「ダムタイプ|アクション+リフレクション」展示風景 2019年 東京都現代美術館
Photo by Nobutada Omote
DUMB TYPE
ACTIONS+REFLECTIONS
突出したメディアアーティストグループとして時代を先駆けてきたダムタイプの、結成から現在にまで至る35年間の活動を詳らかにし、そして来るべき次代をも照らし出す展覧会〈アクション+リフレクション〉が開催される。先端的なテクノロジーを駆使して同時代的な社会状況を批評的に反映させてきた彼らの試みは、ポスト・ヒューマニスティックな表現でありながらも極めて人間的な営みに根差してもいる。その内実を、ダムタイプ創設メンバーの高谷史郎とキュレーターの長谷川祐子が解き明かす。

長谷川祐子「昨年フランスのポンピドゥー・センター・メッス分館でインスタレーションを中心に新作を加えた展覧会をやっていただきましたが、その後に東京でダムタイプ展をやるにあたって、どのようにしたいという考えがあったのでしょうか」
高谷史郎「ダムタイプは1984年から活動を開始したのですが、『Pleasure Life』(1988)以前の活動は関西でしかやっていなかったということもあってあまり知られてないんです。けれどもポンピドゥー・センター・メッス分館での個展を契機に、そういった初期ダムタイプであるとか、その後の『pH』(1990-1995)や『S/N』(1992-1996)までの間をもう一度振り返ってまとめてみて、その上でどういう展示ができるのか、どういうものを年表に取り上げるべきなのか、そういうところから始まったのが今回の東京での展覧会です」
長谷川「今回の展覧会ではデータブックという大きい本があって、そこに今までのやりとりやみなさんが出された提案書とか、あるいはいろんな図面や計画とかが全部出ているじゃないですか。つまりカンバセーションも含めてプロダクションのすべてのプロセスが克明に記録されている。それを整理整頓していく中で、ダムタイプとはいったいなんだったのか、ダムタイプ的なものとはなんなのかが見えてきたと思うんです」
高谷「そうですね。それとアクチュアルな側面、今のダムタイプがどういう状態でどういう作品をプレゼントするのかということも考えました。古館健くんとか原摩利彦くんとか、そういう新しいメンバーと一緒に作業をする中で、何か全く違う新しいインスタレーションが出てきつつあるなと思っています。それはすごくいい機会だったと思います。展覧会を作ること自体がこの後自分の作品を作る時にも一つの大きな節目になったなという気がします」
長谷川「ここ5年ぐらいコレクティヴがすごく流行っていて、いろいろな美術雑誌でも特集していますよね。コレクティヴっていうのは、一人の突出した個性が何かを表現するのではなくて、いろんな人たちの考え方とか視点を、社会的な問題とか美意識も含めてリフレクションしながら一つの形にまとめ上げていくっていう意味ですよね。私はダムタイプは80年代にそれをものすごく早い形でやった人たちだと思っているんです。
高谷「今回の展覧会でも展示しているデータブックには、ミーティングのやりとりの記録がたくさん含まれています。アイデアを一つの企画書にして、グループ内でプレゼンし合って、その中からこれは面白い/面白くないっていうのを議論している過程がその本の中に入っている。そのやりとりの中でいかに自分のアイデアが面白いかっていうことをグループ内でプレゼンしているんです。それはある種の信頼関係があって、その上で自分のアイデアを通したいという欲望があって、それらが全部混ざり合ったミーティングです。そういうすごく密なやりとりの中で出てきたっていうのかな。才能とかそういうのじゃない。どちらかというとよくできた会社みたいな感じだと思っています。映画でもなんでもそうだと思うんですよ。いい作品ができる時って信頼関係があって、すごく密なやりとりをすることによって一つの作品ができていく。ポロッといいものが出てくるわけじゃなくて」
長谷川「私は今回一番言いたいことはコレクティヴにおける信頼ということだと思うんです。でも今の世の中に一番欠けているのはそれで。結局ネットの世界でもなんでも、実体のないところから言葉が出てきて、誰を信じていいのかわからない。信じる根拠がない。だから今、信頼っていう言葉が一番重要で。すごくベタな言葉ではあるんですけど。水戸芸術館で開催した《アナザーワールド・異世界への旅》(1992-1993)で仕事させていただいた時に、敵対関係は信頼関係がベースにあるということをメンバーの方に言われて。自分が相手のことをちゃんと批判したりできることのベースには信頼があると」
「ダムタイプ|アクション+リフレクション」展示風景 2019年
Photo by Nobutada Omote
「ダムタイプ|アクション+リフレクション」展示風景 2019年
Photo by Nobutada Omote
高谷「それと今回の資料を整理していて面白いなと思ったのが、『Pleasure Life』の東京公演の時に、終わってからお客さんが舞台のセットに入れるようにしてて、その写真が残っていたんですよ。つまりインスタレーションとして鑑賞できる舞台セットなんですね。せっかく作ったのに遠くの客席から見るだけじゃなくて、一つひとつのオブジェを見て欲しいという欲望があったんです。舞台が客席と完全に切り離れたものじゃなくて、立体物として実際にそこにあるんだと。彫刻物として舞台装置を作っているということなんですよね」
長谷川「みんながモニターを見ながらエクササイズしていたりとか、直接お互いに話さないで画面に出ている人と話したりとか、そういうところもメディアを通してしかコミュニケーションができない今の状況をすごく予言しているような感じで面白い。あとはやっぱり蛍光灯の使い方。あの明かりってアンビエントじゃないですか。あれはすごく新しかったですよ」
高谷「『睡眠の計画』(1984)の時も、舞台上で使う照明が舞台照明だけだったら面白くないので、写真撮影用のレフランプっていう、色温度が高くて青白い光が出るものを使ったりしていました。今まで舞台でそんなに使われてないようなものを使いたいと思っていましたね。舞台って大きな実験場だと思うんですよ。何か立体を作った時にどう照明を当てるかとか、そういうことがなんでもできるスタジオだなと。だからみんなもっと実験場として劇場を使うべきだと思います。ありものの決まりきった照明のやり方でやっていくんじゃなくて。何を持ち込んでもいいんですから」
長谷川「『pH』とか『S/N』って、お客さんが舞台上を見下ろすような、空間を取り囲むような形になっていましたよね。それもやっぱりそういうラボラトリ的なものになっていますよね」
高谷「観察の視点をお客さんに持って欲しいっていうのかな。上から見るっていうことは舞台上と客席の境目は明解になっちゃうんですけど、でもいわゆる既存の客席と舞台の関係ではなくて。観察するっていうことは『pH』の中においてはすごく重要で。社会で起こっている出来事をpHっていう14段階に分かれているアルカリと酸の濃度指数のように捉えて、14のシーンから構成、細長い舞台上で起こることをずっと観察してもらうっていう作品なんです」
長谷川「『S/N』にしても二項対立的な言葉をキーワードにされることが多いと思うんですけど、対立する言葉を基準にすることによって議論を展開していきやすいのかなって思いました」
高谷「その当時はボーダー(境界)に関して興味が尽きないところがありました。けれども今はいろいろなボーダーが溶解してきて、それが見えなくなってきつつあると思うんです。決して無くなってはいないけど、ものすごく入り組んでいて。ボーダーで明解に分けていくのが難しい時代になっている。そういうところでもう一度、昔ボーダーに関して作っていた作品を、溶け合った世界の中でどういうインスタレーションとして再構築するかっていうのが、メッスの時の僕にとっては使命でした。今回の展覧会では『LOVE/SEX/DEATH/MONEY/LIFE』(2018)という作品と『pH』のインスタレーションと、あと古橋(悌二)が亡くなった以降に作った『OR』(1997-1999)、『memorandum』(1999-2003)、『Voyage』(2002-2009)をインスタレーションにしたLEDビデオウォールで展示する作品も全部入っています。『Pleasure Life』も入っています。昔考えたコンセプトを未来から見返した時にどうなるかっていうようなインスタレーションと、アーカイバルな年表もありますし、あと『LOVERS』(1994/2001)も展示します。ダムタイプがどんな風に進んできたかが今回見てもらったらわかりますし、今まさに新しい作品を作っている次世代のメンバーも入ってきているので、そういう人たちのアイデアも見ることができるという意味では、ダムタイプをざっと見通せる展覧会になっていると思います」
高谷史郎(Shiro Takatani)
1963年生まれ。京都市立芸術大学美術学部環境デザイン科卒。1984年アーティストグループ〈ダムタイプ〉の創設メンバーとして活動に参加。以降、ダムタイプのパフォーマンスやインスタレーションの創作に携わり、映像、照明、グラフィック・デザイン、舞台装置デザインなどを手がける。主なパフォーマンス作品:「PLEASURE LIFE」(1988年初演)、「pH」(1990年初演)、「S/N」(1994年初演)、「OR」(1997年初演)、「memorandum」(1999年初演)、「Voyage」(2002年初演)
長谷川祐子(Yuko Hasegawa)
京都大学法学部卒業、東京藝術大学大学院修了。金沢21 世紀美術館を立ち上げ、現在、東京都現代美術館参事、東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科教授。最近の展覧会は〈深みへ―日本の美意識を求めて―〉(2018年、パリ ロスチャイルド館)、〈Intimate Distance: the masterpieces of the Ishikawa Collection〉(2019年、モンペリエ・コンタンポラン)、「Desire: A Revision From The 20th Century To The Digital Age」(2019年、ダブリンIMMA)など。著書に『「なぜ?」から始める現代アート』(集英社)、『破壊しに、と彼女たちは言う──柔らかに境界を横断する女性アーティストたち』(東京藝術大学出版会) など。
EXHIBITION INFORMATION
ダムタイプ|アクション+リフレクション
開催中~2020年2月16日(日)東京・清澄白河 東京都現代美術館
2019年12月21日(土)スペシャルトーク
登壇者:浅田彰/坂本龍一/高谷史郎(ダムタイプ)
https://www.mot-art-museum.jp/
EXHIBITION CATALOG

「ダムタイプ|アクション+リフレクション」展覧会図録
『DUMB TYPE 1984 2019』
東京都現代美術館(編集)
河出書房新社
ISBN: 9784309256474