現代美術はツッコんでナンボ!?

 美術館やギャラリーに展示された謎のオブジェを前に、これってどう見たらいいの……?と困惑した経験は、誰しもあるのではないだろうか。よく「現代美術は難しくない」という人がいるが、それは詭弁だ。現代美術は難しい。その難しさを読み解いてこそ、真のおもしろさや価値がわかる、一種の謎解きゲーム的な側面があるのだ。

パピヨン本田 『常識やぶりの天才たちが作った 美術道』 KADOKAWA(2023)

 そんな少々やっかいな現代美術の格好のガイドとなるのが本書。現代美術の父〈マルセル・デュシャン〉から、もっか神出鬼没中の覆面フェミニズム・テロリスト集団〈ゲリラ・ガールズ〉まで、作家23人をピックアップ。「具体的には何をしたの?」「男性用小便器をひっくり返してそのまま展示しました」「何考えてんだこいつ!」といった具合に、奇人変人列伝の体で彼らの「非常識さ」をいじりつつ、その作品がなぜ美術史的・社会的にすごいのか? 小学生にもわかるポップな言葉と視点で、おもしろおかしく解説してゆく。

 これまで現代美術を文章で語ろうとすると、どうしても理屈っぽくなって、アナーキーな破壊力が伝わりづらいジレンマがあった。その点、ギャグマンガを交えた本作の手法は、これ以上ないほど伝わりやすい。なぜなら現代美術とは作品を素直に見るものではなく、ツッコんでナンボ。受動的ではなく主体的に意味を読み解いてこそ、おもしろさが感じられるものなのだ。

 そんな本作のメッセージは常識にとらわれない発想が必要なこれからの時代、〈アートガイド〉という枠を超えて、突き刺さるものがある。

 〈ヨゼフ・ボイス〉で卒論を書いた筆者的には、ボイスの提示した「美術で社会を変える」アクティビストとしての作家性が、〈バンクシー〉や〈トレイシー・エミン〉に受け継がれているという説に目からウロコ。〈シンディ・シャーマン〉の自撮り写真に隠された引用を読み解く悦楽は、考察ブームの今だからこそ、その先駆性が感じられるはずだ。