アメリカにおける2018年は、さまざまな面において女性の1年だったと言えるだろう。女性たちが、セクシャル・ハラスメントや不平等を許さないと始めた#MeToo運動の波はエンターテイメント業界だけでなくさまざまな業界に及んだ。映画プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタイン、俳優のケヴィン・スペーシー、ラッパーのR・ケリーは、性的暴行が明るみに出て訴えられ、キャリアに大きな傷がついた人々のごく一部にすぎない。俳優兼コメディアンのビル・コスビーは、一時期ワーナー・ブラザーズ・レコードで一番の売り上げを誇ったアーティストだったが、女性に薬物を盛り、レイプした罪で収監された。
女優が性的な関係を結ぶことと引き換えに仕事を獲得することが大々的に疑問視されたり、また「ゼロ・ダーク・サーティ」のキャスリン・ビグロー、「リンクル・イン・タイム」のエイヴァ・デュヴァーネイ、「レディ・バード」のグレタ・ガーウィグ、「高い城の男」のカリン・クサマなど女性映画監督らは、脚本や監督、プロデュースの分野にも大きく進出しはじめている。
音楽の分野でも、さまざまなニュースが入り乱れている。アメリカのチャートではヒップホップとカントリーが権勢を振るっているが、これらのジャンルはほぼ男性アーティストで占められている。しかし、この所、いままでにないほど女性たちが魅力的な音楽を作っていて、女性独自の手法でチャートの上位に輝き出している。フェンダー・ギターによる研究では、アメリカやイギリスにおけるギターの売り上げの50%以上が女性への販売だという。アリソン・ワンダーランドやヘスタ・プリン、レズなど、女性DJも目覚ましい活躍を見せている。
日本では音楽業界での女性の地位向上は控えめだ。1番人気の女性グループは未だAKB48。このグループでは女性はあくまで助演女優の位置にあり、彼女らから提案され、採用されるクリエイティヴな意見は少ない。昨年の日本エンターテイメント・ニュースでもっとも大きなものの一つが、NGTの山口真帆が、自分が受けた暴行問題に対し謝罪したというものだった。また、国際ニュースでは、学校に掲示された〈自分が「カワイイ」と思った短いスカートが性犯罪を誘発してしまいます。〉というポスターが話題になった。これは、アメリカでは〈被害者叩き〉と呼ばれる行為だ。このニュースによって、日本が性差別ランキングの147国中110位だったことに対しての納得が広まった。
アメリカがこういった性差別問題について非の打ち所がない先進国ということではないが、以下に音楽業界をポジティヴに揺さぶる女性たちを紹介したい。
テイラー・スウィフト
彼女のもっとも新しいアルバム『Reputation』は2017年11月に発売されたものだが、2018年も彼女は音楽業界をさまざまにシェイクした。14歳でインディーズのカントリー・シンガーとしてデビューした彼女は、ポップスへ転向して業界を席巻。日本でもポップ・シンガーとして高い人気を誇る。SNSを通じてファンに直接音楽を届けるなど、革新的な試みを行なっている。また、ストリーミングについてSpotifyやAppleと戦い、大手企業に自分の条件を飲ませている。
また、フェミニズムの旗手として、自分の恋人たちのステータスによって評価されることを嫌い、彼女に痴漢行為を働いたラジオDJを訴え勝訴し、セレーナ・ゴメスやロードなど、同じ女性歌手や友人を精神面からもサポートした事でも知られている。多くのチャリティー基金にも寄付をしている。マルチ・インストルメンティストかつゴージャスなファッショニスタというのは彼女の多面性の一部だけなのだ。2018年、最初の週だけでテイラー・スウィフトの『Reputition』は200万枚以上売り上げ、現在は450万枚を越えている。彼女の『Reputation』スタジアム・ツアーはアメリカで2億6600万ドル、世界で3億4500万ドル売り上げている。