メジャー・デビュー1年半の集大成としてつづれ織られた『モノクローム』から9か月。ニュー・シングル“remember”に見える彼女らしさとこの先に続く新章への期待!
〈忘れないよ〉っていう気持ちの温かさ
やさしく、あたたかく、せつなく、つよく……そして繊細に紡がれる歌声のなかから豊かな情感を滲ませながら、じんわりと。発信元をYouTubeからメジャーのレーベルへと移して2年余りの間に、さらに多くのリスナーの心を惹きつけてきたシンガー、Uru。昨年12月にファースト・アルバム『モノクローム』をリリースした彼女は、その活動のいわゆる〈第1章〉の区切りをつけたところで、新たな章を迎えるにあたって、いま一度自分自身の足許を見つめ直しているところでもある。
「基本的にはあまり変わってないと思うんですけど、自分だけでとどまっていた曲がいろんな方に聴いていただけてるっていうのがわかってきたぶん、曲を作るときも〈この曲をどんなときに聴いてもらえてるのかな〉とか、手に取ってくださる方々のことを考えて作るようになりました。曲が届いた先のことを想像するというか、歌詞もそうですし、曲調もそうなんですけど。今回の新曲をライヴで初めて披露したときも、〈Uruさんらしい曲ですね〉っていうコメントが結構あって、あっ、こういうのが私らしいと思ってくださってるんだなとか、そういうふうに客観視することってデビューしたてのときはできなかったんですね。期待と不安でいえば不安のほうが勝ってましたし、いまもまだまだなんですけど、ちょっとずつ外側から自分の音楽を見られるようになってきたんじゃないかなと思います」。
そんななかで、Uruの〈第2章〉が始まった。その幕開けを飾るのが、アルバムから9か月ぶりとなる新作にしてニュー・シングル“remember”。人気コミック/アニメ「夏目友人帳」初の劇場作として9月29日から公開される「劇場版 夏目友人帳 ~うつせみに結ぶ~」の主題歌にもなっているこの曲は、作品の世界観に寄り添うように〈出会い〉〈別れ〉のなかで芽生えるさまざまな感情を映し込んだもので、自身の詞曲による〈Uruらしい〉ハートフルなバラード・ナンバーになっている。
「〈夏目友人帳〉は、ものすごく自然の豊かなところが舞台で、そこで主人公がいろんな人や妖怪と出会い、別れる。主人公が成長していく姿を見ながら、聴いてほっこりできるような、別れることは辛いけれど、離れていく側にも見送る側にもある〈忘れないよ〉っていう気持ちの温かさを歌詞にしたいなと思いました。捉え方によってはラヴソング――男女間のことにも見えますし、いままで支えてくれた友達、家族にも当てはまる歌詞とも思えるので、映画の主題歌でもありますけど、聴く人によって形を変えながら、その人の出会いと別れに沿う曲になってくれたらいいなって思います」。
これまでにもTVドラマ、アニメなどの主題歌であることを前提に、いくつかの曲を作り上げてきたUru。しかし、そのいずれもが、前提を通り越した普遍的な魅力を湛えていたものであって、今回の“remember”もまた然り、といったところだ。そんな表題曲に対し、カップリングに収録されているのは、ソウルフルなサウンドに乗ったアップテンポのナンバー“ごめんね。”。
「編曲をしてくださった川口大輔さんのアレンジが、おしゃれでかっこいいなって。この曲は間奏で転調するんですけど、〈あれ!? また同じところ歌ってる〉っていう感じで自然に元の調に戻ってくるんです。初めて聴いたときに、すごいなって思いました。歌詞は……長く一緒にいて、相手の良いところも悪いところもわかっていて、嫌だなって行動をとられるときもあるんですけど、それをも許せてしまう女性の可愛らしさというか、しおらしさみたいなものを表したいなって。歌詞はすべてが実体験に当てはまってるわけではないですけど、こういう気持ちを書くのは、ちょっと恥ずかしかったりしますね」。
ピアノと歌だけ〉も大事に
今回のシングルにはさらに、2曲のカヴァーが収録されている。2013年から2016年のメジャー・デビュー直前まで、自身で立ち上げたYouTubeチャンネルで100曲にも及ぶカヴァー動画を公開してきたUruだが、新録のカヴァーをシングルに収録するのは初(アルバム『モノクローム』の初回限定盤にカヴァーCDの付属する形態があった)。ひとつは、山崎まさよしが97年にヒットさせた“One more time, One more chance”で、もう1曲は、昨年リリースした自身のシングル曲“フリージア”のセルフ・カヴァー。“フリージア”に関しては、流麗なストリングスに彩られていた元のヴァージョンとは趣をガラッと変え、“One more time, One more chance”共々、ピアノと声だけで聴かせるアレンジになっているところが聴きどころ。
「私の歌を聴いてくださってる方のなかには、YouTubeでカヴァーをやっていた頃に知ったという方も多いと思うんですけど、私のそもそもの出発点である〈カヴァー〉というもの、〈ピアノと歌だけ〉というスタイルも改めて大事にしていきたいなっていう、そういう思いがありますね」。
自身で詞と曲を書いたもの、自身の詞で曲は作家によって書かれたもの、そしてカヴァー。〈すべて自作自演〉に凝り固まることないアプローチで、その歌、歌声を輝かせてきたUruは、なにより〈歌い手〉として満足できるのがいちばんと語る。
「そうですね。いいなって思った歌は、どなたが作ったものでも全部歌いたいですね。YouTubeで歌っていたときも、絶対に自分じゃ選ばないだろうなっていうカヴァーをあえてやってみたり、自分の感覚だけでやってたらきっと到達しなかっただろうなっていう曲のアプローチを知ることができたりして、実際に歌ってみると、自分でもこういう歌が歌えるんだっていう発見もあったりするので、いつも楽しみなんです。どういうきっかけでもカヴァーした曲は全部好きになりますしね」。
そう言われれば、ファンとしてもこのあとのストーリーがますます楽しみになってくるというもの。“remember”で始まる〈第2章〉には果たしてどんな展開が待っているのか。
「〈バラード〉っていうひとつのイメージがあって、カップリングとかではアップテンポの曲もいっぱい歌ってきてますけど、まだまだ、これどういう意味なんだろう?っていう遊び心のある歌詞だったりとか、良い意味でイメージを裏切ることのできる曲も作ってみたいなあって思ってます」。