LOVE 4EVER AND IT LIVES IN...
[不定期連載]プリンスの1995~2010年
かつて自身の歌った“1999”年、クライヴ・デイヴィスとの契約に合意したジ・アーティスト・フォーマリー・ノウン・アズ・プリンスは、久しぶりに外向きな活動を展開することとなった……ってことで、プリンス復刻プロジェクト〈LOVE 4EVER〉の第2弾は、短期間に終わったアリスタ時代の産物。メジャー復帰作『Rave Un2 The Joy Fantastic』(99年)と、そのリミックス盤『Rave In2 The Joy Fantastic』(2001年)がアナログのみでリイシューされ、CDでは『Ultimate Rave』と題された2CD+DVDセットでのみ復刻となる。DVDに収められているのは、99年12月にファンクの偉人や旧友モーリス・デイらも招いてペイズリー・パークで行われたライヴの模様を収めた「Rave Un2 The Year 2000」(2000年に単品リリース)。この機会に映像も含めて丸ごとレイヴするのが正解だろう。
PRINCE 『Rave Un2 The Joy Fantastic』 NPG/Arista/Legacy/ソニー(1999)
前年末にワーナーが“1999”を再リリースしたのを受け、NPGから新ヴァージョンの『1999 (The New Master)』を発表して幕を開けた99年のプリンス。8月にはワーナーとの契約満了を示唆する未発表曲集『The Vault: Old Friends 4 Sale』が登場し、それに続く待望のオリジナル・アルバムとして11月にリリースされたのが今作だ。当時の彼はまだ記号を名前としていたが、ここではプロデューサーとして〈プリンス〉の名がクレジット。ある種の姿勢や気持ちの変化はそんな部分にも見え隠れしていた。
オープニングを飾る表題曲は『Lovesexy』(88年)のツアー時期にすでに披露されていた簡素な電化ファンクで、前年のNPG名義作『New Power Soul』(98年)までのソウル・バンド感からモードを切り替えたシンプルな〈幕開け感〉が煌めく。そこから導かれるのは〈80年代的なサウンドへの回帰〉ということになるが、パブリック・エナミーのチャックDや当時の新人イヴというラッパー陣をはじめ、グウェン・ステファニー(ノー・ダウト)、シェリル・クロウ、アニ・ディフランコらとの豪華コラボ群との兼ね合いもあり、良くも悪くも一辺倒ではない。ウェットな歌謡性たっぷりの先行シングル“The Greatest Romance Ever Sold”があり、当時革新的だったティンバランド風のビートに挑んだ美麗な“The Sun, The Moon And The Stars”があり、隠しトラックには『Musicology』(2004年)の前ぶれのようなメイシオ・パーカーとのJBファンク“Prettyman”があり……トータル性がないわりに全体がバランス良くポップにまとまっているのも不思議だ。少なくともこの〈開かれた王室〉感が21世紀の前線復帰に好作用したのは確かだろう。
左から、パブリック・エナミーの98年作『He Got Game』(Def Jam)、ノー・ダウトの2001年作『Rock Steady』(Interscope)、イヴの2002年作『Eve-O-Lution』(Ruff Ryders/Interscope)、シェリル・クロウの96年作『Sheryl Crow』(A&M)、アニ・ディフランコの99年作『To The Teeth』(Righteous Babe)
PRINCE 『Rave In2 The Joy Fantastic』 NPG/Legacy/ソニー(2001)
目線違いのジャケをあしらったリミックス盤。本来はオリジナルから間を置かずに出るはずだったとされるが、アルバムのヒット規模が期待に反したからか、『High』など別の作品に取り掛かっていたからか、間にマイテと離婚したからか、何にせよリリースは2001年までズレ込み、最終的にはアリスタを通さずサイト〈NPG Music Club〉の有料会員のみ通販で入手できる作品となった。また、リミックス盤と言いつつ、数曲はエクステンド音源だったり、数曲はオリジナルのまま再収録されていたり、制作途中で興味が失せてしまった可能性は否めない。
とはいえ、アッパーな4つ打ちに様変わりしたタイトル曲や、ファンキーな“Undisputed”、またもティンバを意識したっぽい“Man ‘O’ War”のようにきっちり新装されたリミックスはどれも聴きモノだし、原曲が小品だった“Tangerine”のように意味のある長尺ヴァージョンもある。オリジナルから2曲を削った代わりに収録された“Beautiful Strange”も好曲。なお、“Hot Wit U (Nasty Girl Remix)”では自身の過去仕事からヴァニティ6“Nasty Girl”(82年)をネタ使いしているが、同年に同ネタを使って大ヒットしたのが(“The Greatest Romance Ever Sold”もリミックスした)ネプチューンズによるブリトニー・スピアーズ“I’m A Slave 4 U”である。曲名からしてアレなこの曲のMVで振付けを担当したのはマイテだった。
ブリトニー・スピアーズの2001年作『Britney』(Jive)
こちらはレイヴ時代から少し遡って……〈LOVE 4EVER〉プロジェクトの第3弾となるのが、〈RECORD STORE DAY〉に合わせて復刻されたこのカセットテープだ。そもそも本作は95年7月のパリ・ファッション・ウィークにおけるヴェルサーチのコレクションのために500本だけ制作され、ショウ出席者にのみ配布された非売品のサンプラー。ゆえに中古市場でも高騰していたらしいが、まあそれはそうとして。
AB両面に16分30秒ずつが収められた肝心の中身は、当時リリースを控えていた『The Gold Experience』(95年)を中心に、ニュー・パワー・ジェネレーション名義の既発シングル、覆面ジャズ・バンドであるマッドハウスでの『24』、NPGオーケストラの『Kamasutra』(97年)といった作品の収録曲(や別ヴァージョン)を抜粋(x-cerpt)して繋いだミックステープ仕様となっている。なお、似た作りでは、『Love Symbol』収録曲を歌とラップで繋いでいくCM的な“2 Whom It May Concern”(92年)も過去にあったし、それこそ本カセットに先駆けた95年3月には過去曲のメドレー・ミックス“Purple Medley”をシングルで出してもいた。ライヴでもメドレー仕立ての演奏を展開してきた人だけに、この種の試みに興が乗ったのかもしれない。
他で聴けないヴァージョンの“Chatounette Controle”と“Pussy Control(Control Tempo Edit)”や、結局お蔵入りした『24』からの“Sonny T.”“Rootie Kazootie”といった音源こそあれ、本作は当時のプリンスなりのヒップホップ気分も含め、洒落た展開を流れで楽しむべきものだろう。