密林の奥から最高の音楽が鳴り響いている……けど姿は見えない。噂の噂が噂と噂を呼び、瞬く間にその名前と楽曲を世に知らしめた秘密のニューカマー。待望のアルバムでいよいよ全容が明かされるジャングル……ってこの2人が本当に本物なんですか?
XL契約後のファースト・シングル“Busy Earnin’”のMVが話題になってその名を知ったという人なら、きっと大所帯で群舞する屈強なダンス・チームだと一瞬思ってしまったのではないだろうか。それに先駆けて昨年発表されたMVは、2人のしなやかな黒人ダンサーがローラースケートで踊る“The Heat”。そして、いまからちょうど1年くらい前に公開された、6歳のBガールによるブレイクダンスをフィーチャーしたMVの“Platoon”が、彼ら――ジャングルのデビュー・シングルとなる。ホワイト・ライズやモーで知られたロンドンのチェス・クラブから登場し、BBCの〈Sound Of 2014〉ノミネートを経てSXSW出演やXL入りを果たした彼らは、ここまで姿を晒すことなく着実に成功を収めてきた(パフォーマンスの場ではライヴ・バンドを交えて集団化するため、誰がジャングルかわからない)。
もちろんそうした謎の仕掛け方や、現代的なプロモーション戦略といった部分だけでジャングルのおもしろさが説明できるわけではない。MVの話題ももちろん楽曲そのものに惹かれた結果を伴ってのものだろう。そんなジャングルはJとT――ジョシュとトムというファースト・ネームを持つ西ロンドンはシェパーズ・ブッシュ育ちの友人同士で結成されたユニットだという。
「イニシャルを名乗ったのに重大な理由があったわけじゃない、ただ俺たちのニックネームというだけだよ。自分たちが誰か隠そうとしていたわけじゃないけど、俺たち自身に注目されたくなかった。音楽に注目してほしかったのさ」(T)。
それ以上の素性はまだわからないが、それ以上の情報が必要あるだろうか(まあ、あるけども!)。重要なのは今回彼らのファースト・アルバム『Jungle』が届けられるということだ。ソウルやレゲエにヒップホップ、ロック、もちろんエレクトロニック・ミュージックなどに親しんで育った2人の嗜好は、どことなくホーリーでソウルフルで温かい、ポップでエクレクティックな12曲に実を結んでいる。
基本的にはチャントのように重ねられたアトモスフェリックな歌声の塊が遠くや近くでゆらゆら響き渡り、温かみのあるシンプルなトラックに乗って昂揚感をそそるナンバーが中心……そう一口で説明しようとしても、ジャングルに生い茂る木々は多種多様であり、果実はそれぞれにカラフルだ。オープニングを飾る先行シングル“The Heat”が70年代ソウル風の作法でまろやかな陶酔を誘ったかと思えば、キャッチーなホーン・リフに勇壮なフックを装填した“Busy Earnin'”は否応なく聴き手を鼓舞するかのよう。より明確にディスコを取り込んでダンス・トラックに徹した“Time”もあれば、緻密なIDMタッチのボトムにスピリチュアルな歌唱のこだまする“Julia”もあり、レゲエからの影響も如実な“Son Of A Gun”もある。
フォーマット以外の部分でどの曲にも共通しているのは、マシーン的なクールネスとヒューマンな温かみがぼんやりと融和し、ベッドルーム・ミュージック的な機能性と肉体に訴えかける率直なグルーヴが不思議と共存していることだろう。このタイミングで〈フジロック〉での来日も控える彼らだが、そこではこの『Jungle』に構築された鮮やかな景色がよりエネルギッシュに再現されるに違いない。