Photo by Lauren Desberg

鬼才ドラマーが盟友たちと提示する、現代的〈多彩さ〉の新展開

――今作の制作プロセスは?

「昔のアルバム、『Family First』(2015年)や『Jersey』(2017年)のような4人の自然なバンドサウンドと、音色のレイヤーを重ねる〈作曲〉的方向性の2つが合流したんだ。(テナー・サックスがメインの)ジェイソン・リグビーにはベースクラリネット、クラリネット、フルートを、シャイ・マエストロにはメロトロン、アンプリチェレスタ、RolandのJunoシンセを演奏してもらった。そしてアナログテープで3日間かけてレコーディングした」

MARK GUILIANA 『the sound of listening』 Edition/コアポート(2022)

――マインドフルネスでも知られる仏教僧ティク・ナット・ハン著「サイレンス」の影響をアルバムタイトルにも感じます。

「『My Life Starts Now』(2014年)の“Let Go”ではパートナーのグレッチェン・パーラトに一節を読んでもらったこともある。個人的には穏やかで繊細な影響を受け続けているんだ」

――多彩に感じた、ドラムとバンドのオーケストレーションについて教えてください。教則本「Exploring Your Creativity On The Drumset」ではドラムの音の組み合わせを数えることから始めています。

「昔は大きなドラムセットで叩いていたけれど、今は伝統的なジャズドラムのセッティングに近い形で、最小限のもので最大限の効果を発揮することがクリエイティヴだと思う。バンド単位ではその中にいくつものバンドがあると考えると、誰も演奏しないことも含めると4人では16通りの組み合わせがある。結果やることの幅が広がり、また音色作りでバンドの一体感が生まれたんだ」

――自身が叩かない箇所も目立ちますが、他のメンバーに指示を出すことも多いのでは?

「大きな見取り図があってその中でドラムを叩くイメージなんだ。デモ作り、メモ・譜面作りもするけれど、できるだけ誠実な音作りにフォーカスしたいので、他の楽器のマスターであるメンバーの意見を尊重することも多いね」

――アコースティックなジャズから、ラテン的リズムにイスラエル出身のシャイのピアノを混ぜたり、ブラッド・メルドーの近作を思わせるニューエイジな作風もありました。

「アメリカはかつてないほど分断が進んでいるけれど、日常生活では異なるものに共通点を見つけるよう努めている。音楽ジャンル間でもズームアウトして共通点を見つけ、誠実に、個性を保ちつつ、様々なものを取り込んでいきたいんだ」