メンバーの歌声を知ってほしい
——はい。そして、今回フル・アルバムの『Brand-new idol Society』でデビューとなりましたが、レコーディングはいつ頃?
ティ部「6月の中旬ぐらいですね。5日間で全部録りました」
マナコ「松隈さんが凄くて。6日間の予定だったけど、5日で終わらせてくださって」
——凄い。何曲かは皆さんが作詞もされてますけど、その作業も同時進行だったんですか?
マナコ「いや、そこは顔合わせする前の段階でやってました。何か2~3日で5~6曲ぐらい」
ネオ「考えなきゃいけないっていう」
ティ部「もう歌詞まで出来てた曲も何曲かあったんですけど、6曲ずつぐらいはみんな仮歌の音源を渡された状態で作詞して、提出してっていう感じでした」
——全体の曲調とかは馴染みのあるものでしたか?
チャント「そうですね」
ティ部「バンドやってた2人は特にね」
マナコ「このアルバム通してサウンドが凄いバンドっぽいと思ったし、単純に曲としてめちゃくちゃカッコイイ曲が多くて。例えば“STUPiD”はめっちゃカッコ良いギター・ソロが入ってたり、ベースラインもめちゃくちゃカッコイイんですよ。だから普通に音楽好きな人とかにも好きになってもらえたらいいなって思ってます」
——その“STUPiD”が皆さんの歌唱で初公開された曲ですね。
トギー「いちばん初めにレコーディングした曲です」
ティ部「それぞれの歌い方とか声の特徴を松隈さんが汲み取りながら、〈じゃあ、君はこの歌い方でいこう〉っていうのを明確に示した感じが詰まってると思います。例えばトギーはギャンギャンギャンギャンする感じだったりとか」
マナコ「何か英語っぽく、とか。トギーのイキすぎてるクセの強さも他の曲より発揮されてるしね?」
トギー「〈歌詞通りに発音しなくていいよ〉みたいなことも言っていただけて、自由に歌えました」
ティ部「他の曲はマイクを変えたりして歌うことも多かったですけど、“STUPiD”はいちばん全員の声の聴き分けがわかりやすいと思います。私のパートもすぐわかってもらったりしたんで」
マナコ「松隈さんがティ部には〈エロく歌え、エロく歌え〉って」
ティ部「エロい……何でしょうね、それ(笑)。エロいつもりはなかったんですけど。それ以降の曲も、基本的にはその方向で歌うことになりました」
——まあ、確かに“STUPiD”はそれぞれの違いがハッキリ出てますし、アルバム序盤から“SURRENDER”とか強い曲ばっかりガンガンきますよね。
マナコ「はい。“SURRENDER”ではシャウトとかデス声が入ってるんですけど、みんな〈えっ、できない〉みたいな感じになったんですけど、その後で1人ずつやったら全員できて(笑)、〈いや、全員できるんか〉って」
ティ部「トギーとか〈ウチ、やったことないねん〉って言いながら、凄い良いシャウトが出てきてね」
マナコ「トギーの声はおもしろくて、飛び道具みたいに使われることが多いんですよ。ただトギー的には喉の負担が」
トギー「そう。でも松隈さんに〈もうシャウトはトギーにしたいって決めてるけん〉みたいに言っていただいたので、嬉しかったですね(笑)。他の曲でもシャウトしてるし、いろんな歌い方できる人になりたくて、松隈さんからいろいろ指示されるのを好きにやってたら、変なところをたくさん使っていただいていて(笑)」
ティ部「トギーは理解が早いので、指示されなくても、トギーが歌ってれば松隈さんは〈これもう止めなくていいから、こいつにはもう自由に歌わせていい〉みたいな」
トギー「嬉しいです」
ネオ「凄いよ」
マナコ「めっちゃ器用だなと思います。そんな柔軟になかなかできない」
ティ部「マナコはガイド・ヴォーカルとして絶対に最初のほうに録音していて、自分が音程を取れなかったので助かりました。〈マナコのやつ流すけん、ちゃんとよく聴いて歌って〉とかあったので」
マナコ「ありがとうございます(笑)」
チャント「松隈さんって、レコーディングの途中でも〈ここ低すぎるから音程変えちゃおう〉みたいな感じで変えたり、例えば“STUPiD”の〈ありきたりのマニュアルをも〉の〈も〉は最初なかったんですけど、〈これ付けよう、音がカッコ良くなるから〉みたいな感じで文字数とかリズムもその場で変えたりするんです」
ティ部「だから、レコーディングはメンバー全員で協力しながら、松隈さんやスタッフさんに支えられてできたので楽しかったです。自分たちが歌ってるのも楽しいし、良い曲が出来ていくな~って思えたレコーディングでした」
マナコ「ただ、Twitterとかで〈めちゃくちゃ上手いじゃん〉って言ってもらえるけど、実際のライヴで皆さんの期待に応えないといけないし、手放しで喜べないです」
ネオ「絶対信じない。ちゃんと加工してもらえてるし、〈上手い〉とか言われても絶対そう思っちゃダメ、って自分の中で決めてます」
マナコ「そこは自分たちの力だけじゃないって言い聞かせて、地に足が着いてるようにしないといけないなって思ってます」
渡辺「めっちゃ地に足が着いてなさそうな喋りを延々してるけどね(笑)」
ティ部「え、違うんですよ。ただ単に好きなんですよ、メンバーの歌声が。知ってほしいんですよ」
渡辺「それは良いことじゃん」
マナコ「ティ部は凄い褒めてくれるんで」
——まあ、良いアルバムが出来上がったのは確かじゃないですか。
マナコ「はい。自己紹介にピッタリなアルバムかなって思ってます」
ティ部「前半に置かれてる曲が圧倒的に強いけど、いままでなかった曲調も多いので、新しいことをやろうとしてるのも感じ取ってもらえると思うし、メンバーの作詞曲も組み込まれてるので、個々のこともイメージしてもらえるアルバムになってますね」
——作詞といえば、今回はチャントさんだけ歌詞の採用はなかったんですね。
チャント「あ、そうなんですよ。最初に16曲あった中では採用されたんですけど、それがアルバムに入らなくて……」
ティ部「けっこう辛そうにしてました」
マナコ「〈私だけ書いてないみたいじゃん〉って」
チャント「最初に〈凄~い、全員選ばれたね!〉って盛り上がってて」
ティ部「1人1曲きたね~みたいな」
チャント「収録曲が決まったら〈はっ、私だけない〉って感じになって、その日は落ち込みながらダンスを練習して、歌も叫ぶように歌ってました(笑)」
——まあ、キープされてる未発表曲ってことで。そのうち日の目を見るといいですね。
チャント「今後、はい。そうですね」
このBiSがBiS
——ちなみに、最後に公開されたアルバムからのリード曲“BiS -どうやらゾンビのおでまし-”のMVはセブ島で撮影されたそうで。良さそうな場所じゃないですか。
マナコ「地名だけ聞いたらそう思った」
トギー「もともと撮影場所がゴミ山って言われていて」
ティ部「うちらは〈ゴミ山ね、ふ~ん〉みたいな感じだったんですけど、ネオが〈え、知らないの?〉って急に動画のURLをポンポン送ってくれて、観たらもう本場のスラムで。全然インスタ映えみたいな感じじゃないです(笑)」
ネオ「そういうゴミ山で働く人たちのドキュメンタリーを観たことがあったので」
ティ部「怖い場所なのかなとか、衣裳も絶対めちゃくちゃ汚れるだろうねって」
マナコ「結果、めちゃくちゃ汚れました(笑)。そこに寝転がってとか言われて、まあ埋められるよりマシかと思ったんですけど。もうハエが凄いし、目と口を開けて歌ったらめっちゃゴミが入るし」
ティ部「自分のパートになるとドローンが近付いてきて、その風でゴミが舞い上がって〈うわ~〉みたいな(笑)。ネオとか途中で泣いてたもんね」
ネオ「目にゴミがすごかった」
マナコ「あと、野犬がいっぱいで、めちゃくちゃ威嚇されて命の危機を感じたり」
ネオ「そう。ゴミの崖みたいな場所で、もう逃げられないじゃん、とか(笑)」
ティ部「トギーに至っては、自分からゴミに突っ込んでいって自爆してたし(笑)」
トギー「自撮りで自由に撮影するっていうパートがあって、走ったり飛んだりしてたら負傷してました。ビックリした」
ネオ「怪我するだろって思って見てたんで、こっちは。〈そうなるでしょ〉みたいな」
トギー「気付かへんかった」
ティ部「あと、撮影初日と2日目で、撮影場所の臭いが違ったんですよ。間に雨が降って、2日目はもうガチで……」
トギー「ウンコ、ウンコの臭い」
マナコ「ウンコとゲロが混ざったような」
ティ部「そのなかで土かウンコかわからないものを投げ合ったりとか(笑)」
——ああ、酷い伝統ですね……。
マナコ「でも、何かハイになって、けっこう楽しかったんですよ」
ネオ「楽しんじゃった」
マナコ「いちばん辛かったのはその後の洗濯でしたね」
ネオ「そこ?」
ティ部「何色だったかわからないコンバースを磨くのは辛かった、確かに(笑)」
——(笑)そうやって身体を張ったMVも出来上がり、初ワンマンの後には9月のツアーも決まって、ここからいよいよ本格的に動いていく感じですね。
マナコ「はい」
——あと、気になったのが、ジャケもそうですけど、アルバムのタイトルが最初のBiSと同じくシンプルに『Brand-new idol Society』で、〈3〉が付いてないことで。
マナコ「それ、思いました。〈えっ、3じゃないの?〉って」
——渡辺さん的にはどういう意図ですか?
ティ部「知りたいです」
渡辺「えっと、お前らBiSじゃないの?」
BiS「BiSです」
渡辺「あ、イトーはBABYMETALが好きなんだもんな」
ティ部「でも私はBiSです。え?」
渡辺「だといいね~。WACKはトレードとか完全移籍とかけっこうあるし」
ティ部「そうじゃないようにしよう」
渡辺「はい。まあ、〈BiSだ〉っていうことですね。まず僕が亡霊というかゾンビを追い払いたいなというのがあって。過去曲の再録がないことでお客さんもわかってくれると思うんですけど。これは〈もう一度BiSを始める〉というより、もちろん3期という位置付けではあるんですけど、彼女たちには何もない状態からBiSになってもらいたいな、という気持ちですね」
——〈もう一度BiSを始める〉んじゃなくて、〈BiSを始める〉っていう。初期の曲をやらないのもそういう理由ですか。
渡辺「そうですね。もうそこもひっくるめて、存在しているBiSはこの5人だと。もちろん元BiSって人たちはいっぱいいて、その呪いだけはどうしても残るんですけど、いまいるBiSはこのBiSだけなので、っていうことですね。ということで、たぶん次の第4期BiSになる時も、同じ『Brand-new idol Society』で出るのかなと」
ティ部「なるほど~って、いやいやいや」
——頷いてたらダメですよ(笑)。
渡辺「アハハハハ。だって1期BiSを理解してるってことは……ねえ?」
マナコ「いまドキッとしましたね」
渡辺「僕はすっごい飽きっぽいんで、みんながんばってください……って、良いまとめになってないですね(笑)」
以上の取材後、〈TIF〉で上々の初パフォーマンスを披露した5人ではあったが……アルバム発売日を控えた8月13日、マナコ・チー・マナコが突然の脱退。これはBiSの名が背負った業なのか、あるいは次なる飛躍の前触れなのだろうか?