家にすっかり知られていたのである。また、一部のお金持ちや知識層のものだったクラシック音楽を、豊かな音楽性と抜群の統率力を背景とした、美しい彫琢をもった、劇的効果に富んだ分かりやすく魅力的な演奏により大衆に解放した。ハンサムな容姿も相まって、1950年代には本場ヨーロッパでクラシックのアーティストとしては他に類を見ない大スターとなり、その派手な私生活(ヨットやジェット機を乗りこなし、フランス人のモデルと結婚する)もマスコミの注目を集めた。この人気がレコードの販売を伸ばし、コンサートの観客動員にも繋がり、また次の録音が行われる、といった「永久機関」を生みだした。1982年にレコードに代わる新しいメディア、CDが登場すると、自らのレパートリーを全てCDで再録音する、と宣言して1989年に亡くなる直前まで録音をし続けた。つまり、この14タイトルは、初めからCDで発売することを想定して録音されたものなのである。全ての曲が、カラヤンが繰り返し録音してきたものだが、その最終結論が、21世紀の技術の高品質CDで蘇る意義は大きい。

 一方、オペラと声楽曲を収めた16タイトルは、1959年のアナログ・ステレオ録音の『アイーダ』から、最後のオペラ録音となった1989年の『仮面舞踏会』まで幅広くセレクトされている。レコード会社にとってオペラ録音は多額の費用がかかる巨大プロジェクトだが、カラヤンは1960年代半ばに、実際のオペラ上演のリハーサル時に録音を行い、その費用を劇場と折半するというアイディアを思いつき、実行に移した。レコードがオペラ上演を宣伝し、オペラ上演がレコードのセールスに繋がるという「永久機関」がここにも生まれた。今回のシリーズでは『カルメン』『フィガロの結婚』『ドン・ジョヴァンニ』『ばらの騎士』『パルジファル』が、こうしたやり方で生まれた名盤である。

 一方のDVDシリーズには、音楽家としていち早くテレビ、ビデオの重要性を認識した彼の姿が刻まれている。彼は1959年の来日時、見知らぬ日本人から次々に声をかけられるのを不思議に思い、それが前日のテレビ中継が理由と分かり、その影響力の大きさに驚いた。そして1965年、自らコスモテル社を設立して、コンサートやオペラの映像作品化に力を注いだのである。今回のシリーズでも、多くはカラヤン自身が芸術監督を兼ね、カメラワークを駆使した文字通りの「映像作品」となっている。オーケストラ曲では、目を閉じて指揮をする彼の有名な姿と、彼が演奏に抱く映像的なイメージがともに映し出されているし、オペラでは演出家もこなした彼の経験とアイディアが生き、『カルメン』と『道化師』では彼自身が役者として写り込んでいる!

 両シリーズに接することで、多才な芸術家にして放射思考の持ち主、カラヤンの驚くほど広範な全体像に迫ることができるだろう。

 


カラヤン名盤UHQCD Vol.2  全30タイトル  2018. 3. 07 ON SALE
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