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90年代の所謂コロムビア期は、その姿をメディアでも頻繁に見かけていたし、このタイミングで彼らのファンになった人はきっと少なくないと思う。とはいえ、あくまでもカーネーションは同時期のJ-Pop、ひいては渋谷系周辺とも一線を画した存在であり、むしろ彼らが90年代後半にかけて並走していたのは、当時のオルタナ・カントリーや〈エレファント6〉関連、あるいはシカゴ音響派などの北米シーンだった。

とりわけ『Parakeet & Ghost』(99年)は衝撃的な一枚で、約半分をインスト曲が占めるという攻めた構成もさることながら、オルガンを中心に据えた演奏とサウンド・エフェクトが混じり合い、時には生活音のサンプリングまでが無造作に切り貼りされたイビツな音像は、カーネーションのディスコグラフィーでも一際異彩を放っている。

99年作『Parakeet & Ghost』収録曲“たのんだぜベイビー”。共同プロデュースは元・the pillowsの上田ケンジ

メンバー2名の脱退を受けて、『LIVING/LOVING』(2003年)以降のカーネーションは3人編成へ。このトリオ時代は、いわば直枝政広(ギター)、大田譲(ベース)、そして矢部浩志(ドラムス)という各プレイヤーの個性と実力があらためて露わになった時期。以前に直枝さんは自身が書いた文章のなかで「99年から09年の半ばまでは地獄だった※1 と振り返っていたが、いちファンとしてはそんな想いなど知りもせず、このバンドの変化を楽しんでいた。

そういえば、結成30周年を記念したカーネーションのトリビュート・アルバム『なんできみはぼくよりぼくのことくわしいの?』(2013年)にはトリオ時代の楽曲が入ってないのだが、そのことについてはトリビュート制作発起人の澤部渡と佐藤優介が「トリオ時代は完成されてるものが多すぎる」「(トリオ時代は)聖域」とそれぞれ発言しており※2、それもまた非常に納得できる話だと思った。

※1 『LOVE SCULPTURE (Deluxe Edition)』(2009年)でのセルフ・ライナーノーツより

※2 「ミュージック・マガジン」2014年1月号掲載記事より

2009年、ドラムの矢部浩志さんが脱退。そして現在に至る2人体制のカーネーションがここから始まる。その幕開けを飾ったのが、14作目のアルバム『Velvet Velvet』。

語弊を恐れずに言えば、このアルバムはカーネーションの諸作のなかでも、随一のエナジェスティックな衝動性に満ちたロック・レコード。それでいて原点回帰的なものではなく、むしろ初期のひねったサウンド・デザインとは違った、視界が開けていくようなストレートさがこの作品にはあるのだ。

2009年作『Velvet Velvet』収録曲“Velvet Velvet”

そして2人体制になってからのカーネーションは、おのずとゲスト・ミュージシャンを外部から招くようになる。かねてから直枝さんは〈参加メンバーを選ぶ=アレンジ〉だと語っていたが、実際にそうしたサポート・プレイヤーの往来がバンド内の風通しをよくし、その後の『SWEET ROMANCE』(2012年)、『Multimodal Sentiment』(2016年)における音楽的なレンジの広さと抜けのよさにもつながっていく。

2012年作『SWEET ROMANCE』収録曲“I LOVE YOU”

2016年作『Multimodal Sentiment』収録曲“いつかここで会いましょう”