トライポッドの再会をもって第3期に移行したm-floがニュー・アルバムを完成――3人の共闘で境界を越える強力な『KYO』は驚愕の狂熱で今日と響鳴する!!!

いろんな〈KYO〉を経ての今日

 オリジナル・メンバーのLISAが2017年12月に復帰してから2年、m-floが通算9枚目となるニュー・アルバム『KYO』を完成させた。デビューから20年、常に先進性をキープし、絶えずメインストリームに新風を送り込んできた彼らが常にめざしてきたのは、m-floによるm-flo超え。果たして今回もまた新奇な趣向に溢れた楽曲がアルバムに収められている。それでいてキャリアを重ねたことによる知性の成熟や品格、さらには覚悟、美学もしっかり感じさせる一枚。前哨戦となった『mortal portal e.p.』はパラレルユニヴァース(並行宇宙)やマルチヴァース(多元宇宙論)をテーマにしていたが、それが本作にどう繋がってくるのか。『KYO』というコンセプトはどのようなことを意味しているのか。3人にアルバムが出来た今の気持ちから訊いてみた。

m-flo KYO rhythm zone(2019)

 

――LISAさん復帰後、初めてのアルバムが完成しました。いまはどのような気持ちですか?

☆Taku「すごく長い2年間でした。終わらないんじゃないかって思いながらも無事に完成して。ドラマティックな話はしたくないですけど、僕的には〈自分との和解〉みたいなアルバムだったんで、すごく大変でした」

LISA「同じく長かったです。制作面では、ほぼすべてに於いて☆Takuといろいろやりあったし。でも、最終的に出来上がったものを聴いて、私とVERBALをすごい次元でまとめてくれたなと思ったら泣けてきました。自分でもすごく良いアルバムが出来たなって思ってます。早くみんなに聴いてほしい」

VERBAL「振り返ると、デビュー当時のように無心に曲を作ることに2年かかったのかなっていう感じです。このアルバムに合う曲を作ろうというより、自分たちが格好いいと思えるものを作る旅というか。それができるようになるまでに時間がかかったなと」

――先ほど☆Takuさんが話した〈自分との和解〉とは?

☆Taku「過去のm-flo作品がすごく嫌いだったんです。でも、聴き直して〈あ、そんなに悪くないな〉というところから始まり、自分が昔作っていたものはどういうものだったのかということを理解し、それをいまどうやって作品にするかっていうことにメチャクチャ悩みに悩んだんです。m-floのサウンドにはできるんですけど、振り返ると、常に新しいm-floを提示していたのがm-floだなと。そういう〈新しいm-flo〉を出し切れてないなと感じていたのが2年かかった理由です。僕自身が新しいm-floだなと感じられる曲が、アルバム制作の後半になってやっと出てきたっていう。だから結構しんどかったですね」

――悩みを打破する突破口になった曲は“STRSTRK”ですか?

☆Taku「“STRSTRK”は大きなきっかけになったと思います。3人でグアムで曲作り合宿をして、そこから最終的に採用されたのは“STRSTRK”だけだったんですけど、“STRSTRK”のトラックに対するVERBALとLISAの反応を見て〈これだ!〉って感じました。アルバムの他曲は全然“STRSTRK”みたいな曲調じゃないですけど、すごく大きなヒントになった。もうちょっと直感的にやろうという方向に意識を引っ張られたんです」

――『KYO』というタイトルはVERBALさんが考えたんですか?

VERBAL「タイトル付けは自分がしたんですけど、このテーマはずっと前から話していたことで。発端は☆Takuがよく観ている『リック・アンド・モーティ』というアニメなんです。いろんなポータルを通していろんな次元に旅する話。これまでm-floは〈未来〉とか〈宇宙〉を題材にしてさんざんコスリ倒してきたんで、次は何だろう?と考えたときに〈異次元〉だと。今回LISAが15年間の空白があって戻ってきて、お互いに時差というかズレがあったところを帳尻合わせしていくっていう意味も含めて、パラレルユニヴァースとかマルチヴァースというテーマがおもしろいなと」

――さまざまな時空間が並行して存在しているというわけですね。

VERBAL「しかも、〈きょう〉って同音異義語がたくさんあって。クレイジーの〈狂〉もあるし、共作の〈共〉もあるし、東京の〈京〉とか音響の〈響〉とか、いろんな〈きょう〉がある。いろんな〈きょう〉を経て〈今日〉があるっていうのが自分の中でピンときて、LISAと☆Takuにプレゼンしたんです」

 

共通するものと相反するもの

――グローバルSF劇場版アニメ「HUMAN LOST 人間失格」の主題歌となった“HUMAN LOST”には世界的シンガーのJ・バルヴィンを迎えました。彼とコラボに至った経緯を教えてください。

☆Taku「VERBALが去年の〈サマソニ〉でメチャクチャ仲良くなったのがきっかけ」

VERBAL「共通の友達もいたから仲良くなったんです。で、いつか一緒にやりたいよねって話していた矢先に、この劇場版アニメの主題歌のお話をいただいて。今度こういうのをやるんだけど、乗っかってみない?って訊いたらすごい食いつきだったんです。〈MVは撮るのかな?〉って言うから、〈たぶん撮るし、アニメのほうがいいかな?〉って言ったらすごい刺さりようで。〈僕がアニメになるなんて!〉〈マジでありがとう!〉みたいな。改めて日本のコンテンツの強さを思い知らされたし、僕たちが彼に急接近できたプロジェクトでもあったんで、すごく貴重な体験をさせてもらえたなって」

――“HUMAN LOST”の歌詞は日本語、英語、スペイン語のミックスで、MVも日本のアニメだから、すごく海外の人の興味や関心を惹く曲だと思います。J・バルヴィンのヒット曲“Mi Gente”経由で聴いてくれる人もいるでしょうし。

☆Taku「“Mi Gente”を求めている人がこれを聴いたらどういうふうに感じるのかっていうところは、J・バルヴィンにとってもチャレンジだろうと思うし、欧米で生まれたエレクトロニック・ミュージックが日本で消化されて、それをラテン圏のJ・バルヴィンが歌ったらどういうふうに受け止められるのかも興味深いですね。どうなるかわからないですけど、そういうチャレンジはしていきたいなと思ってます」

――一方、今回はMIYACHIとJP THE WAVYというラッパー2人をゲストに迎えています。この2人の斬新な言葉遣いに惹かれたんですか?

☆Taku「VERBALに近いところがあるから、ひょっとしたら無意識のうちに、そういうところに共感してたところもあるのかもしれないですね。そもそもMIYACHIくんは英語のほうが得意だし。昔のVERBALは間違った日本語の比喩がリリックに入ってることもあって、それがシュールでおもしろかった。そこがMIYACHIくんと共通するところもあるのかなと思ったりしますね」

VERBAL「僕は彼の“WAKARIMASEN”を聴いて、この人わかってるなと思ったんです。ちょっと間違った感覚で日本語を喋ってる感じがおもしろいグルーヴ感を生み出すので、それが楽しいのかなって」

――そのMIYACHIを迎えた“Sheeza”には、レゲエ・シンガーのマックス・ロメオの“Chase The Devil”がサンプリングされています。☆Takuさんがモロ使いして曲を作ることはあまりないですよね。

☆Taku「僕らはみんな宇宙人だね、みたいな話をしていたからデモに洒落で入れておいたら、そのまま使っちゃおうっていう流れになったんです」

VERBAL「僕はデモを聴いたときに超爆笑しました。ブッ飛んでる女性の話で、彼女は宇宙人並みにブッ飛んでるよね、みたいなテーマで書いてたから。そこに〈I'm gonna send him to outer space〉と入ってくるから、これウケるなぁと思って。結果、クリアランスが取れて良かった」

――メロウなエレクトロR&Bに仕上がった“PULSE”は、LISAさんと☆Takuさんのデュエット曲になっています。

☆Taku「いままででいちばん歌いました」

LISA「☆Takuが“PULSE”をすごく気に入ってくれてたんです。気が付いたら〈俺も歌う〉って言うから、そんなに好きだったんだなって」

☆Taku「あのLISAの歌い方は、あの瞬間でしかできないなって思ったから」

LISA「あれはリテイクしてないんです」

☆Taku「歌詞もあんまり考えずに書いてて、同じ歌詞をリピートするっていう流れになってたから、それはイヤだなって。別のヴォーカリストをフィーチャーしようという話も出たんですけど、時間もないから、じゃあ俺が歌っていい?って」

――この曲の歌詞はブックレットに掲載されないそうですが、どんな曲なんですか?

LISA「説明したくないんですよ。そういう曲あってもよくない?っていう。勝手に解釈してもらっていいんです。〈KYO〉もそうだけど、あなたが思う〈KYO〉でいいんですよっていう。もっと音楽は自由でよくない?って思うんです。こんな恋をしたとか、あんな思いをしたとか、何でもかんでも言葉で説明するのは疲れちゃうんで。フィーリングでいいよってことで歌ったテイクなんだから、じゃあ、これはフィーリングで聴いて感じてくれっていうことなんです」

――5曲目“juXTapoz”は、今回のパラレルユニヴァースというコンセプトをわかりやすくラヴソングにした曲だなと思いました。

☆Taku「僕はデモを作るときにいつも適当なタイトルを付けるんです。例えば“Toxic Sweet”は〈Sweet Bad Deadly〉だったし、1曲目の“E.T.”は〈Emotional Trap〉〈エモトラ〉って付けて渡してて。この曲は何となく〈Juxtapose〉って付けてたんです。そしたら2人がその仮タイトルから歌詞を作っていって、本当にそういう意味の歌詞になったっていう」

VERBAL「〈Juxtapose〉は、相反するものを対比させるっていう意味だからね」

☆Taku「そう。相反するものっていうのがパラレルユニヴァースに繋がるし、けっこうこのアルバムのテーマに繋がるんです。恋愛の話でもあるし、違う時空にいる人の話でもある。社会的なことを言うと、同じ場所にいないのに同じ場所にいるような感覚になるSNSがあったりとか。そういったいろんな側面の混ざってる曲が“juXTapoz”だと思っていて。作ってるときはそこまで緻密に考えてないけど、そういうものになっていったんじゃないかと思います」

 

予定調和を壊す存在

――“juXTapoz”もそうだし、“E.T.”もですが、今回は歌パートとラップ・パートでガラッと展開を変える構成が多く見られます。そこにはどういう意図があるんでしょう?

☆Taku「あまり意識してないけど、トラヴィス・スコットの“Sicko Mode”の影響は絶対受けてると思う。あと、VERBALはBPM150でもラップできるけど、BPM88とかそのへんのBPMが得意だから、“Sicko Mode”ほど過激に変わるんじゃなくて、ちょっとテンポアップしてラップして、またテンポを遅くして戻るっていうのをやりたいなって」

――J-Popというフィールドですごくスマートに実験的なことをしているなと思ったんです。“KYO-TO-KYO”も歌とラップ・パートが全然違う顔を見せます。

☆Taku「“KYO-TO-KYO”は完全に2人が違うパラレルユニヴァースにいる感じ。VERBALは普通にレコーディングして、LISAからはiPhoneでピアノと一発録りしたものをもらったんです。しかもLISAは、別の曲で書いたメロディーがここで復活してる。VERBALのラップ・パートは2つあるけど、もともと1つのヴァースだったのを僕が途中でカットして分けたんです」

――そもそも☆Takuさんは“Sicko Mode”を聴いたときに、どのような印象を持ちましたか?

☆Taku「壊したいんだなって。カタルシスのあるコード進行で泣ける感じからダークに持っていく。ディストピア好きなアメリカのいまの雰囲気が漂うトラックだなって。予定調和を壊したい人たちが増えてきてるなっていうのが世界的に見えてきていて。アメリカ人は特に予定調和を崩すのが好きだなと思っているし、僕も予定調和を崩すのが好きだから」

――日本人は予定調和を好む傾向がありますよね。

☆Taku「日本はどちらかというと流れを大切にするし、調和、和の精神があるから。でも、“Sicko Mode”は予定調和を壊していたし、m-floも予定調和を壊す存在でありたいっていう。そう言いながらも矛盾しているのが、アルバムは流れで通して聴けるようにこだわったりしてるっていう(笑)」

――今回のアルバムを聴いて、マチュアでありながらプログレッシヴだと思ったんです。m-floの〈らしさ〉と〈あたらしさ〉が共存している作品だなって。

☆Taku「そういう曲たちを気に入ってもらえると嬉しいんですけどね。アルバムを聴いてLISAは泣いてくれたんですけど」

LISA「うん。ものすごく泣いた」

☆Taku「VERBALは泣いてくれなかった(笑)」

VERBAL「いやいや、それは(笑)」

LISA「でもね、ブックレットでVERBALのSpecial Thanksを見たら、私は心がヤラれた。私の中で『KYO』のすべてが繋がったんです。だから、CDを手に取って、そこまで見て感じてほしいです」

――『mortal portal e.p.』の際のインタヴューで、☆Takuさんはこの〈第3期のm-floはカオスになる〉と言っていました。そのカオスとはどういう意味だったんですか?

☆Taku「カオスの答えはまだ内緒ですね」

――最後に、もうひとつだけ確認させてください。“KYO-TO-KYO”には「スター・トレック」のカーク船長の声で有名な矢島正明さんのナレーションが入っています。そのセリフが最後で切れているのは、今後の展開へのヒントになっているんですか?

☆Taku「何で切れちゃったんですかね? それもCD盤で聴いてもらえればわかりますよ」

m-floのニュー・シングル『HUMAN LOST feat. J. Balvin/against all gods』(rhythm zone)

 

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