
東京芸術祭が今年も開催される。
その中でも、注目してほしい演目が10月7日、14日に開催される、耳を澄ませて音や地形を体感する吹き抜け空間コンサート〈とおくのアンサンブル〉。
サウナのための音楽や、F/T20〈移動祝祭商店街 まぼろし編 その旅の旅の旅〉でのまちなかで聴く音源作品など、人の営みの環境の中で音楽を捉えようとする作曲家、とくさしけんごさんによる、吹き抜け空間で体感するコンサートだ。
互いに離れた場所に位置する奏者同士のアンサンブルに、とおくから耳を澄ませる。東京芸術劇場やまちなかの吹き抜け空間に、16人のトロンボーンによる生音が静かに共鳴する。心地よさと覚醒が共存した音体験となるだろう。
小沼純一さんに、開催の前日に行われたリハーサルに参加していただいた。 *intoxicate編集部
音がしている。しつづけている。
音楽?
にしては、あまり変化がないような……。
それでいて、ここちよいひびき。
やわらかく、つつみこんでくるような協和音。
4か所に4人ずつのトロンボーン。
16世紀、ヴェネツィアのガブリエーリの試みをすこしだけ連想しながら、コンコースを、アトリウムを、歩く。奏者たちのいるほうからわざと顔を、耳をそむけてみたり、ちょっと上や下をむいてみたり。
〈とおくのアンサンブル The Far-From Ensemble〉。
東京芸術祭2023直轄プログラムのひとつ、らしい。
池袋、10月7日(土)はメトロポリタンプラザ自由通路で、14日(土)は東京芸術劇場アトリウムで、3回ずつ、を予定する。
音が発せられている。発せられたところにむくと、耳が、肌が、音を感じとる。むいていないところも、なにか感じている。そっちのほうをむくと、奏でているひと、ひとたちが。すこし高いところから、音・音楽がふってくる。でも……あ、もっとべつのところにも……。
音はおもしろい。耳で、肌で感じているはずだし、それだけで足りているはずなのに、あんなところに!と目で、音を発しているひとたちをみつけると、耳もまたあたらしいかたちでひらいてくる。
幅も、高さもある、さらには、地下へとつうじる穴のようなところもふくむ広い空間で、楽器の音は、こっちから、むこうから、やってくる。ながい残響は、ゆっくりと、きいているひとのからだをつつみこむ。
エリック・サティの“家具の音楽”から103年。ブライアン・イーノの『アンビエント1:ミュージック・フォー・エアポーツ』から45年。そのあいだ、そしてその後、場と音・音楽の、テクノロジーと音・音楽の、ひとと音・音楽の、あいだにあるものは変化しつづけてきた。耳をかたむける音・音楽、耳をかたむけるべき音・音楽から、きいてもきかなくてもいい音・音楽がでてきて、音・音楽があってもなくてもあたりまえ、のようにもなって。
〈とおくのアンサンブル〉は、ひとが行き来するところで奏でられる。奏でられ、きかれる、また、視界にはいることが、いちおう、めざされている。でも、いちおう、だ。通り過ぎたっていい。ちょっと耳にはいってもいいし、はいらなくてもいい。立ちどまってきいていると、ひとつの音、音響がつづいているようで、でも、すこし、変化している。変化している、みたいだ。
どこでやってるんだろう?
こっち? あ、あそこでも?
フライヤーには、もっと、あるように書いてあるけど……なかなかみつからない……あ、あんなとこ?
街を、ターミナル駅のコンコースを、商業施設の一角を……歩きながら、平板なスピーカーからとはちょっと違ったひびきが耳をかすめることがある。音の輪郭が、ときにはっきりしたり、ときにあいまいになったりしているうちに、視界に、音を発しているひとが、ひとり、ふたり、数人、はいってくる。そのときだけ、わずかな、空間だけの邂逅が。
そういうのとは、でも、〈とおくのアンサンブル〉は違う。意図的に、あるところで、ある時間に、ほぼ15分奏でられる、音・音楽の〈作品〉。
コンサートで座席について、ひとところで前方をみつづける居心地の悪さ。どうして、ここからうごけないんだろう、ちょっとむこうでは、また違ったひびきがしているはずなのに……。
変化のすくなさは、ドローンのようでもあって。
そう、アンビエントとは、何かべつの音が加わったり減ったりする下地のようなもの、でもある。ひとのすくないコンコースやアトリウムでは、ちょっとしたはなし声やエレヴェータのモーター音、足音、それに、さまざまな音が屋外からすこし、というくらいだけれど、もっとひとの往来が多かったり、雨が降ってきたり、になると、〈作品〉はもっと豊かになる。
フライヤーにはこうある――
〈耳を澄ませる/音や地形を体感する/吹き抜け空間コンサート〉
とくさしけんごがコンセプト、演出、作曲を手掛ける。『MUSIC FOR SAUNA』、ドラマ『サ道』劇伴、TV、CM、などを多数手掛ける作曲家だ。
あなた(たち)の声や足音や、〈きく〉ことも作品のなかに。あなたがそこにいるときだけしかなりたたず、あなたしか感じることのできない音、音楽、音響、場、の作品が。
[追記]
メトロポリタン自由通路での1回目の演奏に足をはこんでみる。
ぽー、っと、ひびくロングトーン。
チューニング? とおもわせながら、それはもう作品、音楽のなか。
すこし高いフロアに4人ずつ4グループが、それぞれ、発音し、きき、ききあい、応答する。場がエコーする。
通りすぎてゆく、大きな笑い声。
パトカーのサイレンが、金管のひびきに、ポルタメントに、たまたま、シンクロする。
やわらかな、金管のひびきは、やわらかで、すこしとぼけた、それでいてときに金属のかたいひびきも、ときに高い倍音も、ときに爆撃機の降下のようでもある。とはいえ、高いところにならぶ奏者たちの姿は、ヨーロッパ中世末期、ハンス・メムリンクの天使の奏楽を記憶によみがえらせもして。
コンコースにたちどまり、しばし、音に、音楽に耳をかたむけ、音楽・音楽になっているひと、かなり。
EVENT INFORMATION
東京芸術祭2023直轄プログラム FTレーベル
とおくのアンサンブル
料金:無料・予約不要
上演時間:15分(予定)
2023年10月7日(土)メトロポリタンプラザビル自由通路(JR池袋駅) *終了
開演:13:00/16:00/20:00
2023年10月14日(土)東京芸術劇場 アトリウム
開演:14:30/17:00/19:30
■もっと楽しむ
とくさしけんごの〈秋の池袋を陽気にさまよう音楽10選〉公開
https://tokyo-festival.jp/2023/special/3/
PROFILE: とくさしけんご

作曲家。1980年、青森生まれ。『MUSIC FOR SAUNA』シリーズ、ドラマ『サ道』劇伴、その他、TV、CM、ゲーム、映像、展示などのための音楽多数。『ととのうクラシック』など、クラシック音楽のコンピレーションシリーズ〈新・クラシック セレクション〉の監修もつとめる。第20回日本現代音楽協会作曲新人賞、第10回東京国際室内楽作曲コンクール第1位受賞。F/T19〈移動祝祭商店街〉、F/T20〈移動祝祭商店街「その旅の旅の旅」〉では、その場所に元々ある音と共存し、まちの環境、聴覚に補助線を入れるような音楽プロジェクトを展開した。