ダムタイプ《2022》
撮影:高谷史郎 ©ダムタイプ 提供:国際交流基金

あとから効いてくる視聴覚体験

 ダムタイプの最新作《2022》はこれまでの作品とおなじくいくつかのモチーフといくつもの解釈可能性を前に、いつもどおりひらいている。主題のひとつにコミュニケーションがある。新型コロナパンデミックと、それにより加速度的に現働化するインターネットやソーシャルメディアがもたらす過剰な分断と接続――磁石のS極とN極を荒縄でがんじがらめにするようなこの伝達の二律背反は《2022》のモチーフのひとつである「ポスト・トゥルース」の淵源ともなる。この用語は英国が欧州連合から離脱しドナルド・トランプが合衆国大統領の座に就くことがきまった2016年に、オックスフォード大学出版局辞典部門がこの年をあらわす単語にノミネートしたことで注目をあつめ、現在にいたる時間のなかで目あたらしさこそ薄れたものの、ものの見方としてかえって定着したきらいがある。その内実をもうすこし細かくみていくと「公共の意見形成に客観的な事実よりも感情や個人的な信念に訴えるほうが影響力のある状況を説明するないしは表すもの」と同部門局は定義する。ここでいう「ポスト」にはおそらく「トゥルース」なることばの語義が客観性から情緒的なものに横滑りしたばかりか、私たちはすでに真実以後の世界にいるという二重の含意がある。そのような時空間に身を置き、ひとはいかに感受し認識し、また思考するのか。《2022》の後背地にはおそらく上のような問題の領野がひろがっている。

 おさらいすると、2022年開催の第59回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展の日本館(主催:国際交流基金)への出品作である《2022》は、フロア一面を使用したインスタレーション作品で、東西南北それぞれの角に設置したレーザー装置と並行光LEDが発する光を高速で回転する鏡に反射させ、四囲の壁面に文字や光の帯として投射するとともに、壁面中央に位置する回転式の超指向性スピーカーから音も聞こえる仕組みになっている。設置作品はその性格から場所柄こそ作品の要諦だが、ジャルディーニ公園の日本館は天井とフロア中央に開口部があるいささか特殊なつくりになっている。ダムタイプは《2022》で、階下のピロティに抜ける正方形の空間をハーフミラーで囲い、空間そのものを心太でも押し出すかのように可視化することで、フロアの開口部をなにものも充填しない空所(Void)にみたてている。