正統派キャバレーの伝統を受け継ぐ、骨太で驚きのショーが高知限定で開幕!!

 明治維新以降、日本社会は東京を中心とした構造を構築してきたが、その結果として人口の1点集中をはじめとする様々な弊害が露わになり、平成以降にはそういった弊害の解消について考えられるようになり、最近になって大企業の地方都市への本社移転や、つい先日本格始動した文化庁の京都移転など具体的な行動が伴うようになってきたところだ。

 では文化面ではどうか。全国の公共ホールや美術館などを見渡すと、富山のスキヤキ・ミーツ・ザ・ワールドや静岡のSPACなど独自の意欲的な企画を打ちだす自治体や施設も増えているし、こうした動きはむしろ結構早い時期から実現しているともいえるはずだ。なかなか地元の理解を得られないこともあるだろうが、めげずに取り組んでほしい動きではある。

 そんな意欲ある文化施設のひとつ、四国・高知の高知県立美術館がこの6月に面白いショーを招聘する。ドイツ人シンガーソングライターのバーニー・ディーターが主宰する〈Little Death Club~リトル・デス・クラブ〉(以下LDC)がそれだ。

 ステージには4人編成のロックバンドが控え、そこに黒髪でまさに女王様キャラのバーニーが登場する。そして炸裂するサウンドにのせて社会への悲観や皮肉、ジェンダーや様々な差別などに向けたメッセージを織り込んだ楽曲を歌い上げる。さらにアクロバットやエアリアル、剣呑み芸、ポールダンス等々、様々な技を持つパフォーマーが登場して創り上げる強烈なキャバレー・ショー。それがLDCだ。

 日本で〈キャバレー〉と聞くとホステスがつく〈夜の社交場〉というイメージになるが、本場ヨーロッパでのキャバレーは様々なエンターテインメントを盛りだくさんにしたバラエティ・ショーだ。しかもナチス台頭以前のドイツでは、短命に終わったワイマール共和国の時代、ベルリンにはキャバレー文化が花開いた。ライザ・ミネリが主演した映画「キャバレー」はまさにその時代の終焉を描いているわけだが、こうしたキャバレー黄金期のDNAを引き継いだのがLDCともいえるだろう。そう考えてみると「キャバレー」でのライザ・ミネリのイメージがLDCでのバーニーに重なるのも当然だ。ではバーニーはどうした(どのような?)きっかけでこのLDCを創り上げたのだろう。

 「ハッキリと何年にできた、というわけではなくて自然発生的に生まれました。私がベルリンからロンドンに移ったとき、いろいろなアクロバット芸や火や剣を呑む人、ドラァグクイーンなど様々な才能を持った人に出会いました。そのうちに彼らを束ねてなにか面白いことができないかと考えるようになり、その多彩なパフォーマンスをシアトリカルに構成した〈キャバレー〉のスタイルに興味を持ちました。会場に集う人々を異次元に連れて行ってくれるようなショー。パフォーマーと観客とが非常に近く、親密になりつつ架空の世界に誘う、とそこはとてもエキサイティングで、危険な香りが漂う世界。現実と架空世界のすき間を拡げたり閉じたりして浮かび上がる美しく神秘的な一夜。ある意味サーカスのような世界を創りたかったんです」

 そう語るバーニーにはかつてのキャバレー文化を引き継ぐ理由があるという。

 「サーカスのオーナーだった祖母の血をひいていることは大きいと思います。第二次世界大戦後に、東ドイツから西ドイツへと、サーカスのキャラバンに紛れて逃れた経験を持つ人でした。ワイマール時代のキャバレーはラジカルで政治や社会を挑発し、そして楽しいパーティ文化。そういった時代の血を受け継いでいるんだと思います。ただの懐古趣味ではなくて、今だからできる新しいことを模索していますが中核にはそういったキャバレー精神が宿っていますね」

 もちろん高知での公演でもそういった挑発を含む楽曲が披露されるのだろう。

 「もちろんですがフェミニストな内容の歌は多いわね。それもユーモアを加えることで、お客さんは笑って聴きながらいろいろ考え、思いを巡らせてくれます。そして心を開いて、色々な状況や現実に目を開けてくれたらいいですね。例えば今回来日するJarrod Deweyはエアリアル(*注1)パフォーマーなのだけど、ジェンダーの壁を越えていく可愛らしいパフォーマンスを披露します。それを通して、ステレオタイプなジェンダーへの偏見や考えを打ち破る力を持っています」