田中亮太「Mikiki編集部の田中と天野が、海外シーンで発表された楽曲から必聴の楽曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。今週は華やかな話題からいきましょう。現地時間9月9日に、UKの権威ある音楽賞マーキューリー・プライズの授賞式が開催され、アーロ・パークス『Collapsed In Sunbeams』が最優秀作品賞に輝きました!」

天野龍太郎「『Collapsed In Sunbeams』は僕にとってすごく思い入れが深い作品なので、うれしかったです。The Sign Magazineでレビューを書いているので、この機会にぜひ読んでください!と宣伝しておきます」

田中「パークスのほか、ウルフ・アリスやブラック・カントリー・ニュー・ロードらが授賞式でパフォーマンスを行いました。なかでも僕がぐっときたのは、ラッパーのバーウィン(Berwyn)。グランド・ピアノの弾き語りで“Glory”を歌っていて、彼の繊細なリリシズムがストレートに伝わってくるものでした」

天野「あと、今日は〈VMAs〉、MTVビデオ・ミュージック・アワードが話題でしたね。ドージャ・キャットがホストを務め、 リル・ナズ・Xの“Montero (Call Me By Your Name)”がビデオ・オブ・ザ・イヤーを、オリヴィア・ロドリゴの“drivers license”がソング・オブ・ザ・イヤーに選ばれました。オリヴィアはなんと、3つの賞を受賞! それでは、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から」

 

MUNA feat. Phoebe Bridgers “Silk Chiffon”
Song Of The Week

天野「〈SOTW〉は、米LAのインディー・ロック・トリオ、ムーナがフィービー・ブリジャーズをフィーチャーした“Silk Chiffon”! ムーナはフィービーが新たに立ち上げたレーベル、サデスト・ファクトリー(Saddest Factory)と契約したばかりで、移籍後初のこのシングルで〈ボス〉とのコラボレーションを実現させた、というわけですね」

田中「契約の際に、フィービーのInstagramには巨大な小切手をバンドに渡している写真が投稿されていましたよね(笑)。ムーナはもともとエレクトロ・ポップ調のサウンドを得意としてきましたが、この“Silk Chiffon”はこれまでの音楽性よりもロックっぽい。というか、フランジャーを効かせた打ち込みのビートや〈ジャーン!〉という豪快なギター・フレーズは、かなり90~2000年代初頭のオルタナ・ポップ風。ウィータスの“Teenage Dirtbag”(2000年)とかナタリー・インブルーリアの“Torn”(97年)とかを思い出しましたよ」

天野「ぜんぜん知らない……。当時をリアルタイムで知っていないとわからないアーティストや曲を挙げられても困りますよ! ノスタルジックな話はさておき、この曲はサウンドがポップで最高ですが、歌詞もいいんですよ。ムーナはクィアネスを意識的に表現してきたバンドで、今回のリリックでも女性同士で愛を交わすことのよろこびをストレートに歌っています。99年のレズビアン映画『Go!Go!チアーズ(But I’m A Cheerleader)』を下敷きにしながら、ゲイ矯正キャンプの馬鹿馬鹿しさをコミカルに表現したミュージック・ビデオも最高です」

田中「このミュージック・ビデオ、フィービーがすごい存在感を発揮していますよね。ムーナは昨年〈次のプロジェクトはゲイです〉とツイートしていたので、今後はよりLGBTQ+というテーマを掘り下げた作品を作っていくのではないでしょうか。注目です!」

 

Maxo Kreem feat. Tyler, The Creator “Big Persona”

天野「2曲目は、マクソ・クリームがタイラー・ザ・クリエイターをフィーチャーした“Big Persona”。マクソ・クリームは8月に“Local Joker”という曲を紹介したばかりです。なので、やめておこうかなと思っていたのですが、この曲があまりにも圧倒的だったので今回も選びました」

田中「タイラー・ザ・クリエイターは原点回帰してラップしまくった傑作『CALL ME IF YOU GET LOST』をリリースしたばかりで、ノリにノっていますよね。この“Big Persona”でも、彼の存在感がハンパじゃありません。ファースト・ヴァースからカマしています」

天野「〈グラミーを獲ったけど、ただのインタールードじゃないぜ/他の2つも獲らなくてよかったな〉と、前作『IGOR』(2019年)で受賞したことと過去に2度ノミネートされたけど受賞しなかったことに言及しているラインがおもしろかったです。タイラーの攻めっぷりに比べると、マクソのラップはまあまあですね(笑)。でも、冒頭から〈マクソ・ビギー・ポッパ、俺よりうまくやれるやつを知っているか?/俺はトラップ・バラク・オバマ、ベティ・クロッカーをドラッグを混ぜるのに使って/あいつはナッティ・プロフェッサーとグリゼルダが好きだった〉と固有名詞を編み込んだラップを畳み掛けます。ちなみに、〈ビギー・ポッパ〉はノトーリアス・B.I.G.のことですね。なにはともあれ、“Big Persona”はタイラーのラップのおかげでものすごくかっこいい曲になっていると思います」