九州でのミニ・ツアーを終えた帰路なのですが、往路で聴いていたソランジュの新譜を紹介しよう!と思っていたのにどこを見てもフィジカル・リリースの機運がなく、こんなビッグ・タイトルでもフィジカルから距離を取っていく時代です。こんなフィジカル限定の連載がこうして続けられているのも不思議な感じですね。

TIRZAH 『Devotion』 Domino(2018)

ダンサブルでダークな音楽性というイメージだったティルザ。今回は空間を大きく取ったエクスペリメンタルR&Bといった趣です。気に入って聴いていたのですがよく考えたらその前までの作品はだいたいDJセットに入れていたもので、あまりのモードチェンジに気付きませんでした。どっちも好きなのですが前述のソランジュの新譜にも通じる(自分的にはこっちのが聴きやすい)仕上がり。

 

VARIOUS ARTISTS 『Kankyō Ongaku: Japanese Ambient, Environmental & New Age Music, 1980-1990』 Light In The Attic(2019)

そんなR&Bのニュー・サウンドの具合と近からず遠からじなところに日本のニューエイジ再評価がある、というのは皆様の言う通りだと思うのですが、そんなところに決定打的なアルバムが。許可取りに4年かけたということですが、そのぶんこのセットリストは十分。その間に数々の日本アンビエントの名盤が復刻され、YouTubeなどを介して評価を高めていったことも特筆すべきことでしょう。しかし、こうしたものが出るたびに日本における楽曲の許認可についてや、これを出せる日本のレーベルがあればいいのになと思ったりもするのでした。寺田創一さんの時も然り、海外から評価されると広がっていく現象にはいとしさと切なさと心強さが入り混じります。

 

吉村弘 『Music For Nine Post Cards』 Empire Of Signs(2017)

しかしそんな再発がなければ出会わなかった盤があることも確かで、この吉村弘氏の初期のアルバムは本当に最近よく聴いています。日本のこういった音楽が海外で評価されるきっかけとなったDJスペンサーDら運営のエンパイア・オブ・サインズから。ちなみに神戸市営地下鉄海岸線のサウンドピクトグラムなんかも晩年手掛けていらっしゃったのも今回知りました。アンビエントとはいいつつもメロディアスな部分も多く聴きやすい一枚。おすすめです。

 


tofubeats(トーフビーツ)
90年生まれ、神戸在住のトラックメイカー。自身の作品リリースのほか、中島愛、鈴木京香、土岐麻子、夢眠ねむ、向井太一、ものんくる、大比良瑞希、TENDRE、平井堅らの楽曲を手掛けています。3月には映画本編のソフト化に合わせて『「寝ても覚めても」オリジナル・サウンドトラック』を配信リリースしたばかり。さらに4月24日にはすでに好評配信中の“Plastic Love”が7インチ・シングルでリリースされます。最新情報は〈tofubeats.persona.co/〉にて!