NYを代表するシンガー・ソングライター、ジェシー・ハリスが12月18日(火)、19日(水)にブルーノート東京で来日公演を開催。Mikikiでは、親日家としても知られるジェシーの約一年半ぶりの来日を記念して、計2記事にわたってジェシーを大特集します!
まずここでは、今年リリースした最新アルバム『Aquarelle』と共にその音楽性に迫ったコラムを。続くこちらの記事では過去作と関連作でジェシーの歩みとそのサウンドが音楽シーンにもたらした影響を再考するディスクガイドを掲載。偉大なる音楽家の魅力を多面的に解析していきます。
また、ジェシーを巡る音楽家相関図も到着! この記事で予習して、ぜひ来日公演に足を運んでみてほしい(公演の詳細は記事末尾へ)。 *Mikiki編集部
★ジェシー・ハリス来日記念特集 Pt.2:ディスクガイド編はこちら
50年代後半から大きな盛り上がりを見せたロック(初期の頃はロックンロール)とフォーク(モダン・フォーク)の二大潮流は、60年代半ばに〈フォーク・ロック〉として音楽的に統合された。その最大の立役者は、ミネソタ州からNYに出てきて活動していたボブ・ディランだ。
ほぼ同じ頃、ティム・ハーディンやフレッド・ニールのようにジャズの要素を取り入れるフォーク系シンガー・ソングライターもNYから現れているが、当時のNYのグリニッチ・ヴィレッジには、ジャズ・クラブとコーヒーハウスが軒を連ねていた。つまり、ジャズとフォークが交錯する場だったので、ティム・ハーディンやフレッド・ニールのようなアーティストが登場したのは、何ら不思議ではない。そして、こうしたNYの音楽的伝統を現代において体現している一人が、ジェシー・ハリスと言っていいだろう。
69年にブルックリンで生まれたジェシー・ハリスは、まずワンス・ブルーという男女デュオで世に出た。パートナーの女性は、メイン州からNYに出てきたレベッカ・マーティン。95年にリリースされたワンス・ブルーのデビュー・アルバム『Once Blue』は、2人の共作、もしくはジェシーが単独で作ったオリジナル曲で構成されている。プロデューサーは、スザンヌ・ヴェガの仕事で名高いスティーヴ・アダボ。そして演奏は主にカート・ローゼンウィンケル(ギター)とベン・ストリート(ベース)、ケニー・ウォルセン(ドラムス)の3人が務めている。彼らはこの後、NYのジャズ・シーンでめきめき頭角を現わすミュージシャンたちだ。こうしたスタッフとミュージシャンの顔ぶれからも想像できるように、『Once Blue』はまさに往時のグリニッチ・ヴィレッジ周辺の雰囲気を伝える、ジャズとフォークの要素がほど良いバランスでブレンドされたアルバムだった。
ワンス・ブルーは、録音を進めていたセカンド・アルバムがレーベルの理解を得られず、陽の目を見ることができなくなったこともあって、97年に解散。このことをきっかけにジェシーは、以前から親しいミュージシャンと結成していたジェシー・ハリス&ザ・フェルディナンドスの活動に本腰を入れるようになる。
ノラ・ジョーンズと出会ったのもこの頃。たまたま友人のミュージシャンたちと訪れたテキサスで知り合うことになる。当時のノラはノース・テキサス大学でジャズ・ピアノを専攻する学生だったが、両者はすぐに意気投合し、その後も連絡を取り合う関係になった。そして初めての出会いから約1年が過ぎた頃、ノラはジェシーやケニー・ウォルセンなどに説得され、大学を中退してNYに居を移す。ジェシーと友人たちはノラのライヴ活動とデモ音源の制作に協力し、彼女のデビューを後押しした。こうした過程を経て、2000年10月8日と9日にNYで録音されたのが、ノラの『First Sessions EP』だ。
『First Sessions EP』は2017年に日本で正式に商品化されたが、もともとこの6曲入りEPはプロモーション用に作られたもので、2001年当時はノラのライヴ会場とウェブサイトのみで販売されていた。同作にはジェシーの曲が2曲取り上げられているが、そのうちの1曲が“Don't Know Why”。この曲はジェシー・ハリス&ザ・フェルディナンドスの自主制作によるファースト・アルバム『Jesse Harris&The Ferdinandos』(99年)に収録されていたものだ。
2002年にリリースされたノラ・ジョーンズのデビュー・アルバム『Come Away With Me』には、新たに録音された“Don't Know Why”をはじめ、ジェシーの曲が4曲、彼がノラと共作した曲が1曲収められている。『Come Away With Me』の商業的成果についてはいまさら繰り返さないが、このモンスター・ヒット・アルバムは、ノラのような〈ジャズ×アメリカーナ〉を志向するアーティストの呼び水となった。つまり音楽シーンに新しい土壌を生み出すきっかけとなったという意味でも、ノラとジェシーが果たした役割は大きい。
『Come Away with Me』の成功をきっかけに、ジェシー・ハリスも、2003年にジェシー・ハリス&ザ・フェルディナンドス名義のアルバムとしては通算4作目あたる『The Secret Sun』でメジャー・デビュー。以後、ジェシーは、ソロ・アーティストとして着実にキャリアを重ねつつ、ソングライターとしては、マデリン・ペルーやメロディ・ガルドー、リズ・ライト、キャンディス・スプリングなどに曲を提供。また、ブライト・アイズのアルバムに参加したり、ペトラ・ヘイデンと一緒にアルバムを作ったり、ジャズ・ギタリストであるジュリアン・ラージのアルバムをプロデュースしたりと、ジャズとフォークとインディー・ロックのシーンにまたがる活動を繰り広げてきた。
また、ジェシーはNYの音楽環境に身を置いてきただけあって、初期の頃からラテンの要素をさりげなく取り入れてきたし、ブラジル音楽とは人脈的にも繋がっている。というのも、ジェシーはブラジル人のダヂとヴィニシウス・カントゥアリアとのトリオ・エストランジェイロスとして来日したことがあるし、マリーザ・モンチやマリア・ガドゥのアルバムに参加したこともある。
今年リリースされたジェシーの最新作『Aquarelle』の一部は、マルセロ・カメロが所有しているポルトガルのリスボンのスタジオで録音されてもいる。マルセロ・カメロは、かつてロス・エルマノスを率いていたブラジル人シンガー・ソングライターだが、冒頭を飾る“Rolling By”にはこのマルセロがコーラスで参加。さらにブラジル人ミュージシャンとの繋がりについて言及しておくと、『Aquarelle』は基本的にジェシー(ヴォーカル/ギター)とウィル・グレイフ(ギター)、ジェレミー・ガスティン(ドラムス)、そしてヒカルド・ヂアス・ゴメス(ベース/キーボード)の4人で録音されている。ヒカルドは、カエターノ・ヴェローゾが『Ce』(2006年)をきっかけに作った同名バンドに参加していたブラジル人ミュージシャンだ。
『Aquarelle』には、yMusicのロブ・ムースとCJ・カメリエリが参加していることも、付け加えておこう。yMusicは、ポール・サイモンの最新作『In The Blue Light』(2018年)にも起用されている現代的なチェンバー・ミュージック・アンサンブルだ。ポール・サイモンのルーツは、50年代のドゥーワップとロックンロール。対して、ジェシーの音楽には、これらの音楽の影響は希薄だ。ただし、幅広いジャンルの音楽にアプローチし、多様な音楽の要素を取り入れてきたニューヨーカーという点では共通しているし、軽妙洒脱な作風も似ている。現に『Aquarelle』を聴いていると、ポール・サイモンをたびたび想起する。
今回のブルーノート東京でのジェシー・ハリスの公演は、ジェレミー・ガスティン(ギター/ヴォーカル)、ウィル・グレーフェ(ベース)、リカルド・ディアス・ゴメス(ドラムス)を従えたバンド編成で行なわれる。もちろん、新作『Aquarelle』からの楽曲を中心に繰り広げられることになっているが、ジェシーのソロ・セットも組み込まれているという。だから、もしかするとギターの弾き語りで、あの名曲が披露されるかも……ひそかに期待しよう。
★ジェシー・ハリス来日記念特集Pt.2:ディスクガイド編はこちら
Live Information
JESSE HARRIS
日時/会場:12月18日(火)、19日(水)ブルーノート東京
開場/開演:
・1stショウ:17:30/18:30
・2ndショウ:20:20/21:00
料金:自由席/8,000円
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出演メンバー:
ジェシー・ハリス(ギター/ヴォーカル)
ジェレミー・ガスティン(ギター/ヴォーカル)
ウィル・グレーフェ(ベース)
リカルド・ディアス・ゴメス(ドラムス)
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