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他人の子供を育ててみてはいかが?

――今回特徴的なのは、三船さんのヴォーカルに加えて女性4人の声を迎えていることだと思います。

「自分を取り巻く環境には、男もいて女もいて、いろんなジェンダー性を持つ人たちがいるのに、日本のバンド・シーンにいる人たちは妙に男性率が高い。そこを脱却して、自分の生活実態と近しい作品を作りたいと思ったんです。ミックス・エンジニアにもアジア系アメリカ人のジョナサン・ロウがいるし、多様なアイデンティティーが存在する状態を作品に取り入れたかった」

――1曲目“けもののなまえ”にはHANAさんが参加し、素晴らしいヴォーカルを聴かせてくれています。彼女はどんなヴォーカリストなんでしょう?

『けものたちの名前』収録曲“けもののなまえ”のセッション映像
 

「彼女はとあるきっかけで紹介してもらった13歳の女の子で、本当に、ただ歌うために歌っているという感じ。大人になる前の〈けもの〉のような無垢性についてのこの曲にぴったりだなと思ったんです」

――社会性を纏う以前の歌声……。

「そうそう」

HANA
本作のリリース・ツアーの初日、11月27日(水)の東京・渋谷WWW Xでの公演にも出演
 

――“けもののなまえ”も含めてアルバム全体を通して、フォーキーな色合いがより濃くなったように感じます。たとえば2曲目の“Skiffle Song”。これもまたタイトル通りフォーク色が濃厚です。

「実はこれ、7年前くらいの曲なんですが、聴き直してみて〈自分の子供が育てられないのなら/他人の子供を育ててみてはいかが?〉という、かつての自分が書いた歌詞にドキッとしたんです。ここにはある種の〈家族の解体と再編成〉が歌われていたんだな、と思って、それがいかにもフォークらしい題材にも思えた。50年代に端を発する〈アメリカン・ウェイ・オブ・ライフ〉的な核家族形態が一般的な家族のモデル・ケースにようになっているけど、それはあくまでひとつの形であって、本来いろいろな家族の形があるし、あるべきであって。

そういったテーマで今の視点から歌詞を再定義できるなと思った。元々フォークというのは、パーソナルなものというより、家族を超えたコミュニティーに向けて歌うものとして発生してきたという歴史もあるし、すごく腑に落ちたんです」

――ウディ・ガスリーが歌った数々の歌のように、元来フォークは公共的存在だった……。

「そう。砂嵐で土地を追われた人びとの話とか、ひどい仕打ちを受けたメキシコ移民の話とか、そこから生まれる共感を歌ってきた」

『けものたちの名前』収録曲“Skiffle Song”

 

ヒーローになりたくない三船がカリスマティックに振る舞う理由

――4曲目の“TAICO SONG”は打って変わって複数のリズム・レイヤーが敷かれたエスノ的サウンドに聴こえました。インディー・ロック的なものが、R&Bやヒップホップへ色目を使わず発展したらとしたらこうなっていたのでは?という一例のようにも聴こえる。その一方でアフロやサンバの要素も感じますし、これはどのように作っていったんでしょうか?

「最初はドラムのビートやケチャのような反復的リズムも、すべてTR-808みたいな音で打ち込んでいたんです。けど、全然抑揚が出なくて……(笑)。ライヴで演るならもっと躍動感がないとダメだなと思って、もっとシンプルなアレンジに変えたんです。そしたら岡田(拓郎/サポート・ギタリスト)くんから突然、iPhoneで録ったパッセージの早いアコギのリフが送られてきて。これはおもしろい!となって」

『けものたちの名前』収録曲“TAICO SONG”
 

――今年出たヴァンパイア・ウィークエンドのアルバム『Father Of The Bride』にも通じるような要素を感じました。完全に現代的な編集感覚に貫かれているんだけど、すごくフィジカル、っていう。

「ああ、確かに。岡田くんも発売当時あの作品にかなり反応してたし」

――あのアルバムは、ロック・バンドが非ロック的なものを取り入れる過程で頭で考えすぎて袋小路に入ってしまっていったような状況に対し、〈こういう突破の仕方がある〉みたいなのを提示してくれた気がするんですが、この“TAIKO SONG”にも同様の風通しの良さを感じて。

「たしかに。一方で単純な肉体性を全面に出しすぎないように、ドラムにビットクラッシャーをかけたりしてますね。なんというか……血の通ってないアフロというか……(笑)」

――そういう意味で、ちょっとデヴィッド・バーンに通じるものも感じます。

「それもわかる。ブライアン・イーノとコラボレーションをしてアフロ・ビートを取り込んでいた時期の作品は大好き。彼も最近そこへ回帰してますよね。でも僕は同時にどうしても土臭いものが好きだから、それを残しつつ、あの無機質なNYパンク〜ニューウェイヴ的要素との折衷的な質感を狙っているところがあるかも」

――7曲目の“HERO”。これは曲名からして構えが大きいなあと。ヒーロー不在を歌う詞がまたおもしろい。

『けものたちの名前』収録曲“HERO”
 

「ある時期から世の中にリアルなヒーローがいなくなってしまったなと思ったんです。音楽は特にそう。映画でも、例えばマーベル作品とか、ヒーローが劇中に登場する作品が流行っていても、多くの人がそれを作っている監督の名前は知らずに楽しんでいる。興味深い状況ですよね」

――監督の作家性より、練り上げられた世界観とかプロットに注目が行きがちですよね。でも、ROTH BART BARONにおける三船さんには、強烈にヒロイックな佇まいを感じますよ。ヒーロー願望はある?

「うーん、元々僕はそれを諦めたうえで音楽を始めた人間なんで(笑)。名声とかにも興味がなかったし」

――でも、ステージ上においてはとてもカリズマティックだと思うし、実際に多くの人もそう評していると思います。

「そうならざるを得なかったっていうのが正しいのかも。じゃないとライヴ・メンバーを7人も束ねられないというのと、でかいハコでアジカンとかを相手にできないですしね……。仮に僕等の曲を1mmも知らない人たちの前で歌うには、俺が前に出るしかないのかな、っていう(笑)」