ピアノ、ウッドベース、ドラムという編成はジャズのピアノ・トリオのようでありながら、ジャンルにまったく収まりきらないオリジナリティーで抜きん出た人気を誇るfox capture plan。圧倒的なドライヴ感のあるライヴの定評はもちろん、2011年の結成以来すでに7作発表しているアルバムも高い評価を得ている。さらに近年はTVドラマ(「カルテット」「健康で文化的な最低限度の生活」など)や映画(「コンフィデンスマンJP」)へのサウンドトラック提供など、精力的な活動を続けており、話題性に事欠かない。
そんな彼らがタワーレコード日本上陸40周年企画で、アルバム未収録曲やレア曲、新録曲を集めた裏ベスト的な作品『completeplan』を、タワーレコード限定で6月1日(土)にリリース。また、同日に大阪を皮切りに全国ツアー〈PLANNING TOUR 2019〉もスタートすることが決定している。
そのツアーで、広島(6月28日)、福岡(6月30日)の対バンとしてリストアップされたのが、彼らがひそかに敬愛していたインスト・デュオ、グッドラックヘイワ。お互いにピアノをリード楽器としたインスト・バンドという共通点はあるものの、こうして顔合わせをすること自体がじつは初めてだった。それゆえ今回の初めての対談は、共通点と違い、それぞれのルーツを実感しながら存在を認め合っていく貴重な機会となった。
ジャズのようでジャズでない、2組のインスト・バンド
――今日はグッドラックヘイワ(以下GLH)のお2人と、fox capture plan(以下fcp)からはピアノの岸本さんとドラムスの井上さんのお2人ということで、奇しくもおなじパート対談ということになります。
全員「はじめまして」
――え? 初対面?
伊藤大地(グッドラックヘイワ/ドラムス、口笛)「ないですね」
野村卓史(グッドラックヘイワ/ピアノ)「先日、名古屋の〈IMAIKE GO NOW〉ってサーキット・フェスでおなじ日(2019年3月24日)だったことはあるんですけど、時間が合わなくて」
岸本亮(fox capture plan/ピアノ)「でも、先輩だと思ってます」
伊藤「やめましょう、そういうのは(笑)」
岸本「fcp結成前からGLHのことは存じ上げていました。日本でピアノのインストでやってる人たちを調べているときに〈SAKEROCKのメンバーがやってるんだな〉というのも知って、音源を聴かせてもらってましたし、ライヴハウスから対バンしたいバンドを訊かれたときは、よくお名前をあげてました」
――どういうところがグッときたんでしょう?
岸本「リフのようなメロディーのような、歌じゃ表現できないピアノならではの楽曲がいいし、そこから生まれる高揚感もすごい。おそれおおいですけど、そこは共通点なのかなと。影響を受けてきたものは違うと思うんですけど」
野村「fcpの演奏も、ソロをアドリブで埋め尽くすとかではないですよね」
岸本「そうですね」
野村「どうやったら間が持つかとか、いい音楽になるかとか、そういうことを考えているだろうし、そこは一緒かなと」
井上司(fox capture plan/ドラムス)「普通のジャズ・バンドとは違って、がっつり構成を決めますからね。ライヴではピアノ・ソロもありますけど」
岸本「もともとは〈ジャズ・トリオやろうか〉くらいのノリで話してたんですけど、聴いてた音楽の影響もあって、ぜんぜん違うことがやりたくなったんです。ロック、ポップス、ポスト・ロック……」
井上「僕はfcpを結成するまでジャズ・シーンをぜんぜん知らなくて。ずっとロックとかハードコアとかのバンドでやってたので。このバンドになってからジャズの人たちとも絡むようになりました」
――たしかに、GLHもfcpも〈ジャズ〉というワードが近くにあるんですけど、結果的にぜんぜん違う表現になっている。しいて言えば〈インストのポップス〉というか。
伊藤「ジャズへの憧れや敬意はありますけどね。でも、ジャズは2人ともまったくできないから。たまに〈ジャズっぽい〉って言われて、ちょっとラッキーって思ったりする(笑)」
野村「ジャズじゃないのにジャズ・フェスに呼んでもらったりしてね。実家の親に〈どんな音楽やってんの?〉って訊かれて、説明に困って〈ジャズかな〉っていう、みたいな(笑)」
グッドラックヘイワの、大人の余裕
――GLHには2人だけでやる音楽の、ある種の究極形みたいなところはありますね。会話ややりとりを純化させて曲にするような、自由さとストイックさの両方がある。
岸本「うちらはベース(カワイヒデヒロ)がいるんですけど、GLHはベースレスで、でもそこを補おうとしてないですよね」
伊藤「補おうとするなら、卓史が頑張って足鍵盤を使うとか、考えられることはあるんですけど」
野村「ちょっと(足鍵盤を)考えたときはあったけどね。でも大きい会場でたくさんのお客さんに聴かせるとなると骨組みが大きい曲にしたほうがいいだろうとか、足鍵盤を入れると大きいシステムで鳴らしてもちゃんとできないのかなとか。でも、まあそこはそんなにがんばらなくてもいいかなと(笑)」
井上「そのナチュラル感がすごく気持ちいいんですよ」
岸本「うちらは曲にかけるパワーの目盛りが80とか100とかなんですが、GLHの曲からは常に余力を感じるんですよ。100に行かない。そこもすごく参考になる」
伊藤「曲調の印象もあるのかな」
井上「リスナーとしては、(GLHは)だからこそどんな時間でもどんな状況でも気持ちよく聴けるんです」
岸本「大人の余裕だな(笑)」
伊藤「いや、そんなに歳違くないよ(笑)」
岸本「ぼくらはトリオだからこそ100いけるんだろうし、そこが自分たちのよさだとは思ってますけど。逆に、〈この曲、ベース入れてみよう〉とか思ったことはないんですか?」
伊藤「入れたことは何度かあります。キセルの2人に入ってもらったこともあるし。そうすると、やっぱり負担が減る感じはあるかな」
岸本「今度のツアーで、ベースのカワイがGLHの演奏に入るとか、どうですか?」
伊藤「お借りしていいんですか?」
岸本「伝えておきます」
伊藤「本当ですか? 全曲お借りする、とかだったら怒りますよね(笑)?」
サントラ制作よもやま話
――両バンドとも劇伴、サウンドトラックの仕事を経験してきてますよね。そこからのフィードバックや体験談をお聞きしたいです。
井上「fcpの曲なら自分たちがいいと言えばそれで完成なんですよ。だけど劇伴だと、制作側の人たちの反応もあるので、そこをちゃんと汲み取って意向に沿ったものを提出できるようにするという面はあります」
岸本「そういう面もあるんですけど、〈いかに自分たちのカラーが出せるか?〉というのは考えながらやりますね。でも、おもしろいんですよね。台本や作品の雰囲気が前提にあると、自分らだけじゃできなかったような曲ができるから」
井上「制作サイドの意見は結構抽象的なイメージだったりするんですけど、僕はむしろそっちのほうが曲を作りやすいんです」
野村「僕はソロではいくつか劇伴をやってますけど、GLHとしてやったサントラは映画の『森山中教習所』(2016年)だけなんですよ。あのときは、最初から〈GLHな感じでいってください!〉って言われたんです。それまで僕がやっていたサントラ仕事のときとはまったく違い、2人でもできるような曲にしようという括りで作りましたね。レコーディングも小淵沢の山小屋でやったんですけど、あんまり詰め込まずに作ったし、おもしろかったですね」
伊藤「あれは自由にやったね」
岸本「映像を見ながら作ったんですか?」
野村「見ながら作ったのもありましたね。お互いの楽器の近くにディスプレイを持ってきて流しながら」
伊藤「オープニングで、会社名のクレジットがじわーっと出てくるシーンがあるんですけど、そこは即興で演奏してほしいって言われました」
岸本「そういう画面を見ながら即興みたいなのもやりたいなと思いますね。僕らはあんまりないんです。事前に全部デモを提出して」
井上「結構何回もやり直したり。今度やる映画の曲はドラムもベースも入ってなくて」
岸本「〈なんで俺らに頼んだんやろう?〉みたいな(笑)」
伊藤「でも〈fcpにやってほしい〉というオファーなわけですよね」
岸本「メロディーの雰囲気とかは出していこうと思います。劇伴で作った曲が代表曲になるというパターンもありますしね。坂本龍一さんの〈戦場のメリークリスマス(“Merry Christmas Mr. Lawrence”)〉とか。うちらも今後そういうのが生まれたらおもしろいなと思いますね」
野村「『カルテット』(2017年)の音楽でアコーディオンの曲がありましたけど、あれは音を重ねてるんですか? ちょっと変わった音でしたけど」
岸本「あのドラマでは演奏はそれぞれ弦楽器や木管楽器の奏者の方がやっているんです。アコーディオンは奏者の人が3台くらい持ってきてて、それぞれ音が違ったような気がしました。硬い音とか柔らかい音とか」
野村「あの曲は、どなたが作曲されたんですか?」
岸本「ベースのカワイですね(“冬の青空 - Accordion Solo”)。彼の曲があのドラマでは結構使われました」
井上「さっきサントラがきっかけで僕は作曲を始めたと言いましたけど、それが『カルテット』からでした」
野村「結構ドラム始まりの曲ありますもんね」
井上「そうですね。メインテーマとかもそうでした」