
横浜アリーナさえも通過点にして、時代を完全味方につけた6人はどこへ向かう? さらに遠心力を増したニュー・シングルはその未来を占う美しき新境地だ!
次へ進むための通過点
「それまで横アリは〈旧BiSが解散した場所〉っていうイメージが強くて、そこに立てるなんて凄いことだなって思ってました。でも、実際は一瞬で終わってしまって、〈あれ?〉みたいな感じ」(モモコグミカンパニー)――この、拍子抜けするほど率直な感想こそがグループの現在地を言い当てた率直な言葉なのかもしれません。3月のシングル“PAiNT it BLACK”がついに初のオリコン週間1位を獲得し、その姿をTVやCMで観ることも珍しくなくなったBiSH。4月の中野サンプラザ公演で〈BiSH pUBLic imAGE LiMiTEd TOUR〉を完走し、5月22日には過去最大規模となる横浜アリーナ公演〈BiSH "TO THE END"〉を大成功のうちに終えた彼女たちですが、当日の6人を取り巻いていた不思議な風格は、そんな晴れの空間すらゴールではないと思わせるものでした。そこに早くも届いたのが初の両A面シングル『Life is beautiful/HiDE the BLUE』です。

――改めて振り返ってみて、横浜アリーナはどんな思い出になりましたか?
アイナ・ジ・エンド「横アリだからって、いつもと違うことを意識したりはしなかったんですけど、最初に立った瞬間は、〈でっか~〉みたいな感じでしたね(笑)。奥の席の人の顔が照明とかで見えなくて、〈ホントに人いるのかな?〉みたいな気持ちになっちゃうぐらいで。でも、MCの時にカッて客席が照明で照らされた時に、ホントに全員の顔が見えて、〈あ、ちゃんと来てくれてるんだ〉ってわかって、そこからいつも通り1対1で歌う感覚になれて、ちょっとずついつものBiSHっていうか、いつものアイナで歌えました。動物園みたいになって楽しんでくれてるのがいっぱい見えて、〈いつもと変わんないな〉〈自由なんだな〉って思うと、愛おしくて楽しかったです」
ハシヤスメアツコ「うん、大きいなっていうのが第一でしたね。1万人規模のワンマンが初めてだったので、もっと緊張するかな?って思ったんですけど、横浜アリーナに辿り着くまではずっと緊張してて、当日は実際そんなに緊張しなかった、というか、緊張できる余裕があんまなかったですね」
アユニ・D「野音だったり、幕張だったり、大きい会場でやる時ってどうしても〈ここが勝負所だ〉みたいになって、みんなもたぶんプレッシャーに押し潰される感じになっちゃってたんですけど、今回の横アリはツアーのファイナルも終えて、次のツアーまでの……何だっけ? えっと」
モモコグミカンパニー「通過点?」
アユニ「そう、通過点っていう意識で全体がやっていたので、大きい会場でも気持ち良くできたなと思います」
リンリン「やる前は、人生で楽しかった思い出を訊かれたら横アリが一番に浮かぶような日にしたいって思ってたんですけど、意外と……すぐ忘れそう(笑)。何か、緊張とかプレッシャーが重なるとかじゃなくて、普通のライヴじゃないけど、普通に通り過ぎれて。先がもっと見えた感じがしました、大っきい将来の」
――セットリストも特別なセレモニー向けじゃなく、通常運転みたいな感じでした。
セントチヒロ・チッチ「そうですね。チーム全員の気持ちとして、特別感というよりかは、この先のBiSHに向かっていくうえでの第一歩みたいな、横浜アリーナはそういう位置付けかなって思っていて、だからこそのああいうセトリかなって。そこで新曲2つも初披露させてもらって」
幅広いリスナーに向けて
――はい、その新曲2つが今回の両A面シングルですね。まず“Life is beautiful”は大らかなスケール感のある曲ですが、ステージで拝見したらお墓に埋葬するみたいな振付けがあったりして、どういうストーリーがあるんでしょう?
アイナ「あれはMVの構成表をいただいた時に、凄い刺さるものがあって。二人でひとつのものをずっと共有してきたのに〈死だけは共有できない〉っていう物語なんですけど、私はそれを個人的に受け止められなくて。で、MVではその物語を表現するとして、振付けでは〈死も共有したい〉っていう願望を込めました。リンリンとアユニがおじいちゃんおばあちゃんの役をしてるんですけど、アユニが天国に行って、一度はけるんですよ。それで、みんなが献花をするとアユニが天国からリンリンを迎えに来て、二人でお花畑に向かうっていうか、また違う死を二人で共有する……っていうイメージで付けました」
――深いですね。MVの内容が先にあってから振りを作ることってあるんですか?
アイナ「初めてですかね。うん、MVを観てくれた人にはライヴでも共通点を感じてもらいながら、でも、〈ライヴだと何か感覚が違うな?〉って思ってほしくて、リンクさせてみました」
チッチ「最初にデモをいただいた時はただストレートなラヴソングだと思ったんですよ。で、歌ってからMVを撮って、〈そういう見方もあったんだ〉って気付いたというか。それで〈人生は美しい〉って何だろう?って最近よく考えてたんですけど、MVのラストカットでおじいさんが共有したものの中に独りでポツンといるのを観て、こういう感情を歌で表現できたらBiSHって凄い強くなるなって思ったんですよ。いままで明るい曲とか強い曲とか、元気な曲をやってきて、“Life is beautiful”はラヴ・バラードなんで、そこでどれだけ新しい自分たちを観せられるかっていうのは凄い新境地なので、私たちにとっては挑戦の一曲。難しい曲なんですけど、これからBiSHにとっては大事な曲になっていくし、大人の人にも共感してもらえると思うので、幅広い人に聴いてもらいたいですね」
――歌詞も普遍的なテーマですよね。作詞は恋愛好男という方ですが……。
モモコ「いろんな名前をお持ちの、あの方ですね(笑)」
アイナ「恋愛好男ってヤバくないですか? めっちゃおもろい(笑)」
――これは照れ隠しですよね。テンポ的には“JAM”に近かったりしますけど、Aメロがラップ風だったり、またいままでにない仕上がりになっています。
モモコ「ラップもそうですし、サビの高音が凄いキレイで、そこも意外とBiSHになかった歌い方じゃないかな。あと、シングル曲でAメロが私から始まって、次ハシヤスメが歌うみたいな感じの歌割になってるのも凄い新鮮だなと思いました」
――6人個々の聴かせどころが均等に出てる感じは、もう一曲の“HIDE the BLUE”もそうですね。そちらは綺麗なストリングスとピアノが軽快なアップになってます。
アユニ「“HIDE the BLUE”は青春を表してて、アニメのタイアップ曲なんですけど、高校生の恋愛物語っていう作品のストーリーにもリンクしてて、人それぞれにある青春の共通点みたいなのが描かれてると思います」
アツコ「うん、凄い青春だし、爽やかだなって思って。で、PVとか振付けに青春要素? 例えば最後の部分で、みんなで集団下校してるみたいな部分があったり」
チッチ「集団下校……仲良い子たちが一緒に帰るみたいな」
アツコ「みたいな感じだったりとか、そういう完全にストレートな青春ソングの中に、サビの一番良いところで変顔がボンッて出たりとかすると〈ああ、何かBiSHっぽいな〉って思ったりしますね。で、これは通勤、通学、朝の時間帯に聴けば〈一日がんばろう〉って思える曲だと、私のデータで出てます」
モモコ「ハシヤスメ・データ」
アツコ「ハシヤスメ・データです」
モモコ「違う層の人たちも取り込めるような曲だと思っていて、アニメのタイアップでもあるし、アニメ好きな人もたぶんこの曲好きっていう人多いんじゃないかな?とか、若い女の子とかもここを入口にして他の曲も聴いてくれたら、もっと好きになってもらえるんじゃないかなって思います」
――リンリンさんは間奏のダンスでめっちゃフィーチャーされてますね。
リンリン「え、あんま踊ったことなかったんで、ちょっと怖かったんですけど。でも、レコーディングする前からめっちゃ好きって思えた曲で、あんまなかったんで、そういうの、いままで」
――あんまりなかったんですね(笑)。
リンリン「アイドルっぽい感じの可愛い曲が好きだから、これがちょっとそれに近いなって思って。だから楽しいです」
――このシングル2曲は両方ともタイアップですし、他にもキリンレモンのCMソングに抜擢されたり、メジャーなお仕事が続いてますよね。そうやって幅広い世間から求められる存在になるなかで、今回の2曲は特に象徴的だと思うんですけど、いつも以上に〈きれいなBiSH〉みたいな側面が前に出てきて、従来の姿を期待してる人からはどう見えてるのかな?とかちょっと思ったりもするんですけど。
チッチ「やっぱ王道を行ってるので、そうですよね。“Life is beautiful”のMVを公開した時も〈こんなのBiSHじゃない〉とかって意見もあったりして。でも、BiSHはずっと同じことをやってく人たちじゃないし、〈まあ、見てろよ〉っていう思いでいます。いろんなおもしろいことをやっていくから、BiSHは。〈染まっちまったな~〉とか思ってる人がいたら、それはその人の負けだなって思いますね(笑)」
――見られ方の変化は実感しますか?
アツコ「うん、でも、それポジティヴに考えると凄い良いことだなと思って。ビジネスでも〈安定=衰退〉って言うじゃないですか? 安定って良いことだけど、それだけだと衰退するし。だから違う側面を見せられたり、いろいろ挑戦できるのは良いことだな、って私はポジティヴに捉えてます」
――どんどん持ち札が増えるわけですからね。
アツコ「〈また一緒かよ~〉ってのよりも、〈え、また違う~〉みたいな感じ、私はおもしろいと思ってますね。いろんなBiSHが見られて、はい」