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BiSHでもアイナ・ジ・エンドでもなく

――そんな特別な曲を、今回は亀田誠治さんのプロデュースで歌い直されています。

「5月にあった〈VIVA LA ROCK〉で亀田さんたちの演奏するコーナーにゲスト・ヴォーカルで呼んでいただいて、椎名林檎さんの“本能”を歌ったんです。その時に初めてお会いしたんですけど、リハも本番も親身に向き合ってくれる方で、ずっと〈すげえカッコイイ〉みたいな印象があって。今回avexさんから〈亀田さんに話してみようか?〉って提案があって、私もぜひやりたいですってお願いしました」

――いろんな方とレコーディング経験も多いですけど、今回はどうでしたか?

「プリプロ・ルームで最初に歌った時は、震えて歌えなかったです。Mahoのこともだし、昔ライヴでこの曲をしんみり歌って、騒ぎたそうなお客さんが捌けていく姿を見てたのとか思い出して……改めて嬉しいなって気持ちで。あと、毎回、壁に〈きえないで〉って書いて、そこにチューしてから歌ってました(笑)」

――それはどういう儀式なんでしょう。

「儀式(笑)。それぐらい入り込まないと歌えない曲で、だから〈スタジオの中で私が消えないように〉って意味で、ちょっとキモいかもしれないですけど(笑)。で、最初ブロックごとに録ってたんですけど、同じところを何回も録り直したりして流れみたいなのがプツッて切れちゃったりするのが嫌になっちゃって、亀田さんに〈1回フルで歌っていいですか?〉って言ったら〈大賛成です〉って言ってくれて、結局フルコーラスでレコーディングしました」

――スタジオでの亀田さんはどうでしたか?

「出来が悪くても良くても、それが味って思わせてくれる人でした。ナチュラルに歌わせてくれて、それを良いふうに味付けしていけるような言葉をくれて。で、〈もっと良い歌が歌えるよ〉みたいなのを繰り返して……相乗効果っていうか。で、いままでのレコーディングでワガママ言ったことないんですけど、今回は出来上がったデータを貰った後に初めて言いました」

――気に入らないところがあって?

「はい。私はどんな時も人生最後だと思って歌うんですけど、サビだけ自分の声から命削ってる感みたいなのが全然感じられない場所があって、亀田さんに〈できれば録り直したいです〉って連絡したら、〈アイナちゃんの意見、了解しました〉〈でも一期一会のレコーディングで僕はとても良いと思ったので、もう一度ヴォーカル・テイク探させてください〉〈そのうえで良くなかったらまた歌いましょう〉って丁寧に返されて……ホントその通りだなって思って、自分が良いと思ったからって、周りが良いと思わなきゃオナニーになっちゃうなって。そしたら、たぶん必死にサビが良いテイクを選んでくれたんです。そんな私のワガママにも納得するまで全身全霊で向き合ってくれて、カッコ良かった。ああいう人になりたいって思いました」

――こちらはMVも印象的な出来になりましたね。

「はい、部屋の中で歌ったり踊ったりして、ベッドの上でシーツを彼氏に見立てて表現してます。大喜多(正毅)監督が現場にいろんな家具とか用意してくださってて、女が一口かじったパンとか、男がパンをバッて食べて出て行った跡とか、〈全部好きに使っていいよ〉って言われたので、スタッフさんが30分ぐらい仕込みをしてる間、ずっと床に寝そべったりして部屋と友達になって。結局は用意していった振りから全部変えて、感じるままに踊りました。ほとんどアドリブで、何か新しい気持ちでやれたので、MVも観てほしいです」

――はい。いままでもBiSHがありつつ外部でも活躍してこられましたけど、改めて今回はソロ・シンガーとしての第一歩にもなりましたね。

「どこで歌う時もいつもBiSHを背負って歌いに行く気持ちだったんですよ。MONDO GROSSOさんでもMOROHAのUKさんでも〈これやれば何かBiSHに還元できるものが絶対ある〉って信じて歌ったし。でも、今回はそういうのナシに、アーティストである前に一人の女性として表現したので。そしたら新しい感性が自分に入ってきて〈こんな表現できるんだ、自分〉とか思えて、凄くいい機会になりました。だからこれからはBiSHがどうとかあまり考えず、BiSHでもアイナ・ジ・エンドでもなくて、一人の女性として生きるのもアリかも、っていう気持ちです。BiSHは私の宝物で、生き甲斐、生き様なので、全部が巡り巡って絶対BiSHに戻ってくるんですけどね」