注目の若手鬼才ピアニストが、ベートーヴェンの3大ソナタに挑戦!!

 すでにツアーが始まっているが、7月~9月にリサイタルツアーを行っている反田恭平(p)。昨年に続き、コンサートと連動したCD企画の第2弾はベートーヴェンのソナタ大8番《悲愴》、第14番《月光》第23番《熱情》の3大ソナタを中心とした王道プログラムに挑んでいる。すでに録音と実演に接し、各々に感嘆された方も多いことだろう。

反田恭平 悲愴/月光/熱情~リサイタル・ピース第2集 Columbia(2018)

 冒頭を飾るのは、《月光》と《熱情》の間に書かれた《創作主題による32の変奏曲》。各変奏の音型を左右の手で入れ替える、数理的で実験的な作品だ。ここでの反田は、力強さ、抒情美、流麗さなどを効果的に加味し、同時期のソナタ《ワルトシュタイン》を想わせる、壮大で感興豊かな伽藍を構築。例えば、テンポ、タッチ、音の粒揃いが精確無比な第14変奏や、休符を次の音への溜めとして巧みに扱う第20&21変奏など、持ち前の知性と感性が随所で光る。

 続く《悲愴》では、反田も解説の中で述べているが、「モーツァルトのように古典的で溌剌と演奏することで、《悲愴》の標題にも関わらず、次へ向う何かを感じさせてくれる音楽」が颯爽と展開される。第1楽章の重々しい和音に続く情熱的なアレグロも、第2楽章の慈愛に満ちたアダージョも、過度な表情をつけずにストレートに突き進み、第3楽章ラストの造形(穏やかな回想から突然のフォルテッシモに転じて結ばれる流れ)は実にスタイリッシュ。本作が古典派の頂点に立つソナタであることを強く実感できる。

 《月光》でも、「最初は《幻想曲風ソナタ》として構想されたので、ロマンティックな側面も重要。ただ、自分はより醒めて取り組んだ」という本人の言葉通りの成果を上げている。第1楽章の有名な三連符は常に横へ横へと流れ、パリ市の標語“漂えど沈まず”のような世界を現出。その後、第2楽章ではアクセントをやや際立たせた上で、第3楽章を輝かしい音色で飛翔。約3オクターブを駆け巡るコーダのアルペッジョでも、スマートで抑制の効いた表現は隅々まで徹底されている。

 そして、締め括りの《熱情》。当盤全体の特長でもあるが、反田の音響とテンポの設計、特にダイナミックレンジのみごとさに改めて驚嘆した。その一例が、第1楽章冒頭の主題を提示する弱音と、コーダの最高潮で第2主題の旋律を奏でる際の強音の対比。さらに、その流れの一点の曇りもない完璧さ。後続の第2&3楽章は、立派過ぎて、もう何も言うことがない。

 邦人ピアニストでは間違いなくベスト盤の一角。ケンプ、ゼルキン、グルダといった過去の大巨匠の名盤とも十二分に渡り合える、3大ソナタの新たなるハイエンドの誕生だ!!

 


LIVE INFORMATION

反田恭平 ピアノ・リサイタル全国ツアー2018-2019
○8/25(土)島根県松江市総合文化センター プラバホール
○8/26(日)広島県三原市芸術文化センターポポロホール
○8/30(木)高知県高知市高知県立文化ホールグリーンホール
○9/01(土)熊本県熊本市シアーズホーム 夢ホール熊本市民会館
○9/02(日)宮崎県宮崎市メディキット県民文化センター
○9/08(土)新潟県長岡市長岡市立劇場 大ホール
○9/09(日)東京都サントリーホール 大ホール
○9/15(土)沖縄県浦添市てだこホール

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