フィービー・ブリジャーズは、隠し事をしない。実際、このインタヴューの内容も取材当日のライヴのMCでバラされていたし、元恋人だったドラマーのマーシャル・ヴォアと共作した“Scott Street”という曲では、そのマーシャルと一緒に〈私の名前を聞いたら恥ずかしいと思う?〉〈とにかく、他人にはならないで〉と、明け透けな感情を歌うのだ。だから聴くほうもついつい無防備になってしまうのだが、もしかしたらそんな彼女が唯一嘘をついたのが、2017年のファースト・アルバム『Stranger In The Alps』に収録した“Motion Sickness”という曲だったのかもしれない。
リード・シングルとしてもリリースされたこの曲は、デモの段階ではエモーショナルなアコースティック・バラードだったが、アルバムでは自分に酷い仕打ちをした男性に宛てたと思しき歌詞のヘヴィーさを覆い隠すかのように、シュガーコーティングされたポップなアレンジになっていた。だからこそ、 彼女がライヴでこの曲を歌う前に、「わたしが書いた唯一の、怒りについての曲」と呟くのを聞いて、普段のゴス・ファッションやブラック・ユーモアに隠された、本当の彼女が垣間見られたような気がしたのだ。コナー・オバーストとの新プロジェクト、ベター・オブリヴィオン・コミュニティ・センターのアルバム発売直前に初来日公演を行ったフィービーに、いろいろ話を訊いてみた。
CSN&Yで私がいちばん好きなのは……
――日本に来る前にはオーストラリアにいたそうですが、コートニー・バーネットには会いましたか?
「ノー(笑)。でも彼女のことは大好き」
――あなたがジュリアン・ベイカー、ルーシー・ダカスと結成したユニット、ボーイジーニアスのインタヴューで「4人目のメンバーを加えるなら?」と訊かれたときに、コートニーの名前を挙げていましたね。先日彼女にインタヴューする機会があったのでそのことを伝えたら、「おもしろそうだから絶対やりたい」とのことでした(笑)。
「クール(笑)。実現したら最高」
――ボーイジーニアスのEPのジャケットはクロスビー・スティルス&ナッシュのパロディーになっていましたが、あれはあなたのアイデアだったとか?
「そうそう、似たようなソファを見つけたからおもしろいと思ったんだけど、実は、私はクロスビー・スティルス&ナッシュのあのジャケットをデザインしたゲイリー・バーデンとも親しかったの。コナー・オバーストを通じて知り合ったんだけど、彼は去年亡くなってしまって」
――あなたの座っている位置はクロスビー・スティルス&ナッシュのジャケットで言うとグラハム・ナッシュと同じですが、やっぱりいちばん好きなのもグラハム・ナッシュですか?
「いいえ(笑)。なんだか騙しちゃったみたいだけど、たぶん私がいちばん好きなのはニール・ヤング」
――昨晩のライヴではギリアン・ウェルチの“Everything Is Free”をカヴァーしていましたが、コートニー・バーネットもあの曲をカヴァーしているのは知っていましたか?
「知らなかった! あの曲は最近リヴァイヴァルしていて、コナーもそうだし、ファーザー・ジョン・ミスティとかマウンテン・マンとか、たくさんの人たちがカヴァーしているみたい」
――あなたはどうしてあの曲をカヴァーしようと思ったのでしょう?
「あの曲は未来を予知していたというか……。彼女自身はナップスターの登場を受けて、どうやって音楽で稼げばいいかについてを書いたと思うんだけど、いま(音楽を聴く環境が)こんなことになるなんて、考えていなかったと思う。だから当時よりも、いまの時代ともっと密接に結びついているような気がして」