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インタビュー

シャイ・マエストロ(Shai Maestro)『Human』音楽の本質を問うECMの精神を汲んだ内省的な新作を語る

©Caterina di Perri/ECM Records

新発見の手法で自己の内面を見つめた作品

 現在のイスラエルを代表するジャズ・ピアニストのシャイ・マエストロが、2年ぶりのリーダー作『ヒューマン』を発表する。その音楽は、ECMレーベルからのデビュー作となった前作『ザ・ドリーム・シーフ』(2018)や、同じジャズ・ピアニストであるブラッド・メルドーの『ファインディング・ガブリエル』(2019年)やティグラン・ハマシアンの『ザ・コール・ウィズイン』(2020年)などにも通じる、きわめて内省的なものになっている。

 「ここ2、3年は、音楽を通じて聴き手の心を動かそうとするよりもむしろ、心の中を探ってありのままの自分を表現する、私的なアルバムを作ろうとしてきた。興味を惹かれる本も、手っ取り早く成功を手にする方法とか、フェラーリを売ってお坊さんになった男の話とかいった一般向けのものじゃなく、ガルシア=マルケスの『百年の孤独』みたいに、イスラエル人の僕とは全く無関係の、ごく私的な物語だったりしたからね」

 アルバムの曲のほとんどは前作が完成した直後から書き始めたということもあり、前作との強い関連性を示唆している。“ゼイ・ウェント・トゥ・ウォー”は前作に収録しようとしたが、納得のいくテイクが録れず、今回参加したフィリップ・ディザック(トランペット)のおかげで、これだと思える演奏ができたという。

 ジャズにおいてはインプロヴィゼイションがもっとも重要な要素のひとつなのは今さら言うまでもないが、本作では作曲された部分とインプロヴィゼイションの部分との区別が非常に曖昧だ。個々のプレイヤーが個性を発揮する場となるソロの部分は際立っておらず、曲のメロディーはインプロヴィゼイションのように自然発生的であるがゆえに、音楽の内省的な性格がより前面に押し出されている。

 「前作の“ホワット・エルス・ニーズ・トゥ・ハプン?”を書いた時、インプロヴィゼイションのように聴こえるメロディーが作れることに気付いたんだ」

 録音したインプロヴィゼイションのある部分を繰り返したり構成を入れ替えたりして編集したものを聴きながら、そこにインプロヴィゼイションを重ね、さらにそれを編集するといった作業を繰り返すうちに、作曲した部分とインプロヴィゼイションの部分の区別があいまいな楽曲が出来上がるという。もともとはインプロヴァイズされたメロディーも、ベースやトランペットとのユニゾンにすることで、あたかも書かれたメロディーのような印象のものになる。

 「音楽の派手な部分に惑わされず、音楽の本質を問う」ECMの創立者でもあるプロデューサーのマンフレート・アイヒャーの影響も取り入れながら、シャイの音楽は深みを増すばかりである。

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