小学館より驚くべき企画がリリースされた。クラシック音楽をテーマにした雑誌は数あれど、これほど豪華な企画は未だかつてなかったであろう。2014年1月に創刊された「クラシック・プレミアム」は隔週刊、全50巻のCDつきマガジンであるが、ただのマガジンではない。最も特筆すべき点は、収録されているCDが“SHM-CD”であるということだ。いまやクラシック音楽視聴のみならず、音楽を楽しむ上では欠かせない高音質フォーマットである「スーパー・ハイ・マテリアルCD」。それを世界で初めてマガジンの付録にしてしまったのだから贅沢である。
収録されている楽曲はユニバーサルミュージックやEMIクラシックス、ワーナーミュージックらの協力により豊富な音源を用意。その中から厳選した名曲、名演を50巻のSHM-CDに、60分を超え余すことなく収録している。まさに「プレミアム」の名にふさわしいシリーズの誕生だ。
クラシック愛好家にはもちろん、僕は何よりクラシック音楽に今まで馴染みのなかった人にこそ、このシリーズをお勧めしたい。クラシックの中でも人気の高い作曲家、楽曲を取り上げており、しかも全50巻という長大な企画の中で幅広く網羅している。それを歴史に名を刻んだ名演という極上の音源で楽しめ、何より安価である。「クラシックは何から聴いていいかわからない」、そう悩んでいた人にはまさにうってつけの企画である。好きな楽曲が収録されている巻だけ買うも良し、興味はあったけどなかなか手を出せなかった作曲家の号に挑戦するも良し、これを機にクラシック音楽を全部楽しみたいというのも良いだろう。これこそクラシック音楽と「出会う」最高の機会なのである。
第1巻では《カルロス・クライバー ザ・コンサート》と銘打たれたベートーヴェンの交響曲集。あの名盤の名高い「運命/第7番」の登場だ。カルロス・クライバー交響曲録音のデビュー作にしてベートーヴェン:交響曲第5番ハ短調と交響曲第7番イ長調の決定盤となったウィーン・フィルハーモニーとの名演である。クラシック音楽の世界でも伝説的な音源を、さらに高音質で楽しめるのだからたまらない。この巻では更に1975年録音のバイエルン国立管弦楽団との共演である喜歌劇《こうもり》序曲も収録され80分にも及ぶ至福の時間を体感できる。まったく第1巻からなんてことをしてくれるんだ!
第2巻はモーツァルトの珠玉の楽曲をカラヤン、アバド、グルダ、ピリスが奏でる。帝王カラヤンが終生取り組んだ《アイネ・クライネ・ナハトムジーク》。今回収録されているのは最後の録音となった1981年、至極の演奏である。そして続くのはモーツァルトが得意としたピアノ協奏曲。最も人気が高いとも言われている第21番ハ長調を若きピリスが清冽に、最後の協奏曲となった第27番変ロ長調を渾身のグルダが、それぞれ取り組む。その二人の名手と協奏するのは、2014年1月に惜しむらくもこの世を去ったクラウディオ・アバド率いるヨーロッパ室内管弦楽団とウィーン・フィルハーモニー。彼ら大巨匠たちの協奏を是非ともSHM-CDで堪能していただきたい。
と、CDにばかり目が行きがちだがマガジンも目を引く内容だ。諸石幸生氏を筆頭とする豪華執筆陣による連載、久石譲氏や芥川賞受賞作家・堀江敏幸氏のエッセイ。小ネタや豆知識も踏まえながら指揮者・作曲者・楽曲すべての理解を深めるのに適した充実した内容である。
さてご紹介した第1巻・第2巻からその素晴らしさ、否すさまじさをご理解いただけたかと思うが、続刊も豪華なラインナップである。
第3巻では毛色が変わりドヴォルザーク・スメタナのチェコ国民楽派の登場だ。ケルテスによる《新世界交響曲》とクーベリックの《モルダウ》、どちらもこの楽曲を代表する名演だ。
第4巻ではブーニン、リヒテル、ルイサダと名匠たちの饗宴ともいうべきショパン・ピアノ作品集。”ショパンの音楽”を感じるには最適な一枚となることだろう。
さらに以降、ヴィヴァルディ、チャイコフスキー、バッハと毎号飽きさせないラインナップが続く。曲目を見てみるとどれも見逃し難い、いや聴き逃し難い。少しでもクラシック音楽に関心のある方ならば、是非ともこのシリーズに注目していただきたい。期待に大いに応えてくれる「プレミアム」な内容であることを保証しよう。
▼関連作品
左から、カルロス・クライバー・ザ・コンサート/ベートーヴェン1 『クラシック・プレミアム1』、モーツァルト1 『クラシック・プレミアム2』、ドヴォルザーク・スメタナ 『クラッシック・プレミアム3』、ショパン 『クラシック・プレミアム4』(すべて小学館)
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