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〈ようやくわかった!〉って感じなんです

――これまでの作品で歌われていたのは、東日本大震災や原発事故、あるいは〈街〉といったbutajiさんを取り巻く環境や外側の出来事についてだと僕は考えているんです。それらにご自身を重ねられていたと言ってもいいと思います。でも、今回の『告白』は、内面の表現に向かった側面があると感じています。

「うん。それはあると思います」

――どういうきっかけでそうなったんですか?

「前作を作った後、自分が何を作っていくかをずっと決めかねていたんですよね。漠然と言ってしまうと、僕は今年で30歳になるんですけど、〈30歳になるんだ〉っていう実感が強くあった。結婚したり、子どもが出来たり、両親を看取ったり、自分が老人になっていったり――そういうことと自分は無関係じゃないんだなっていう実感を得たんですよね」

――わかります。僕も29歳なので、〈サーティーズ・クライシス〉というか(笑)。それはネガティヴな感情ですか?

「ネガティヴじゃなくて、〈あっ、生きてるんだな〉ぐらいの(笑)。〈ようやくわかった!〉って感じなんです。いろいろな判断を保留にしてたんだと思います。だけど、〈ついぞ来たか!〉と(笑)。それは私生活でいくつかの取り返しのつかない出来事があったからなんですが。そういう経験が自分の身に降りかかるとは思っていなくて……」

――具体的な楽曲についてお伺いすると、3曲目の“秘匿”は一橋大学のアウティング事件から影響を受けて作られたということです。あの事件をそのままモティーフとして歌っているようにも感じられるのですが。

「そうとも言えるかもしれません。ニュースを聞いたとき、とても胸を痛めたんです。事件の詳細を読んでいくほど、よくわかってしまうという」

――かなり詳しいことが報道されていましたね。

「何がなんだかわからなくて、本当に落ち込んで。近いところや同じコミュニティーにいるけど、違う思想や考えを持った人――そういう人とどうやって話せばいいんだろうか?とか、そんなことを考えるきっかけにもなりました」

 

僕はやっぱり、〈ポップス〉という形式をとても強く信じているんです

――デモを頂戴して、DMのやり取りをしていたときも「わかりあえない他人と、もしくはわかりあえない自分自身とどうやって生活していったらいいのかということが問題なんです」と書いていらっしゃいました。

「まさにそうですね」

――他人だけでなく、自分自身ともわかりあえない部分があるんですか?

「例えば、僕のふとした発言に違和感を持っている人は、もちろんいると思うんです。その言葉の背後にある思想や影響を受けたものってどこにあるんだろう?って考えていて。そのルーツは家庭とか、そこで培われてきた社会性になってくると思うんですけど、そこまで遡らないと自分に深く根付いているものって解き明かせないんですよね。

それをやらないと、自分が話していることが本当に自分の言葉や意思なのかというのがわからなくて、責任が持てないんです。自分の言葉はどこかから借りてきたものなんじゃないか?という疑いがあって。だから、〈自分とわかりあえない〉というか、〈自分がわからない〉というか」

――『告白』はご自身のことを突き詰めて作られたアルバムだと強く感じます。妥協や嘘を感じません。

「切羽詰まってますよね(笑)。僕はやっぱり、〈ポップス〉という形式をとても強く信じているんです。だから、そこに注ぐ言葉がどんな方向に向かってしまうのか、とても気を付けなきゃいけない。それを意識的に突き詰めるのは、自分が歌詞を書くうえでやらなきゃいけないことだなって。

ホントにふざけたような、どうしようもない歌詞が多いから……いま、ポップスという形を持った音楽のなかには。意味がないならまだいいんですけど、自分が意図していなくても意味が生まれちゃうと思うんです。まさかのことが起きてしまってからでは遅いから、責任を取れないのが僕は嫌でした」

――そういえば、宇多田ヒカルさんの〈NO MUSIC, NO LIFE.〉のポスターに「音楽に責任はありません」と書かれていたのが話題になっていました。

「あれだけだと真意はわかりませんが、音楽に責任はない……かはわからないんです。〈社会性〉を遡っていくと、個々人に返っていくんですよね、個と個から社会は成り立っているわけで。……〈ゴキブリを1匹見たら、10匹いると思え〉みたいな(笑)」

――喩えがひどい(笑)!

「ハハハ(笑)! 個に向かって歌っている限り、そこに社会性はあると思うんです。宇多田さんも個や孤独についてずっと歌っているわけですよね」

――butajiさんの音楽って、宇多田ヒカルの音楽にすごく似ていると思うんですよね。

「それは、やっぱり孤独について歌っているからかなって。〈わかりあえない〉ことについて歌っている――そういうところが重なっているのかもしれません」