INTERVIEW

反田恭平『ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番/ピアノ・ソナタ第2番』 一音一音に真摯に向き合う変わらないスタイルで、原点でもある難曲に挑む

反田恭平『ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番/ピアノ・ソナタ第2番』 一音一音に真摯に向き合う変わらないスタイルで、原点でもある難曲に挑む

一音一音に真摯に向き合う変わらないスタイルで、原点でもある難曲に挑む

 現在の勢いを知れば知るほど、まだデビュー・リサイタルから3年しか経っていないという事実には驚くほかない。24歳にして日本で最も人気の高いピアニストのひとりとなった反田恭平。2019年の新譜は、待望のラフマニノフ・アルバム第2弾である。

反田恭平 ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番/ピアノ・ソナタ第2番 Columbia(2019)

 メインとなるのは反田が高3で日本音コンを制した際にも演奏していたピアノ協奏曲第3番だ。反田にとって最も思い入れのある楽曲のひとつだというが、彼はこの曲をどのように捉えているのだろうか。

 「これは僕の推測でしかないですけれど、2番の協奏曲を作曲して、ラフマニノフはスランプを抜け出したじゃないですか。それが好評だったが故に3番も書いてみようとなったわけです。だから、この曲は作曲者自身が鬱であった“過去の自分”と、鬱から脱却した“現在の自分”、“2人”というのがキーワードだと思うんです。例えば、今回2種類あるカデンツァのうち、大カデンツァを選んだんですけど、このなかでも高音と低音で掛け合いがあったり、ずっと3楽章までそういうことが窺えるんですよ。僕としてはそういうキーワードをもとに演奏をつくっていきました」

 解釈を練り込み、万全の準備で迎えたロシアでの収録であったが、大きなトラブルに巻き込まれてしまう。

 「録音前の休憩中に、7トンもある防火扉が倒れてきて、ギリギリでピアノの蓋をしめて逃げたんです。ピアノの本体は壊れなかったから、そのまま2日目も同じピアノで録音出来て。夜の数時間でまず全楽章を通して録って、もう一度、第2~3楽章を通して録音しました。だから良い意味でライヴ感のある演奏になりましたね」

 録音からは、そんな事件があったことなんて微塵も感じさせない、オーケストラとピアノが密に絡みあった充実の演奏に仕上がった。しかし、それ以上に聴きものなのが、続いて収録されたピアノ・ソナタ第2番だ。作品がもつ可能性を汲み取った、自然な音楽の繋がりが見事。稀代の名演は、どのようにして生まれたのか。

 「僕自身も今回は、2番のソナタが自信あるんですよ。でも、その繋げるのが物凄く大変なんです。例えばちょっとしたこと……第2楽章の頭のフレーズをペダルで一緒にするかしないかで2日か3日悩んだんです。そのあと第3楽章冒頭で同じフレーズが戻ってきた時にはワンペダルで良いと思うんです。それは要するに思い出がフラッシュバックするような感じで、かつてこういうことがあったと、もう1回のあの情景が戻ってきているのだと思うんで。だとすると〈現実〉と〈虚像〉の世界を表現するのに同じペダルで良いのかいうことを悩むわけですよ。そうしたコンマ何秒のところを自問自答してますね」

 そしてCDの最後は、アンコールとして収録された2つの前奏曲で締めくくられる。

 「CDを作る時に、僕は1枚のリサイタルになるようプログラムを考えるんです。最後に収録したニ長調の前奏曲が、ラフマニノフのプレリュードのなかで一番好きで。それでニ短調の協奏曲で始まって、ニ長調で終わるのは良いなと。あいだに入るソナタ第2番も変ロ短調と遠からず、近いので。そうなると変ロ長調の前奏曲も良いなと」

 反田の発言から、選曲も解釈も熟考の末に磨き上げられている、完成度の高いアルバムに仕上がっていることが分かるだろう。天才肌のように思われがちだが、音楽づくりが謙虚なことに改めて注目していただきたい。

 「自分がやりたいことだけやっていると音楽にならないじゃないですか。だから迷ったときは自分がやりたいと思った正反対なことを一度は実践して、トライしてみたりすることが、客観的に俯瞰してみることに繋がると思うんですよ。それがとても大切」

 今後もしばらく、日本のクラシック音楽を語る上で彼がフロントランナーで在り続けるのは必然であろう。未来へと繋がる話題の新譜になるはずだ。

 


反田恭平
1994 年生まれ。2012年高校在学中に第81回日本音楽コンクール第1位入賞。2014年チャイコフスキー記念国立モスクワ音楽院に首席で入学。2015年イタリアで行われている「チッタ・ディ・カントゥ国際ピアノ協奏曲コンクール」古典派部門で優勝。2016年のデビュー・リサイタルではサントリーホール2000席が完売。翌春にはオーケストラとのツアーを12公演、夏には初のリサイタル・ツアーを行う。2018年は室内楽やラフマニノフ作曲ピアノ協奏曲第5番の日本初演など積極的に新たなことに挑戦し、「題名のない音楽会」「情熱大陸」等メディアでも多数取り上げられる。現在はショパン音楽大学( 旧ワルシャワ音楽院) に在学し、ピオトル・パレチニに師事。今、もっとも勢いのあるピアニストとして注目されている。

 


LIVE INFORMATION

佐渡裕指揮 日本センチュリー交響楽団 with 反田恭平
○2/20(水)19:00開演 会場:佐賀市文化会館
○2/21(木)19:00開演 会場:iichikoグランシアタ
○2/22(金)19:00開演 会場:市民会館シアーズホーム夢ホール
○2/23(土)14:00開演 会場:鹿児島市民文化ホール 第1ホール ほか

NHK交響楽団 第102回 オーチャード定期
○3/16(土)15:30開演 会場:Bunkamuraオーチャードホール

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